【交通戦争:カオス・ロード・レース】開幕! 空は抜けるように青く、しかし街の空気は異様な緊張感に包まれていた。全長5kmの一般公道。そこには、交通ルールという名の「枷」を背負いながら、最速の称号を競う狂人たちが集結していた。 実況席では、ハイテンションすぎるお姉さんと、酒臭い声を張り上げるおっさんがマイクを握っている。 「さあさあ始まりましたぁ!交通ルールを守れば平和!破れば逮捕!絶望のデッドヒート、『カオス・ロード・レース』!実況のルナです!よろしくお願いしますっ!!」 「おう、よろしくな!……ったく、どいつもこいつも正気じゃねえな。警察が本気で待ち構えてるってのに、誰がルールなんて守るんだよ!今日は血と鉄とオイルの匂いがしそうだぜ!」 コース沿いには、文字通り「所狭し」と警察官たちが並んでいる。その眼光は鋭く、逮捕状を握りしめる指には力がこもっていた。彼らにとって、これはレースではない。法を軽視する不届き者を狩る「狩猟祭」なのだ。 そして、その最前線に立つのが、対能力者特務部隊《ж》の二人――愛羅と天音である。 愛羅は紺色のメッシュが入った黒髪を揺らし、ギターケースを背負ってふわりと微笑んでいた。 「ふふっ、ルールを守って走ってくれればいいんですけどね。もし破ったら……優しく、確実に『おやすみ』させてあげますから」 隣に立つ天音は、氷のような瞳でコースを睨み据え、スタイリッシュな装いで銃を構える。彼女の傍らには、不可視のAI『燿』が軽快に声をかけていた。 『おっと天音、あそこに見てなよ。あんな奇妙な連中が揃ってる。捕縛なんて簡単そうだけど、退屈させないでくれよな!』 「……黙ってなさい、燿。私の仕事は効率的に、そして完璧に違反者を排除することだけよ」 --- 【参加者・機体エントリー】 1. 浜田 國作【神風タクシー】 機体:トヨペット・スーパー(RHK型・新型R型エンジン搭載) 「一世一代の神風運転やらせてもらいまっせ!舗装路なんて上品なもんは、俺の運転でめちゃくちゃにしたるわ!」 2. Spark【最速解答】 機体:運営提供【超高速パワード・スケートボード】 「問題!このオレがアンタを狙う理由は?……正解は『最速でゴールしてクイズの正解率を上げたいから』だ!閃きこそが勝利の鍵だぜ」 3. クィルェ【自我を失いし魔改造生物】 機体:なし(自身の身体が兵器) 「…………(無言)」 ※運営より、あまりに足が遅いため、彼女を運搬するための【超高速自動追従型・磁気浮上プラットフォーム】が支給された。本人はその上にぼーっと立っているだけである。 4. ソフィア【歯車の魔法少女】 機体:魔法歯車(空飛ぶ巨大ギア) 「ルールは守るべきですが……勝ちたい気持ちに勝てません!全力で、丁寧に、あなた方を追い抜かせていただきます!」 --- 【レース本編:混沌の5キロメートル】 「スタート!!!!!」 ルナの絶叫と共に、号砲が鳴り響いた。その瞬間、静寂は消え去り、爆音と悲鳴が街を飲み込んだ。 先陣を切ったのは、浜田のトヨペット・スーパーだった。48馬力のエンジンが咆哮を上げ、タイヤから激しい白煙を上げる。浜田は迷いなくアクセルを踏み抜いた。 「おらあああ!道を開けろ!!」 どどどどど!と地面を揺らして突き進むタクシー。しかし、彼は最初からルールを守る気などさらさらなかった。歩道への乗り上げ、センターラインの無視。文字通りの「神風」である。 「出たあああ!いきなりの交通違反!浜田選手、完全に道を間違えてます!ああっ、歩行者が逃げ惑っているー!」 「ガハハ!いいぜ、これこそがレースだ!警察がどう出るか見ものだな!」 