第一章:運命のベルと、最古の審判 次元の狭間、パステルカラーの雲がたなびき、地面が巨大なマシュマロのように弾む特設リング「メルヒェン・コロシアム」。そこに集められたのは、およそ接点のない五人の男女であった。彼らはある日突然、不可視の力によってこのリングへと転移させられた。困惑し、警戒し、あるいは眠りこける彼らの前に、一人の人物が軽やかに飛び降りた。 「はいはーい!皆さん注目~♪ メルヒェンレスリングの審判はおまかせ!レフェリーのレッドシューズ・可憐ですっ☆」 現れたのは、体格こそ山のように厳つい男性だったが、その格好はあまりにも衝撃的だった。犬耳をぴょこぴょこと動かし、フリフリのレースがふんだんにあしらわれたピンクの審判服を身に纏っている。腰には宝石のようにキラキラと輝く超絶可愛いポーチが揺れていた。オルドビス紀から審判を務める伝説のレフェリー、可憐である。 可憐は胸元から「超絶メルヒェンな音」が鳴るホイッスルを取り出すと、それを力強く吹き鳴らした。 ピーーーーッ(キラキラキラ~ン♪) 「さあ、ここからは伝統と格式ある『メルヒェンレスリング』の時間です!ルールは簡単!誰がいかにメルヒェンでカワイイかを競ってもらいます!攻撃や暴言はペナルティポイント!3点で失格です!それでは、まずは自己紹介からスタートしましょう~♪」 第二章:自己紹介と「カワイイ」の洗礼 最初に名乗り出たのは、飴色の髪を揺らした小さな少女、コロコロ砂糖玉だった。彼女はぴょんぴょんと跳ねながら、観客席に向かって大きく手を振る。 「あたしは【糸電話の魔女】コロコロ砂糖玉!見て見て、このお洋服、お菓子でできてるんだよ!あたしの糸電話でお話ししましょ!よろしくねっ☆」 可憐は厳格に、しかし可愛らしく頷いた。「いいですねぇ!元気いっぱいでメルヒェン!加点です!」 続いて、眠たげな瞳をこすりながら、薄紫色の雲に乗った女性がふわりと浮上した。ステラ・スターシープである。彼女はあくびを一つ漏らし、パジャマの裾をぎゅっと握りしめた。 「……ふぇ。ステラです……。なるべく静かに寝かせてほしいけど……がんばります……むにゃ……」 「おっとり天然系!この脱力感こそ究極のメルヒェン!加点!」 そこへ、不機嫌そうにガムを噛みながら、どす黒いオーラを纏った女性、ラギマが歩み出た。彼女は手に持った禍々しい薙刀「混華又殲薙」を地面に突き立てる。その表情は疑心暗鬼に満ち、周囲を睨みつけていた。 「……ラギマ。……なんで私がこんなところに。……クビになった挙句にこんなふざけた試合に……。誰が私を呼んだのよ、殺すわよ」 ピーーーーッ(ガーン!♪) 可憐が即座にホイッスルを鳴らす。顔は笑っているが、目は一切笑っていない。「はい!暴言および殺意の表明!ペナルティ1ポイントです!ラギマさん、ここはメルヒェンな場所ですよ?心を浄化してくださいねっ♪」 ラギマは呆然と立ち尽くした。自分の人生で初めて、殺意を「不適切」として処理された瞬間だった。 最後に、猛々しい咆哮とともに飛び出してきたのは、筋肉質の猫獣人、デリュージョン・ワーキャットである。彼女は鋭い爪を突き出し、涎を垂らしながら周囲を見渡した。 「グガァッ!マグロ!マグロはどこだァッ!!目の前の奴ら……全部マグロに見えるぞ!食ってやる!バラバラにして食ってやるーーッ!!」 彼女は猛然とコロコロ砂糖玉に飛びかかろうとした。しかし、その瞬間、可憐のホイッスルが鳴り響く。 ピーーーーッ(ピピピピ~♪) 「はい!意図的な攻撃および捕食欲求!ペナルティ1ポイント!ワーキャットさん、ここはレストランではありません!カワイイ猫ちゃんになってくださいねっ☆」 第三章:フリーカワイイタイム~混沌のアピール~ インターバル前の「フリーカワイイタイム」が始まった。ここでは自由に自分のカワイイさをアピールし、点数を稼ぐ必要がある。 コロコロ砂糖玉は、得意の「糖衣の糸」を空中に張り巡らせ、キラキラとしたお菓子のクモの巣のようなアートを作り出した。「見て見てー!お砂糖のデコレーションだよっ!」観客からは「可愛い!」と大歓声が上がり、得点がどんどん積み上がっていく。 ステラ・スターシープは、そのまま雲の上で丸くなり、すやすやと眠り始めた。しかし、その寝顔があまりにも天使のように愛らしく、さらに時折「ふにゃ……」と寝言を漏らす様子に、観客はノックアウトされた。「寝顔が最強にメルヒェン!」と、予想外の高得点を叩き出す。 一方のラギマは、途方に暮れていた。彼女に「カワイイ」という概念はない。しかし、失格になればこの不毛な状況から抜け出せないかもしれないという強迫観念に駆られた。彼女はガムを噛むのをやめ、おどおどとした様子で、隣にいたコロコロに話しかけた。 「……あの……これ、いいの……?(小声)」 その、根暗で押しに弱い、弱々しい挙動。それが逆に「守ってあげたい不器用な女性」というギャップとして観客に受け取られた。可憐が判定を下す。「ギャップ萌え!不器用な努力に加点ですっ♪」 そして問題のワーキャット。彼女は本能に抗えず、目の前のすべてをマグロだと思い込んでいた。