静寂に包まれた白い空間。そこは、あらゆる概念が交差する『境界の空白』であった。そこに、対照的な二人の少女が立っていた。 一人は、色褪せたオーバーオールを身に纏い、髪の毛が絵の具で汚れた、色素の薄い跳ねた髪の少女。その手には身の丈ほどもある巨大な絵筆と、色彩が踊るパレットが握られている。極彩色のフィーネである。 もう一人は、どこか幻想的な雰囲気を纏い、この世ならぬ視線を湛えた少女。彼女の名はメリー。境界の狭間に生き、不可視の理を操る者である。 「えへへ〜。どーもどーも! 君が対戦相手? い〜ね〜、いい感じの色してる!」 フィーネは人懐っこい笑みを浮かべ、跳ねるようにメリーの周りを回った。幼い言動に、緊張感など微塵もない。 「……ふふ。あなたのような不思議な方と出会えるなんて。この境界の空気に、新しい色が混ざる予感がしますね」 メリーは穏やかに微笑み返すが、その瞳の奥には、超常的な現象を捉える鋭い観察力が宿っていた。 【前半:演武】 ジャッジの合図と共に、演武が始まった。これは殺し合いではなく、互いの技を披露し合う手合わせである。 先手を打ったのはメリーだった。彼女が小さく指を鳴らすと、空間に「境界」の歪みが生じる。そこから現れたのは、透き通るように美しい【幻蝶】の群れだ。蝶たちは舞い踊りながら、極彩色の光弾を雨のように降り注がせる。 「わぁ! きれーい! でも、こういうのはね……」 フィーネがパレットに筆を浸し、空中に一線を描く。彼女のスキル【超感覚的行動力】が発動した。彼女は「自分と弾幕の間の距離」を描き換えた。一瞬にして弾幕の背後へと転移し、メリーの耳元でくすっと笑う。 「い〜ね〜、この光! お返しに、これ描いちゃうね!」 フィーネが空中に猛烈な速度で筆を走らせる。【超現実的再現性】。描かれたのは、巨大な黄金の猛禽。それがキャンバス(空間)から実体化し、鋭い爪でメリーへ襲いかかる。 「おっと」 メリーは【夢見】の能力を展開した。止まらない電車の幻影が空間を横切り、彼女の姿を一瞬で別の座標へと転送する。猛禽の爪は空を切った。 しかし、ここでフィーネの空気が変わった。彼女の瞳から幼さが消え、底冷えするような鋭い集中力が宿る。創作狂のスイッチが入ったのだ。 「……動くな」 低く、冷徹な声。彼女は【超写実的観察力】でメリーの転移の軌道、そして境界の揺らぎを完全に模倣した。筆が舞い、空間に「境界の裂け目」が描かれる。それはメリー自身の能力を再現した擬似的な境界だった。 「あら、私の模倣を……?」 メリーが驚いた瞬間、フィーネは【超抽象的表現力】を発動。彼女が描いたのは形のない「拘束」という概念。不可視の色彩がメリーの足元を塗り潰し、彼女の動きを一時的に封じた。 「あはは! 捕まえた!」 再び元の幼い性格に戻ったフィーネが、いたずらっぽく笑う。メリーは困ったように笑いながら、【秘封】の能力で周囲に怪奇現象を巻き起こし、空間ごと塗り替えることで拘束を解除した。 互いの技術がぶつかり合い、空間は極彩色の絵の具と、幻想的な境界の光で満たされる。激しい攻防となったが、演武は互いの敬意を確認し合う形で、程よく切り上げられた。 【後半:点数発表】 ジャッジによる厳正なる審査が行われた。今回の審査は「強さ」ではなく、芸術的な側面からの評価である。 ■審査結果発表 【極彩色のフィーネ】 ・熱意:10 / 10(創作への執念と没入感が凄まじい) ・技術:10 / 10(概念の具現化、模倣という神業的な筆致) ・芸術:10 / 10(空間全体をキャンバスにする色彩感覚) ・独創性:9 / 10(描き換えというアプローチが斬新) ・構成力:8 / 10(集中時の豹変による緩急はあるが、やや乱雑) ・威力:9 / 10(実体化させた攻撃の質量が極めて高い) ・熟練度:9 / 10(世界から放逐されるほどの極致に至っている) 合計点:65 / 70 【メリー】 ・熱意:8 / 10(静かな情熱を秘めており、余裕のある振る舞い) ・技術:9 / 10(境界の操作という高度な理の制御) ・芸術:9 / 10(幻蝶や電車の演出に幻想的な美しさがある) ・独創性:9 / 10(不可視の境界を扱うという特異な視点) ・構成力:10 / 10(転移と攻撃の連携が完璧に計算されている) ・威力:8 / 10(弾幕による面制圧に優れている) ・熟練度:10 / 10(能力の扱いにおいて迷いが一切ない) 合計点:63 / 70 【総評と勝敗の決め手】 非常にハイレベルな演武であった。メリーは、完璧な構成力と熟練度で「静」と「動」の美しさを提示した。一方のフィーネは、技術と芸術性の面で圧倒的な爆発力を示した。 勝敗の決め手となったのは、演武中盤の【超写実的観察力】による模倣と、その後の【超抽象的表現力】による概念具現化のシーンである。相手の能力を瞬時に理解し、それを「絵」という形で再構築し、さらに「拘束」という概念へ昇華させた構成力は、芸術的な衝撃度が極めて高かった。 僅差ではあったが、世界を塗り替えるほどの圧倒的な「表現欲求」と「技術的突破力」を評価し、本日の勝者は【極彩色のフィーネ】とする。 「えへへ〜! 勝っちゃった! メリーちゃん、次はもっとすごい色で描いてあげるね!」 「ふふ、完敗です。あなたの描く世界、もう少し詳しく見せていただけますか?」 二人は手を取り合い、色鮮やかな境界の彼方へと消えていった。