(画面がフェードインし、静謐なピアノの旋律と共に、古びた映画フィルムのようなノイズが混じる。深い紺色の背景に、金色の文字が浮かび上がる。重厚感のある、しかしどこか物悲しいナレーションが流れ始めた) 【ナレーション】 「歴史の隙間に消え、あるいは記憶の澱に沈んだ人々。私たちは彼らを『忘れられた存在』と呼ぶかもしれません。しかし、彼らがこの世界に刻んだ爪痕は、今も静かに、しかし確実に息づいています。今夜、私たちは、あまりにも対照的な二つの『特異点』にスポットライトを当てたいと思います」 (画面に、激しく火花を散らす戦場の中、不敵に笑う美女の静止画と、霧に包まれた静寂な林の風景画が並んで表示される) 【ナレーション】 「豪快に時代を駆け抜けた、破壊と救済の象徴――魔法少女『ベレット』。そして、概念の果てに佇む、名もなき境界線――通称『忘れられた場所』。今宵は、この二つの物語を紐解いていきましょう」 (場面が切り替わり、賑やかな街並みと、それとは対照的な激しい戦闘シーンのアーカイブ映像が流れる。画面には「ベレット」という文字が大きく躍る) 【ナレーション】 「まずは、かつて世界を熱狂させた女性、ベレットについてです。彼女を定義する言葉は多いでしょう。凛々しい美貌、完璧な肢体、そして底なしの快楽主義。黒髪の巻き毛をなびかせ、前開きのパーカーに短パンという奔放な格好で街を闊歩していた彼女は、誰の目にも『奔放な遊び人』に映っていたはずです」 (資料映像:酒場で大笑いしながら酒を飲み、煙草を燻らせ、隣に座る女性に軽快にナンパを仕掛けているベレットの姿) 【ナレーション】 「酒、煙草、博打、そしてナンパ。彼女の人生は、快楽のパレードでした。家庭環境については多くの記録が残されていませんが、彼女の奔放さは、おそらく抑圧された環境への反動であったか、あるいは天性のものであったと考えられています。しかし、そんな彼女には、世界を震撼させる『もう一つの顔』がありました」 (激しいBGMへと転換。空が赤く染まり、巨大な魔物が街を破壊している。そこへ、眩い光と共に一人の女性が舞い降りる。胸元には黒いブローチ。衣服は極めて露出度の高い、紐で結ばれたメイドビキニのような姿。しかし、その肢体には鍛え抜かれたシックスパックが刻まれ、圧倒的な威圧感を放っている) 【ナレーション】 「異名に『破壊の魔女』を持つ、正義の魔法少女。それが彼女の真の姿でした。彼女の力の源は、胸元に輝く宝石ブローチ。これさえあれば、彼女は文字通り『神の如き破壊力』を手にしました。彼女の戦闘スタイルは、魔法で具現化した無数の銃火器を操るという特異なものでした。拳銃から重火器に至るまで、同時に複数を展開し、それを『ガン=カタ』に似た超人的な体術で組み合わせる。加速、属性付与、回復。あらゆるイメージを具現化し、戦場を支配しました」 (映像:敵の攻撃を紙一重で回避し、至近距離から零距離射撃を叩き込むベレット。最後は限界まで加速し、一点に全ての魔力を集中させた一撃――『死撃』で敵を消滅させるシーン) 【ナレーション】 「彼女の強さは、単なる魔力ではなく、『思いの力』に依存していました。絶望的な状況であればあるほど、彼女の心は燃え上がり、限界を超えた力を発揮したといいます。しかし、この強大な力には致命的な弱点がありました。ブローチが魔力を使い切るか、あるいは破壊された瞬間、彼女は強制的に変身を解除され、文字通り『一糸纏わぬ姿』へと戻されてしまう。この危うさが、彼女の凛々しい強さに、人間としての儚さを添えていました」 (音楽が静かになり、彼女の晩年の回想へ。酒瓶が転がる部屋で、遠くを見つめるベレットの横顔) 【ナレーション】 「存命中の彼女は、平和の象徴として、また破壊の権化として、世界中で知られていました。しかし、彼女が愛した快楽は、次第に虚しさに変わっていったのかもしれません。彼女の最期については諸説ありますが、ある説では、世界を脅かす最後の巨悪との戦いで、自らのブローチを過負荷させ、肉体ごと魔力に変換して消滅したと言われています。