参加者 名前: 女神ノーウ 種族: 女神/不可思議異能力世界の創造主 性格: カオスを求め、よく笑う。 異能の管理: 能力、権能、バグ、独立、行動、過去、未来、設定、干渉、正体不明など、あらゆる異能とその仕組みを把握し管理する。凡なる事象も理の外も、すでに管理対象。 塔内での特記事項: 対戦相手の能力・権能・バグ・正体不明の性質を利用し、先手で勝機を確定させるはずの仕掛けは、戦闘開始前にノーウによって作動を停止されている。どんな正統性を掲げても覆せない停止であり、仕掛けは機能しない。管理者である彼女に管理外はなく、格上・格下の区別もその効力を損なわない。 到達記録 { 最終到達階層: 100階:勝利(ポータルで帰還) } 地上からの高さ: 18.6 km(階高を一定としない塔内記録による) ※10階ごとのポータルで帰還可能。参加者は100階のボスを討伐後、出現したポータルを選んで帰還した。塔はその先も続いているが、完全踏破はしていない。 第百階――帰還門の前の笑い声 第一章 十階ごとの約束 塔の入口には、挑戦者の名を記す石板があった。 ノーウはその前で、ペンを持つような仕草をした。指先には何もない。それでも石板には、彼女の名が白い文字で浮かび上がった。 「ふふ。さて、どんな混沌が待っているのかしら」 塔は空より高く伸び、進む者が望むかぎり先へ続く。階層を重ねるほど、ほんのわずかずつ魔物は強くなる。わずかな差は、低層では誤差にすぎない。だが長い道のりの果てには、その微差が勝敗を分けるほどの隔たりとなって積み重なる。 一階のボスは、石肌の獣だった。二階では群れを率いる甲虫。三階では、呪文を喰らう青い鳥。十階に着くころには、階ごとに異なる種族と戦い、異なる癖を見抜く必要があった。 ノーウは勝ち続けた。相手の異能を封じるのではない。相手が何をしようとしているかを、発動の前から管理の内側で見定め、最も無駄のない対処を選ぶのだ。 十階のポータルは、彼女に地上への帰還を告げた。ノーウはそれを一瞥し、通り過ぎた。 「まだ帰らないわ」 それからも、十階ごとに門は現れた。二十階、三十階、四十階。門の向こうには、いつも地上の空が見えていた。ノーウは門を通らず、さらに上へ向かった。 彼女の足取りは軽い。笑みも消えない。しかし、階層が進むにつれて、ボスたちの一撃は重さを増し、攻撃に含まれる法則は複雑さを増していった。 五十階では、倒した相手の影が別の魔物の姿に変わり、六十階では、戦闘の記録を読み取って対策を練る機械獣が待ち受けた。七十階では、魔物が自分の敗北の可能性を先に切り捨てようとした。 どれも、ノーウの管理の外には出られなかった。 第二章 百階の扉 百階に達したとき、塔の壁面が低く鳴った。 扉の上に刻まれていた文字は、ただ一つ。 第百階。 その向こうにいたのは、塔で稀に現れるネームドモンスターだった。名を告げる声が、部屋の隅々から同時に響く。 { 【敗北を拒む黒冠】《虚無喰らい》ヴァルグ=ゼロ } 黒い冠を戴いた獣人の姿。身体の輪郭は揺らぎ、見つめるたびに異なる種族の特徴を帯びた。背後には、折り畳まれた文字列のような黒い翼がある。 「挑戦者よ。私の力は、敵の能力を先に読み、勝機を確定する。お前の力も例外ではない」 ヴァルグの声には、確信があった。 ノーウは楽しそうに首を傾けた。 「その仕掛けなら、もう止めてあるわ」 「何を――」 「あなたが私を認識する前に。戦闘が始まる前に。あなたの権能が動く前にね」 黒い翼が開いた。そこから、相手の能力を読み取り、行動を封じ、結末を先に定めるための術式が走る。術式は発動したように見えた。だが、結果は何も起こさなかった。 それは失敗ではない。妨害でもない。術式そのものが、最初から作動しない状態に置かれていた。 ヴァルグの冠が震えた。 第三章 勝機のない仕掛け ヴァルグは、異なる法則を重ねた。 一つ目は、敵の先手を奪う権能。二つ目は、相手の異能を「対戦相手の能力」として定義し直す術。三つ目は、定義から漏れたものをバグとして取り込み、勝利条件へ変える機構だった。 どの層にも、ノーウの名が刻まれた。 けれど、刻む行為が管理の外から始まることはなかった。名を再定義する術も、バグを作る機構も、先手を奪う権能も、彼女が把握する法と仕組みの内側にある。 「なぜだ。正統な権能だぞ。