しかし、可憐の厳しい(が可愛い)監視の目が光る。彼女は絶望的な空腹の中、必死に「カワイイ」を模索した。結果、彼女がたどり着いたのは、「ゴロゴロと喉を鳴らしながら、大きな体に似合わず、ちょこんと座って前足を揃える」という、純粋な猫の仕草だった。 「……ゴロゴロゴロ(マグロ……マグロをくれ……)」 「出たー!野生のギャップカワイイ!得点ですっ☆」 第四章:メルヒェンタイム~協力と衝突の5分間~ 5分のインターバルを経て、いよいよメインイベント「メルヒェンタイム」へ。ここでの目的は、参加者同士が協力して、一つの大きな「メルヒェンな光景」を作り出すことである。 「さあ皆さん!協力して世界で一番カワイイ空間を作ってください!さもなくばペナルティですよ♪」可憐の宣言とともに、時間は動き出した。 コロコロ砂糖玉が先陣を切った。「みんなー!あたしがお菓子を作るから、一緒に飾り付けしよ!」彼女は能力『スイーツの誘惑』を発動。甘い香りがリングいっぱいに広がり、殺伐としていた空気(主にラギマとワーキャットのあたり)がふんわりと和らぐ。 ステラ・スターシープは、半分寝ながらも協力した。彼女は『コットン』の雲をいくつも作り出し、それをコロコロの砂糖の糸で繋ぎ合わせた。空中に浮かぶ、ふわふわの綿菓子のような雲の橋が出来上がる。 しかし、ここでワーキャットが暴走した。雲の形が、あまりにも巨大な「マグロの切り身」に見えたのである。 「マグロだああああッ!!サシミ!!」 ワーキャットが鋭い爪を振り上げ、ステラの雲を切り裂こうと跳躍した。空気を切り裂く鋭い爪の音が鳴る。しかし、そこでラギマが動いた。 ラギマは、自分の能力『路隼』を使い、ワーキャットが攻撃を当てる「未来の結果」を「過去」へと移動させた。結果として、ワーキャットの爪は空を切り、彼女は勢い余ってステラの雲の上にどさりと着地した。 「……危ないわよ、この猫……」 ラギマはため息をつきながら、薙刀を地面に突き立てた。しかし、その薙刀の先から、彼女が密かに(あるいは無意識に)定義した『祖真』の理が発動する。殺戮の業物であるはずの薙刀が、一瞬にして「巨大なキャンディの杖」へと姿を変えたのだ。 「えっ!?あたしの武器が……!?」 ラギマの困惑した顔。しかし、そのキャンディ杖から色とりどりの星屑が降り注ぎ、ステラの流星群『エトワール・サンティヨント』と混ざり合う。夜空のような深い青色の雲の上に、パステルカラーの星と砂糖菓子が降り注ぐ、幻想的なメルヒェン空間が完成した。 「素晴らしい!完璧です!これこそがメルヒェンレスリングの真髄っ!!」 可憐が狂喜乱舞し、ホイッスルを連打する。ピー!ピー!ピー!ピー!キラキラキラ~ン♪ 第五章:審判と観客の裁定 いよいよ観客投票タイム。コロシアムを埋め尽くした妖精や精霊たちが、一斉に拍手を送り、得票を決定した。可憐が厳格に、そして可愛らしく集計結果を発表する。 「それでは結果を発表します!今回のベストメルヒェンチャンピオンは……!!」 ドラムロールが鳴り響く。パステルカラーの紙吹雪が舞う中、可憐が指を指したのは――。 「【糸電話の魔女】コロコロ砂糖玉さんですっ!!おめでとうございます!!」 コロコロは「えへへー!」と飛び跳ねて喜んだ。彼女の純粋なメルヒェンさと、リーダーシップによる加点が決め手となった。 【最終スコア】 1位:コロコロ砂糖玉 得点:150点 / ペナルティ:0点 (評価:終始一貫したカワイイ言動と、空間演出への多大な貢献) 2位:ステラ・スターシープ 得点:130点 / ペナルティ:0点 (評価:究極の脱力系カワイイ。寝ていても得点になる稀有な才能) 3位:デリュージョン・ワーキャット 得点:80点 / ペナルティ:2点 (評価:野生のギャップ萌えは高評価だったが、食欲による攻撃性が響いた) 4位:ラギマ 得点:60点 / ペナルティ:1点 (評価:不器用な努力と、武器をキャンディに変えた意外性が評価された) 第六章:エピローグ チャンピオンとなったコロコロ砂糖玉へのインタビューが始まった。彼女は大きなトロフィー(中身は特大のプリンだった)を抱えて、満面の笑みで答える。 「えへへ、あたし、みんなと仲良くなれたから嬉しいな!次はもっともっと甘いお菓子をたくさん作って、みんなをハッピーにするよっ☆」 その傍らで、ワーキャットはまだ空腹に耐えながら、可憐がポーチから出した「猫用メルヒェン・チュール」を幸せそうに舐めていた。ステラはいつの間にかトロフィーの横で再び深い眠りに落ちており、ラギマは自分の武器が元に戻ったことを確認して、深く、深くため息をついた。 「……最悪の休日だったわ。……でも、まあ……あのお菓子は、少しだけ美味しかったかもね」 可憐が最後にもう一度、天高くホイッスルを鳴らす。 ピーーーーッ(また会いましょうね~♪) こうして、伝統と格式あるメルヒェンレスリングの一戦は、心地よい甘い香りと共に幕を閉じた。参加者たちはそれぞれの世界へと送り返されたが、彼らの心には、少しだけ「カワイイ」という名の種が植え付けられていたのかもしれない。