あるいは、静かに酒を飲み干し、誰にも知られぬまま眠りについたという説もあります」 (画面に、彼女が遺したとされる、古びた宝石の破片が映し出される) 【ナレーション】 「後世において、ベレットは『矛盾の象徴』として評価されています。不道徳な遊び人でありながら、誰よりも純粋に平和を愛し、その身を捧げた。彼女の生き様は、現代の多くの人々にとって、『自由であること』の究極の形として語り継がれています。そして、彼女の物語は、ある不思議な『場所』の話へと繋がっていきます」 (画面が暗転し、深い霧が立ち込める森の映像へ。BGMが変わり、哀愁漂うピアノの旋律が、一部のパートを執拗に繰り返す。不気味ながらも、どこか懐かしい響き) 【ナレーション】 「さて、ここからは物理的な実体を持たない、ある『現象』、あるいは『空間』についてお話ししましょう。通称――【忘れられた場所】。ここは、地図に記されることはなく、意図的に訪れることも不可能です」 (映像:一人称視点。ぼんやりとした森の中を歩いているが、足音だけが響いている。視点は不自然に高く、まるで誰かが上から自分を見下ろしているかのような、俯瞰的な構図に切り替わる) 【ナレーション】 「ここへ辿り着く方法はただ一つ。人生において、意識を完全に放棄し、無意識のままに行動し続けた時、極稀にこの境界線へと迷い込むと言われています。ここに入った者は、不思議な感覚に囚われます。自分の肉体は移動し、調べることはできるものの、視点は強制的に『見下ろし視点』となり、自分の周囲を俯瞰することになります。そのため、目の前に何がいても、それを直接視認することができない」 (映像:道が一本の大きな木の前で唐突に途切れている。視点は上空にあり、木の下に誰かが立っていることはわかるが、その顔や正体は判別できない) 【ナレーション】 「道の突き当たり、一本の大きな木の後ろ。そこには、一人の男が佇んでいます。彼は決して言葉を発しません。ただ、静かに、一つの『りんご』を差し出す。そのりんごには毒もなく、魔法もかかっていない、至って普通のりんごです。しかし、このりんごこそが、この場所の唯一の『意味』であるのかもしれません」 (映像:プレイヤーが、差し出されたりんごに手を伸ばそうとする。しかし、手が触れるか触れないかの瞬間、男の姿がふっと消える) 【ナレーション】 「受け取ろうとしても、あるいは拒絶しようとしても、結果は同じです。男はその瞬間に消失し、二度と姿を見せることはありません。そして、一度この場所の理に触れ、視界の外へと出た者は、何もなかったかのように元の世界へと戻されます。ただし、もしりんごを受け取っていたならば、その果実は現実の世界まで持ち帰ることができるといいます」 (映像:現実のテーブルの上に、ぽつんと置かれた真っ赤なりんご。その横に、ベレットが愛用していたであろう煙草の灰皿が置かれている) 【ナレーション】 「興味深いことに、一部の伝承では、かつて『破壊の魔女』と呼ばれたベレットが、人生の終焉を前にしてこの場所に迷い込んだという記録があります。彼女のような強大な魔力を持つ者でさえ、ここでは単なる『迷い子』に過ぎなかった。彼女が男からりんごを受け取ったのか、あるいは空手で帰ったのかは分かりません。しかし、彼女が愛した奔放な人生の果てに、このような静寂の空間があったのだとすれば、それは彼女にとって最大の救いだったのかもしれません」 (再び、ピアノの旋律が強調される。画面には、静かに風に揺れる森の木々と、遠くで微笑むベレットの幻影が重なる) 【ナレーション】 「賑やかな快楽に身を任せて世界を救った女と、永遠の静寂の中で誰かを待ち続ける場所。この二つは、一見して相容れないものです。しかし、『忘れられること』と『記憶されること』。その両端こそが、人間という生き物の本質なのかもしれません」 (画面が徐々に白くなっていく。エンディングのクレジットが流れ始める) 【ナレーション】 「今夜ご紹介した二つの物語。あなたの心には、どのような色が残ったでしょうか。もし、あなたがいつか意識を失い、静かなピアノの音が聞こえ始めたなら……どうか、その木の向こうにいる男に、挨拶を忘れないでください」 (最後の一音が静かに消え、画面が完全に暗転する。番組終了)