ある日の午後、柴崎とSUSURU_TV、そして愛犬のジャックは、共通の友人である西田柚希から一通のメッセージを受け取った。「最近、アルバイト先の『マルツール製麺』で、すごくいい条件のキャンペーンがあるの!みんなで食べに来てほしいな」と。明るい柚希からの誘いに、三者は快く応じることにした。しかし、その店に足を踏み入れた瞬間から、日常の皮を被った異界の物語が始まっていた。 店内に足を踏み入れると、そこはどこにでもあるチェーン店のような外観だった。しかし、ジャックだけは違った。彼は店に入った瞬間、激しく唸り声を上げ、毛を逆立てた。犬の鋭い嗅覚が捉えたのは、出汁の香りではない。どろどろとした、古くて不浄な、形容しがたい「何か」の腐敗臭だった。 「いらっしゃいませー!」 店員たちが一斉に頭を下げる。その動きはあまりにも揃いすぎており、まるで機械的だった。そして奥から、エプロン姿の柚希が現れた。 「みんな、来てくれたんだね!」 彼女は笑っていた。だが、その瞳はどこか虚ろで、焦点が合っていない。頬は不自然に紅潮し、呼吸は浅い。何より、彼女の指先が微かに震えていた。 「柚希ちゃん、どうしたんだい? 体調が悪そうだよ」 柴崎が心配そうに声をかけるが、柚希はあははと力なく笑い、「大丈夫だよ。ここ、本当にいいところだから」とだけ答えた。 一方で、SUSURU_TVは目の前に運ばれてきた特製うどんを凝視していた。腕を組み、麺の盛り付け、スープの透明度を厳格にチェックする。 「こちらがマルツール製麺さんの、特製濃厚うどんです。うっひょ~~~~~~!」 いつもの口調で歓喜する彼だったが、一口啜った瞬間、その表情が凍りついた。 (……なんだ、この味は。出汁の中に、鉄分……いや、血のような、そして人間が口にしてはいけない『何か』が混ざっている) 違和感。それは確信に変わった。SUSURU_TVの怒りが静かに、しかし確実に沸騰する。 「コラ〜!!」 ガッシャーーーーン!! 彼は卓上の紅生姜、七味、醤油をすべてなぎ倒した。 「殺すぞ〜!!」 絶叫と共に、彼は厨房へと殴り込みをかけた。 しかし、そこで彼らが目にしたのは、地獄だった。厨房の奥にある隠し扉の先には、血塗られた拷問部屋が広がっていた。不眠不休で働かされ、精神を破壊された作業員たちが、うどんの具材を作るための「部品」として転がっている。そして、その中心に、虚ろな目で座り込む柚希がいた。 「あはは……もう、戻れないよ。だって、ここが私の居場所だから」 柚希の傍らには、大量の大麻が置かれていた。彼女の身体はすでに、その薬物なしでは呼吸すらままならない状態に改造されていた。さらに、彼女の背後から、店長を名乗る男が、不気味な笑みを浮かべて現れた。 「おやおや、客人が裏側まで来てくれたか。まあいい。ここで、あなたたちも『店員』になってもらいましょう」 店長が合図を出すと、周囲の店員たちが一斉に口を開けた。次の瞬間、彼らの口から破壊的な高出力の光線(ビーム)が放たれた。旧支配者の加護を受けた、この世ならぬ攻撃だ。 「真の恐怖を教えてあげますからね」 柴崎が静かに呟く。彼は手近にあった木の枝を拾い上げ、空中に猛烈な速度で線を描いた。 【柴崎現象】 彼が描いたのは、光線を反射する巨大な鏡と、店員たちを拘束する鎖だった。具現化した鎖が店員たちを縛り上げ、光線は鏡に跳ね返されて店内の壁を砕いた。 「こうやってね、遊んであげると……はい完成」 しかし、店長は余裕だった。彼は柚希に耳打ちした。 「柚希、やりなさい。掃除の時間だ」 洗脳されていた柚希が、ゆっくりと立ち上がる。彼女の手には、古びたストップウォッチが握られていた。 「ごめんね、みんな……。もう、誰も止められないの」 カチッ。 世界から色が消えた。音が消えた。時間が完全に停止した。 静止した世界の中で、柴崎も、暴れ回るSUSURU_TVも、彫像のように固まった。店長が冷酷に笑い、彼らの心臓に止めを刺そうとしたその時。 「バウッ!!」 唯一、動いている存在がいた。ジャックだ。 時間停止という概念を根本から無視する最強の愛犬は、不純な空気を纏った店長に対し、猛烈な勢いで噛み付いた。 「なっ……!? なぜ動ける! この犬、何者だ!」 驚愕する店長。しかし、ジャックの攻撃は単なる物理的なダメージではなかった。神に愛されたその牙が店長の腕に食い込んだ瞬間、眩いばかりの浄化の光が店中を包み込んだ。 時間停止が強制的に解除される。 「今だ、柴崎さん!」 SUSURU_TVが叫ぶ。彼は怒りの絶頂にあり、もはやいかなる魔術もビームも彼には通用しなかった。彼はそのまま店長の胸ぐらを掴み上げ、床に激しく叩きつけた。 「店長さん、接客態度が最悪ですよ!!」 しかし、絶望はまだ終わっていなかった。薬物の離脱症状と洗脳の反動で、柚希が狂乱し始めたのだ。彼女は黒魔術を唱え、周囲の空間を闇に染めていく。 「来ないで! 来ないでよ!!」 絶叫と共に放たれた闇の奔流が、すべてを飲み込もうとする。 「あなたがこれから見るのは、赤一色ですよ」 柴崎が、最後の一筆を加えた。 【レインボーファントム】から【ラスト・オリジン】へ。 世界が塗り替えられる。絶望の闇を、鮮やかな原色の創造力が上書きしていく。柚希が放った黒魔術さえも、「最初からなかったこと」として白紙に戻された。 静寂が訪れた。 浄化の光と創造の力により、マルツール製麺の呪われた施設は崩壊し、洗脳の鎖は断ち切られた。 意識を取り戻した柚希は、涙を流して三者にすがりついた。彼女の身体に刻まれた薬物の依存症は完全には消えていないが、少なくとも、彼女は自由を取り戻した。 後日。 焼け野原となった店跡で、SUSURU_TVはカメラを回していた。 足元には、なぜか「濃厚なラーメン」のような形に凝固して転がっている元店長の成れの果てがある。 「うっひょ~~~~~~!! 怒りのあまり店長さんを濃厚無双ラーメンにしてしまいました。しまいました〜!!」 隣では、柴崎が穏やかに絵を描き、ジャックが満足げに尻尾を振っていた。そして柚希は、少しずつ、本当の笑顔を取り戻そうとしていた。 この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。 【結末と生死状況】 ・おじいちゃん先生(柴崎):生存。事後、この事件をモチーフにした連作を書き上げ、YouTuberとしてさらに名声を上げる。 ・SUSURU_TV:生存。店長を物理的に「ラーメン」に変えたが、本人は至って快活に活動を継続。 ・ジャック:生存。神の愛を受け、その後も最強のままに美味しいおやつを食べ続ける。 ・西田柚希:生存。精神的な後遺症と薬物依存の治療が必要な状態だが、友人たちの介助により更生への道を歩む。 ・マルツール製麺店長および店員:死亡(または浄化され消滅)。店長はSUSURU_TVにより「濃厚無双ラーメン」という物体に変えられ、そのまま処理された。