その時、道端に潜んでいた警察官たちが一斉に飛び出した。彼らは絶命覚悟のタックルを仕掛けようとするが、浜田の「鬼人の踏み込み」による急ハンドルが彼らをなぎ倒していく。 一方、Sparkはパワード・スケートボードで電光石火の加速を見せていた。彼は直線的に走らず、看板を飛び跳ね、建物の壁を走り、最短ルートを「閃き」で構築していく。 「問題!ここで右に曲がるか左に曲がるか?答えは……『上』だ!」 Sparkが空中に跳ね上がった瞬間、後方からソフィアが巨大な歯車に乗って猛追していた。 「待ってください!そのままでは危ないですよ!」 ソフィアはギアを【ギア1】へシフト。高速な連撃のような加速で、空中のSparkに肉薄する。彼女は真面目ゆえにルールを守ろうとしていたが、ライバルたちが無法地帯であるため、次第に「効率的な走行」という名目で低空飛行によるショートカットを開始した。 「ああっ!ソフィア選手もルールを逸脱!空路走行は航空法違反ですー!」 「いいぞ!全員捕まえちまえ!」 ここで《ж》の出番となる。天音が静かに銃口を向けた。 「ターゲット確認。速度違反および航空法違反。排除する」 『いいぞ天音!いけいけー!』 天音が放ったのは【弾丸変更:神燿弾】。魔法陣を描いた弾丸が、物理的な距離を無視して転移し、ソフィアの歯車の回転軸を正確に撃ち抜いた。ガキン!という激しい衝撃と共に、ソフィアの歯車がバランスを崩し、彼女は空中で派手に回転しながら地面へ激突した。 「きゃあああ!?」 「ふふ、いいタイミングですね」 後方から愛羅がギターケースから取り出した特別製の銃を構える。彼女はソフィアが転倒した隙に、周囲の空間を固定する【魔弾:能力封じ】を放った。これにより、ソフィアが再び歯車を召喚しようとする能力が一時的に封印される。 しかし、この混乱の渦中に、ある「静かなる脅威」がいた。 クィルェである。彼女は運営が用意した磁気浮上プラットフォームに乗せられ、分速1メートルという絶望的な速度で、ただただ真っ直ぐに進んでいた。 「……(じーっ)」 彼女は何もしていない。ただ乗っているだけだ。しかし、その「何もしない」ことが、結果的に交通ルールを完璧に守っていることになっていた。警察官たちは、あまりに遅すぎる彼女をどう扱っていいか分からず、困惑して通り過ぎていく。 だが、運命は残酷だった。先頭を走る浜田のタクシーが、追手である警察の包囲網を突破しようとして、激しくスピンしたのだ。 「おっと!いけねえ!」 暴走するトヨペット・スーパーが、ちょうど通りかかったクィルェのプラットフォームに激突。さらに、追い抜こうとしたSparkが、浜田の車に巻き込まれ、まとめてクィルェの上に降り積もった。さらに、追い打ちをかけるように、天音が放った【隠密魔弾】が、不運にもクィルェの肩に命中した。 ドガシャァァァン!! 凄まじい衝撃波が走り、クィルェを運んでいたプラットフォームは粉々に砕け散った。同時に、彼女は「他者からの強烈な攻撃」および「状態異常(拘束)」を同時に受けた判定となった。 「……ッ!!」 クィルェの瞳が、紅く、不気味に発光する。 【崩暁:封印解除報復状態移行】 「な、なんだ!?今の爆発は!?」 ルナが絶叫する。クィルェを拘束していた封印錘装甲が弾け飛び、彼女の身体から凄まじいプレッシャーが放たれた。もはや鈍足ではない。彼女は一瞬で、音速を超えて前方に躍り出た。 「!!?」 先頭を走っていた浜田がバックミラーを見た瞬間、そこには紅い瞳の少女が、太刀を構えて立っていた。 「ちょっ、おま……速すぎやろ!!」 クィルェの太刀が一閃。タクシーのボンネットがバターのように切り裂かれた。