第一章:再会の氷原と紅蓮の風 かつて、魔王軍の若き将軍候補として切磋琢磨し、互いに「どちらが真に強いか」を決定づける約束を交わした二人の男がいた。【氷結公】キュオルと【灼熱公】ラオル。極北の氷原と南方の火山、正反対の属性を持ちながら、彼らは魔族としての矜持を分かち合う唯一の好敵手であった。 約束の地は、二人が初めて共同任務に就いた、峻厳な山脈の頂。頂上は常に猛吹雪が吹き荒れ、同時に地底から噴き出す熱気が渦巻く、不安定で残酷な地形であった。そこに、静寂を纏った軍服の男、キュオルが立っていた。一本の角を凛と立て、冷徹な瞳で空を眺めている。 「……遅いな。相変わらず、貴様の時間感覚というものは、その乱雑な戦い方と同様に不確かだ」 キュオルが淡々と呟いた瞬間、背後の空間が爆発的に燃え上がった。轟音と共に現れたのは、上裸に軍服を羽織った大男、ラオルである。二本の角を誇らしげに突き出し、口角を吊り上げて不敵な笑みを浮かべていた。 「ひゃはは! 待ちくたびれたか、キュオル! 相変わらず堅苦しい格好をしてやがるな。そんな窮屈な服を着ていては、血が滾らねえぞ!」 ラオルの目は笑っていなかった。その瞳には、魔族としての残酷な本能と、最強を求める飽くなき渇望が宿っている。しかし、その声には久方ぶりに会う友への、歪んだ親愛が込められていた。 「血が滾るなどという低俗な表現は、貴様くらいで十分だ。俺はただ、約束を果たすためにここに来た。どちらが上か、どちらがこの魔族の頂にふさわしいか。それを決めるだけだ」 キュオルの声は冷たいが、その内側には静かな興奮が渦巻いていた。冷徹な彼が、唯一「期待」という感情を抱く相手。ラオルの豪快さと、その裏にある底知れない残酷さ。それを正面からねじ伏せ、屈服させることこそが、キュオルの矜持を充足させる唯一の手段であった。 「いいぜ。お前のその氷のような面を、絶望で溶かしてやるよ。思い出の場所で、最高の殺し合いをしようじゃねえか。なあ、キュオル!」 「ふん……。口の多さだけは相変わらずだな。だが、その饒舌さが絶叫に変わるまで、時間はかからぬだろう」 二人の間に、張り詰めた緊張感が走る。氷の冷気と炎の熱気がぶつかり合い、周囲の空気が激しく鳴動し始めた。もはや言葉による挨拶は不要だった。彼らは互いの存在を魂で認め合い、最強であることを証明するための儀式へと足を踏み入れた。