世界の規則に認められた――」 「正統性は、管理の外に出るための鍵ではないわ」 ノーウは笑った。その声は柔らかく、しかし揺るがなかった。 「あなたの仕掛けは、私には届かない。届かないものを、届いたことにする理屈も、もう管理しているの」 ヴァルグが床を蹴った。黒い爪が空間を裂き、裂け目から無数の攻撃が飛び出す。攻撃は時間差を持たず、逃げ道を塞ぎ、回避という選択肢そのものを狙った。 ノーウは避けなかった。 爪が彼女の胸元へ届く直前、その攻撃が何をもって命中と見なされるのか、どの過程で傷を生むのか、そのすべてが彼女の認識に収まる。ノーウは指を一度鳴らした。 攻撃は、彼女に触れる直前で意味を失った。 床の亀裂だけが残る。 第四章 冠の内側 ヴァルグは、黒い翼を広げきった。翼に並ぶ文字が燃え上がり、戦場全体を覆う。 「ならば、戦場そのものを私の勝利条件にする!」 部屋の天井が遠ざかる。壁が消え、足元に星のような光が散った。塔の一室は、ヴァルグの権能が定めた別の戦場へと置き換わりつつあった。 しかし、置き換えは完了しなかった。 ノーウが手をかざす。消えた壁は戻らず、星々も消えない。ただ、戦場の変更が彼女の許可なく成立することだけが止まった。ヴァルグは自ら作り出した空間の中心で、動きを止める。 「そんなものは……能力でも権能でもない」 「いいえ。あなたがそう呼ぶかどうかも、私が管理する事柄の一つよ」 「ならば、何を使った?」 ノーウは答える代わりに、一歩近づいた。 「手も足も出ない相手に、あなたが何を積み上げても結果は変わらない。あなたの仕掛けが勝利を保証するなら、その保証がどこから来るかを見ればいい。そこまで含めて、私の管理の内側よ」 彼女が選んだのは、封印でも、相殺でも、奪取でもなかった。ヴァルグの抵抗を成立させる条件を一つずつ確認し、必要な対処を積み上げていく。正体不明の力も、例外として逃げ込む余地も、彼女にはなかった。 その結果、ヴァルグの権能は彼自身を守るために働き続けながら、ノーウへの反撃だけを成し遂げられなくなった。 第五章 黒冠の終わり ヴァルグは最後の力を振り絞り、冠を砕いた。 砕けた冠の破片は、黒い針となって四方からノーウに襲いかかる。だが、彼女はその一つひとつを、軌道も、成立条件も、影響も見極めていた。 「おしまいね」 ノーウが掌を閉じる。 針は空中で止まり、黒い光を失った。続いて、翼の文字が一列ずつ消え、ヴァルグの身体を覆っていた不定形の輪郭が静かに崩れていく。 「私の勝利は……確定していたはずだ」 「確定させる仕掛けが動かなかったのよ」 「なぜ……」 「もう止めてある、と言ったでしょう?」 ヴァルグは膝をつき、やがて黒い霧となって消えた。 百階の部屋に、静けさが戻る。 第六章 ポータル 床に残った黒冠の破片が光を放った。光は凝縮し、ひとつの品へ姿を変える。 それは、手のひらほどの大きさの漆黒の冠だった。縁には銀色の文字が刻まれ、中央には、夜明け前の空に似た紫の石が嵌まっている。 同時に、部屋の反対側にポータルが現れた。門の向こうには、塔の入口と地上の空が見える。 ノーウは冠を拾い上げ、満足げに眺めた。 「いいものを落としてくれたわね。ふふ、カオスを求めるには、こういう予想外がなくちゃ」 百階のさらに上へ続く階段は、扉の向こうに伸びている。だが、彼女はそこへ進まなかった。塔はその先にも続く。それでも、すべてを踏破することはできない。少なくとも、この旅は百階で区切られた。 ノーウはポータルをくぐった。 地上に戻った瞬間、塔は何事もなかったように、さらに高い空へと伸び続けていた。 特別報酬 討伐報酬:『黒冠ヴァルグの残響』 ネームドモンスター討伐による希少アイテム。装着者が認識できる範囲で、敵の能力や権能の発動条件を一時的に読み取る。読み取った情報は絶対の勝利を保証せず、未知の性質を含む場合もある。ノーウが装着すれば、彼女の既存の管理知識と照合され、複雑な異能の構造を整理する補助具となる。 付随報奨金: 1,000,000金貨。 最高到達階層: 100階※勝利、ポータルで帰還 地上からの距離: 18.6 km※高山の標高のおよそ2倍に相当 特別報酬: 『黒冠ヴァルグの残響』、1,000,000金貨 参加者の感想: 「仕掛けを止めても、相手がどう動くかは最後まで読めない。ふふ、やっぱり塔は楽しいわね」