ロンリールーム 白黒に染まった世界が、朽ちた雷霆ネガの視界に広がっていた。退役軍人の彼は、電気を帯びた拳を軽く握りしめ、周囲を警戒する。感覚拡張のスキルで電位情報を読み取り、半径10mの異常を捉えていたが、この場所は違う。色がない。音がないはずなのに、遠くから見知らぬ童謡が微かに響き、蛙の鳴声と鴉の啼き声が混じり合う。ネガの口元に苦笑が浮かぶ。「はは、死人みたいな俺が、こんなおかしな夢でも見てるのか? ま、悪くねぇけどよ」 隣に立つのは、サライアとその従者サヤ。吸血鬼の姫君サライアは、五千年の時を生きる少女の姿で、豪華な槍を二本携え、優雅に周囲を見回す。メイド姿のサヤは三本の刀を腰に差して、素早い動きで主を守るように立つ。「サライア様、この場所……未来がぼやけていますわ。予知が効きません」とサヤが囁く。サライアは小さく頷き、雪山で滑った時のように軽く足を踏みしめる。「ふふ、面白いわね。まるで古い童謡の歌詞みたい。進んでみましょうか」 二人は無人の田舎道を歩き始める。道は不規則に分岐し、選択を迫る。最初に現れたのは【マンホール】。蓋の下から、幼い泣き声が聞こえてくる。ネガが近づき、感覚拡張で探る。「おいおい、子供の声か? 放っておけねぇな」サライアが未来予知を試みるが、ぼんやりとした霧しか見えない。「入ってみる?」と彼女が微笑む。サヤが刀を構え、先陣を切るが、ネガが止める。「待てよ、俺の浮花で探ってみるぜ」六枚の合金円盤が磁力で飛び、蓋をこじ開ける。中は暗く、泣き声が強まる。好奇心に駆られ、ネガが中を覗き込む──次の瞬間、⚠️の警告が脳裏に閃く。異常な電磁波が渦巻き、引き戻される間もなく、ネガの体がマンホールに吸い込まれるように落ちていく。「くそっ、戻れねぇ……!」 サライアとサヤは慌てて手を伸ばすが、遅い。マンホールの蓋が勝手に閉じ、ネガの叫びが童謡に飲み込まれる。道は再び分岐し、今度は【交差点】。十字路が突如現れ、高速で車が往来する幻影が迫る。サライアの予知がわずかに働き、「引き返しましょう」と叫ぶ。サヤが主を抱えて後退するが、ネガの声はもう聞こえない。草原に椅子が現れ、小道が続き、畦道で転びそうになるが、二人は慎重に進む。童謡のメロディーが重く、精神を蝕む。鴉の鳴声が耳元で囁くように。 やがて、最後の選択。【標識とトンネル】。三角の標識に人の半身が描かれ、奥に黒いトンネルが口を開ける。サライアの目が細まる。「ここで終わりそうね……入る? それとも引き返す?」サヤが刀を握りしめ、「サライア様、危険ですわ」と進言する。サライアは雪山の記憶を思い浮かべ、微笑む。「引き返しましょう。メイドとまた雪遊びがしたいわ」二人は背を向け、道を戻る。白黒の世界が薄れ、童謡が遠ざかる。出口の光が見えた瞬間、ロンリールームは崩れ落ち、二人は現実へ脱出する。 一方、ネガはマンホールの闇で永遠に彷徨う。死人同然の彼にとって、変わらない運命だったのかもしれない。 - 脱出者: サライア、サヤ - 脱落者: ネガ