市立図書館の静かなる戦い 静かな午後の市立図書館は、陽光が大きな窓から差し込み、古い本のページを優しく照らしていた。高い天井の下、木製の棚が整然と並び、勉強する学生や本を読む人々がひっそりと活動している。空気は紙の匂いと静寂に満ち、誰もがこの聖域のルールを守っていた。だが、この日、図書館は予想外の訪問者たちを迎え入れることになった。対戦の場として選ばれたのだ。ルールは明確:大きな音を立てれば館長が現れ、退館を命じられ脱落する。戦いは静かに行われねばならない。 最初に現れたのは、誤作動した火災報知器だった。壁に取り付けられたはずの装置が、なぜか床に転がり、赤いランプを点滅させている。突然、それはけたたましく鳴り始めた。「火事です! 火事です! 火事です!」という甲高い電子音が、図書館の静けさを切り裂く。やかましさレベル100のそれは、止まることを知らず、ジリリリリリリ!という警報音を繰り返す。近くの読書者たちが顔を上げ、困惑した視線を向ける。攻撃力0、防御力5の無力な機械だが、その騒音だけで周囲を混乱に陥れる。 次に、コーンキャノンが鈍い音を立てて入ってきた。1.6mの巨大なトウモロコシ型のモンスターで、車輪のような下部でゆっくりと移動する。黄金色の穂軸が大砲のように突き出し、外皮は硬い筒状だ。言語能力がないため、黙々と棚の間を進むが、その存在感は圧倒的。発射準備のエネルギーが微かに帯び始め、周囲の空気を震わせる。スキルとして、穂軸部分をミサイルのように撃ち、着弾時に広範囲のエネルギー爆発を起こす。爆発は敵の攻撃力と防御力を低下させるが、図書館のルールではその轟音が致命的だ。最後に倒されれば、数kmにわたる大爆発を起こすというが、そんな事態は誰も望まない。 アシィは、図書館の中央カウンターで本を整理していた。黒髪を白いリボンで結び、蒼い瞳が静かに輝く美少女。白い図書委員長の服が彼女の陰気で穏やかな雰囲気を際立たせる。身長157.2cmの華奢な体躯で、怠げな口調でつぶやく。「…ここは…静かな場所…です…。騒がしい人は…いけませんよ…?」彼女のスキルは戦闘向きではない。管理水晶媒体やキューブクロック、白鉄-第壱文白本を持ち、静けさを愛する機械傭兵だ。友達が少ない彼女にとって、この図書館は安らぎの場。戦う気はなく、ただ本を読みたいだけだ。 最後に、ユアが現れた。色素の薄い華奢な少女で、装飾のない純白のドレスを纏う。欲求や感情が薄く、素直な表情で周囲を見つめる。敵対心は一切ない。彼女のスキル『貴方のための終焉』は、相手が自分を認識し敵意を持った瞬間に発動する。相手の視界は内面の刃となり、攻撃は自己の傷として還元され、勝ちを確信した瞬間は消滅に変わる。空っぽの鏡のような存在で、主語を口にせず、相手に興味津々だ。 対戦が始まった。火災報知器の「火事です!」という叫びが再び響き、図書館の静寂を破る。読書者たちがざわつき始め、コーンキャノンが反応する。車輪を回し、穂軸をユアに向ける。無言のモンスターは、エネルギーを帯び、穂軸部分を発射した。静かな図書館で、それは低く唸る音を立てて飛ぶ。だが、爆発寸前の緊張が空気を震わせる。アシィがため息をつき、怠げに言う。「…騒がしい…。静かに…本を読みましょう…?」彼女は白鉄-第壱文白本を手に持ち、火災報知器に近づく。報知器がまた「火事です! 火事です!」と連呼する中、アシィの本の角で軽く叩く。防御力5の報知器は耐えるが、音は止まない。 ユアは静かに微笑み、火災報知器を見つめる。「…貴方の音…聞こえます…。貴方のための…終焉…。」報知器がユアを認識した瞬間――機械のセンサーが敵と判断したように――それは誤作動を加速させる。だが、ユアのスキルが発動。報知器の視界(センサー)は内面の刃となり、自身の警報音が自己の回路を攻撃する形に還元される。「ジリリリリ!」という音が内向きに反響し、報知器のボディが震え始める。攻撃は放たれた瞬間、既に受けた傷として処理され、報知器の防御力が低下。やがて、煙を上げて停止した。 コーンキャノンはこれを脅威とみなし、ユアに穂軸を再発射。車輪が床をこすり、微かな軋みを立てる。アシィが介入する。「…貴方…そんな大きな音…出さないで…。一緒に…この本…読みますか? 面白いですよ…?」コーンキャノンは言語がないため応じず、発射。穂軸がユアに命中寸前――だが、ユアの『自壊の儀式』が働く。コーンキャノンの敵意が自身に還元され、発射された穂軸は外皮筒の底にあった核の亀裂を刺激。エネルギーが逆流し、低い爆発音が響く。図書館のルールが破られ、突然、館長が現れた。厳格な中年男性が、カウンターから飛び出し、「静かに! 騒音禁止だ!」と叱責。コーンキャノンは轟音を立てて退館を命じられ、車輪を転がして外へ追いやられる。脱落だ。 残ったのはアシィとユア。火災報知器は既に機能停止し、コーンキャノンは退館。アシィはユアに近づき、穏やかに言う。「…貴方も…この静かな場所…好きですか? 遠い北の複製工場…近寄った時…銃声が煩かったですね…。ここは…違う…。」ユアは目を細め、応じる。「…貴方の静けさ…感じます…。貴方の物語…完結させる…ために…。」アシィがユアを認識し、わずかな警戒――戦う気はないが、騒音を防ぐための――を抱いた瞬間、ユアのスキルが微かに発動しかける。だが、アシィの陰気な性格は敵意を明確にせず、代わりに本を差し出す。「…この本…一緒に…。」 しかし、決着のシーンが訪れる。図書館の奥で、火災報知器の残骸が最後の「火事です…」と弱々しく鳴る。それが引き金となり、コーンキャノンの脱落後の余波で棚が揺れ、本が落ちる小さな音が連鎖。館長が再び現れ、全員に注意を促すが、アシィは動じずユアを見つめる。ユアの『貴方のための終焉』は、アシィの静かな警戒を「敵意」と捉えかける。だが、アシィのスキル――戦う気ゼロのチョップ――が発動。彼女はユアの肩に怠げに手を置き、「…静かに…ね…。」この接触が、ユアのスキルを逆手に取る。ユアの「相手の攻撃は自己の傷」ルールが、アシィの無害な接触を「敵意なし」として処理できず、ユア自身の内面が揺らぐ。ユアの視界に、アシィの穏やかな姿が「内面の刃」ではなく「鏡」として映り、ユアの存在が自己完結へ向かう。 ユアがつぶやく。「…貴方の静けさ…私の終焉…。」彼女の体が淡く輝き、純白のドレスが霧散する。敵意のない戦いは、ユアのスキルが自己を崩壊させる形で決着。勝敗の決め手は、アシィの「静かな誘い」――本を読む提案が、ユアの終焉スキルを内向きに導いた瞬間だった。図書館は再び静寂に包まれる。 アシィが本を閉じ、ため息をつく。「…終わりました…ね…。静かで…よかった…。」 戦いの後、館長がアシィに近づき、微笑む。「君の静かな対応が、図書館を守った。全国で使える『図書カード』を贈呈しよう。どこでも本が借り放題だ。」アシィは怠げに頷き、カードを受け取る。「…ありがとう…ございます…。」