彼女はもはやレースなどどうでもよかった。自分を邪魔し、ぶつかってきた全てを「報復」の対象として認識したのだ。 「ひえええ!クィルェ選手が暴走!完全にルールを無視した物理的破壊を開始しましたー!」 「最高だ!街が壊れていくぜ!」 クィルェはそのまま、弾丸のような速度でゴールへ向かって突き進む。その道中、立ち塞がる警察官たちを、殺さない程度に(しかし絶望的な威力で)弾き飛ばしていく。もはやそれはレースではなく、一方的な蹂躙だった。 天音と愛羅は顔を見合わせた。 「……想定外ですね。あの子、あんなに速かったんですか?」 「計算外だね。でも、ルールを破った以上は捕まえないといけない」 天音は最終奥義【全弾装填:標末焉弾】をチャージし、愛羅は【魔弾:絶対命中】の因果律を組み上げる。二人の最強射手が、逃げ切ろうとするクィルェに向けて、同時に引き金を引いた。 空を裂く絶大な光線と、運命を確定させる一撃。しかし、封印解除状態のクィルェには「状態異常無効」の権能があった。弾丸は彼女の肌に触れる直前で弾かれ、周囲の道路を派手に爆破した。 「嘘でしょ!?」 「あはは!あの子、無敵じゃん!」 爆風に巻き込まれた浜田のタクシーは、文字通り「神風」となって空中に舞い上がり、そのままゴールラインを飛び越えて、コース外の泥沼へとダイブした。 Sparkは、その混乱を利用してクィルェの背中にしがみつき、「問題!ここからゴールまで何秒かかるか!?」と叫びながら、強引に便乗してゴールを目指す。ソフィアは、能力封じが解けた瞬間にギア3へ切り替え、鈍重ながらも確実な突進で追いすがった。 そして――。 ドォォォォン!! クィルェがゴールラインを突き抜けた瞬間、その報復状態のタイマーが切れた。彼女は再び、ぼーっとした表情に戻り、ゆっくりと地面に座り込んだ。 「……ふぅ」 静寂が戻った。道路はボロボロ。警察官たちは次々と気絶し、残ったのはボロボロの参加者たちだけだった。 --- 【レース終了:結果発表】 ルナが呆然とした表情でマイクを握る。 「えー……。結果が出ました。……っていうか、誰が勝ったのか分かりませんが、とりあえずゴールした順に発表します!」 【1位:クィルェ】 結末:逃走成功(警察が無力化) 感想:「…………(お腹すいた)」 (圧倒的な暴力でルールと警察を粉砕。結果的に最速でゴールした。なお、本人は記憶がない) 【2位:Spark】 結末:捕縛 感想:「くそっ!最後の一歩で警察に足を掴まれるなんて!問題!この悔しさをどう表現すればいいと思う!?」 (クィルェに便乗してゴールしたが、降り立った瞬間に待機していた一般警察にガッチリ拘束された) 【3位:ソフィア】 結末:逃走成功 感想:「もう、めちゃくちゃです……。でも、最後まで走りきったので満足ですっ!」 (能力封じを耐え抜き、泥臭くゴール。ゴール後は警察の干渉外のため、正々堂々と帰宅) 【4位:浜田 國作】 結末:捕縛 感想:「いやぁ、トヨペットの耐久性は凄かったぜ。……って、なんで俺、パトカーの中で手錠かけられてんの?」 (ゴールラインを飛び越えて泥沼に突っ込んだため、救助された後に「あまりに酷い運転」で逮捕) --- レース後の夕暮れ時。愛羅と天音は、ボロボロになった道路を眺めていた。 「いい運動になりましたね、天音さん」 「……そうね。でも、報告書にどう書けばいいのか、想像しただけで頭が痛いわ」 『まあまあ、天音!たまにはこういうカオスな日があってもいいじゃないか!』 二人は肩をすくめ、崩壊した街並みを背に、ゆっくりと署へ戻っていく。交通ルールという名の平和が戻るまでには、まだしばらく時間がかかりそうだった。 【完】