第一章:静寂の墓標と臨界の胎動 宇宙の深淵、光さえも迷い込む小惑星帯「アステロイド・ベルト」。そこは無数の岩塊が静かに、しかし残酷に漂う死の領域である。大気はなく、音は伝わらず、ただ絶対零度の静寂が支配していた。気密服すら持たぬ者が足を踏み入れれば、肺の中の空気は一瞬で沸騰し、意識を失う前に凍りつく。ここでは、地球上の常識や直感は一切の価値を持たない。前後左右の概念は崩れ、わずかな慣性の狂いが、数キロメートル先にある巨大な小惑星への特攻を意味していた。 その真空の闇に、二つの異質な存在が対峙していた。 一人は、白銀の髪をなびかせ、空中に静止する青年。その名は白神。彼がそこに立っているだけで、周囲の空間は「結末」を予感させる重苦しい静寂に包まれていた。彼は戦うためではなく、ただそこに在るだけで、万物の終着点となる具現者。彼の瞳には、数多の文明が滅び、星々が燃え尽きる「物語の終わり」が映っていた。 対して、その視線の先に浮かぶのは、黄金のオーラを身に纏った運命神。彼の周囲では、因果の糸が目に見えるほどの激しさで絡み合い、火花を散らしている。彼は戦いの中にのみ己の存在証明を見出す狂戦士であり、同時に世界の筋書きを書き換える権能を持つ神であった。 「……終わらせに来たか」 運命神が口を開いた。真空の中であるはずが、彼の声は概念として白神の意識に直接突き刺さる。その口角は吊り上がり、瞳には狂気的な歓喜が宿っていた。 「いいぜ。俺の物語を終わらせられる奴がこの宇宙に一人でもいるなら、俺は喜んでその牙に喉を差し出そう。だが、その前に十分すぎるほどの絶望を味わわせてやる」 白神は無機質な表情のまま、静かに答えた。 「お前の物語は、あまりに長く、そして騒がしい。運命神よ。物語には必ず裏表紙が必要だ。お前という贅沢な章を閉じ、静寂へと回帰させよう」 その瞬間、運命神の全身から爆発的な黄金の圧力が放たれた。スキル【戦闘狂】の発動。秒単位で上昇し続けるステータスが、周囲の小惑星を衝撃波だけで粉砕していく。戦いの火蓋が切られた。