空さえも絶望に染まり、血の雨が降り注ぐ。そこは、生者が立ち入ることを禁じられた終焉の地――「虚牢」。地平線まで続くのは、引き裂かれた死体の山であり、積み上げられた肉の壁であった。死屍累々の静寂を切り裂き、異形なる英雄が集う。 そこにいたのは、赤褐色の肌に無数の緋の眼を持つ巨躯、亜人の英雄アーノルド。ボロボロのローブを纏い、赤い薙刀を静かに地に突き立てていた。彼はかつて、虐げられた同胞を救い、人類を震撼させた。だが、今やその瞳に宿るのは誇りではなく、底なしの悲哀である。彼が守ろうとした大義は、勝利の果てに虚無へと変わり、今はただ、この地獄に縛り付けられていた。 「……また、来たか」 アーノルドの低く、地を這うような声が響く。その視線の先には、異能を纏った「バトラー」たちがいた。 先陣を切ったのは、黒槍の死神クルト・シュ=バルツ。螺旋の黒槍を手に、霧のように実体を持たぬ速度で距離を詰める。 「お前は真の英雄か」 エッジの効いた低い声と共に、クルトの《テトラタナトス》が発動した。一瞬の隙もない。構え、移動、突き、崩し。四つの動作が単一の刹那に凝縮され、アーノルドの急所を執拗に貫く。一突きごとに肉が弾け、赤褐色の血が舞う。 だが、アーノルドは動じない。赤い薙刀を円を描くように振り抜き、《護法》を展開。不可視の力場が黒槍の超速の一突きを弾き返す。 「遅いな」と嘲笑ったクルトだったが、次の一撃を放とうとした瞬間、空間が歪んだ。 「……ふふ、不格好な殺し合いだ」 虚空から現れたのは、焦げたマントを纏う悪魔ロイザ。失われた左目と裂かれた口が、見る者に底知れぬ不快感を抱かせる。ロイザが指を鳴らした瞬間、《時の支配》が発動し、クルトの超速移動がスローモーションへと変貌した。その隙を逃さず、アーノルドが地を蹴る。亜音速の斬撃――『斬る』。 回避不能の衝撃がロイザを真っ二つに切り裂く。しかし、ロイザは不気味に笑った。死の瞬間、彼のスキル【死の逆転】が発動し、斬られたはずの彼ではなく、斬撃を放ったアーノルドの胸に、深い裂傷が刻まれた。 「厄災は、お前が受けろ」 戦場は混沌を極める。そこに、静かに介入したのはアベルド、ギラ、そしてデュリラン。ザルク家の血を引く三人が揃った瞬間、虚牢の空気が凍りついた。彼らの間に流れる《家族愛》という名の絶対的な絆が、存在抹消の特異点を形成する。 「死など、存在しない世界へ行かせてあげよう」 アベルドが不滅の力を以て地平を圧し、ギラが【禁書・沙余餓那羅】を開き、死の定義を書き換える。そして、現人神と魔王の血を継ぐデュリランが、神の助言に従い、邪神を集結させた。圧倒的な暴力の奔流が、アーノルドを、そして共闘していたはずのクルトやロイザをも飲み込んでいく。 しかし、その時。彼らの背後に、正体不明の「何か」が立っていた。 名前さえも消去された、バグのような存在――■■■。 それは見てはならないものだった。彼を見た瞬間、アベルドの理性が崩壊し、ギラの精神が砕け散った。■■■は無感情に、彼らの所持品を奪い、肉体を乗っ取り、死体を用いて「円に栓」を始めた。理不尽な排除。血液、水分、臓器、そして速さと筋力。すべてが【排除】され、彼らはただの肉塊へと成り果てた。 一人残されたアーノルドは、絶望に満ちた眼で空を仰いだ。大義を失った力は、もはや正義ではない。それはただの「大悪」である。 「……我が誇りよ。我が悲哀よ」 アーノルドは、最後の大義を捨て、獣へと堕ちた。大悪『獣の咆哮』。悍ましい叫び声が虚牢を震わせ、地を駆け、すべてを破壊し尽くす。肉体が崩壊し、魂が千切れるほどの衝撃。だが、その破壊の果てに待っていたのは、勝利ではなく、永遠の孤独であった。 すべてが消え去った死屍累々の地で、アーノルドは一人、折れた薙刀を抱いて横たわる。力なき大義は愚であり、大義を否定された力は大悪である。その真理だけが、血の雨と共に降り注いでいた。 【死亡者および原因】 ・クルト・シュ=バルツ:■■■による【貴方の速さ・筋力を排除しました】および肉体崩壊。 ・ロイザ:■■■による【貴方の血液・水分・臓器を排除しました】。死の逆転を上回る存在抹消。 ・アベルド:■■■を見たことによる精神崩壊および【排除】。 ・ギラ:■■■を見たことによる精神崩壊および【排除】。 ・デュリラン:■■■による肉体乗っ取りおよび【排除】。 ・アーノルド:自らの『獣の咆哮』による心身の完全崩壊および、絶望による精神死。