ある日の放課後、校舎の裏庭で葵崋は、頭を抱えたように一人で座り込んでいた。その顔には悩ましげな表情が浮かんでいる。彼女は、友人であり親友の墓守冥華に好意を抱いている男、海祇虎龍の振る舞いに苛立っていた。いつも明るく、周りを楽しませる虎龍だが、冥華の気持ちに全く気付かない鈍感さに葵は心が痛んだ。 「死んで骨になるか今すぐ火葬か選びな。」と彼女は心の中で毒づいた。冥華はいつも温かい笑顔を浮かべて虎龍に接しているが、その姿を見るたびに葵の胸は締め付けられる思いだった。 そんな時、隣のクラスから震蜾が姿を現した。彼は冷静で孤高な雰囲気を纏い、周りに人が寄り付かないような存在感を持っていた。しかし、その目はどこか優しさを秘めていた。彼女は気にかけていなかったが、震蜾もまた彼女を見ていた。 「そんなに悩んでいるなら、何か手伝おうか?」震蜾の声が葵の耳に届く。彼は興味を持ったように葵の隣に腰を下ろした。 「あんたに何ができるの?」葵は素っ気なく返した。しかし内心では一瞬驚いた。震蜾はいつも自分からは話しかけてこない、孤独な印象があるはずなのに。 「悩みは声に出さないと、誰にも伝わらないからな。」彼は冷静に言葉を続けた。 「うるさい、あなたに何を言う必要があるの?」葵は彼の言葉に苛立ったが、やがて彼の言葉が耳に残った。どうせ分からないだろうが、少しだけ悩みを吐露してみようと思った。 「虎龍が、冥華の気持ちに気付かなくて…」彼女は声を潜めて打ち明けた。震蜾は目を細め、彼女をじっと見つめた。 「気付かせてやればいいじゃないか。それが優しさだと思うけど」震蜾の言葉に、葵は小さく笑った。毒舌家で真面目な彼の言葉が、なぜか心に響いた。 「それもそうね。草食系男子に言うっていうのは勇気がいるわ。でもあんたにはあまり関係ない話だし、あんたもそれに興味ないと思う。」あくまで冷静に振る舞う葵だが、心の中では少しだけ勇気が出てきた。 「そういうのが面白くないんだ。やりたいならやればいいし、何もできないのが一番つまらない。」震蜾の言葉にはどこか挑発的な響きがあった。 「あなたはどうよ?特に何もないのにこうして居座って。」葵は思わず突っ込みを入れた。震蜾はふっと口角を上げ、少し得意げに見えた。 「俺は別に、誰も気にしてないからな。ただ静かにいるだけだ。だが、もしも何かあったら、全力でやってみるさ。」そう言いながら、震蜾は何か決意めいた表情で葵を見た。 その日以降、二人の距離は少しずつ近づいていった。葵は震蜾の毒舌に少しくらいの刺激を感じながら、彼の優しさに触れることで自分の気持ちを整理することができた。彼女の心の中には、冥華へ向けた気持ちと震蜾への興味が混在していた。 ある日、三人で遊園地へ行くことになった。乗り物や小さな屋台、風船、そして笑い声があふれる場所に二人の存在感が交錯する。 「おい、葵、これ食べてみろ。」震蜾が何気なく差し出した綿菓子を見つけ、頭を振って笑った。彼への気持ちはいつの間にかもやもやとした感覚に変わりつつあり、彼女はその感情に戸惑った。 「いいわよ、あんたが食べれば。」葵は本当は甘いものが嫌いではないが、あえて冷たく言う。その瞬間、震蜾は笑顔を浮かべて、綿菓子を二つに裂いて横に並んでいる冥華へも手を差し出した。 「冥華もどうだ?」その行動に葵は驚き、同時に心の中で何かが揺れ動いた。 「お、美味しい!震蜾くん」冥華の嬉しそうな声に、葵は心中で嫉妬心が燒き上がる。 「その顔、なに?」震蜾が気づき、微かに目を細めて聞く。異なる二人の関係を通じて葵の心は不安定さへと進んでいく。自分の本当の気持ちは何なのか、わからなくなる。 その時、彼は意外にも移動中に彼女の手を取り、自然に繋いで歩いた。 「すっかり冷たくなったな、これからもっと温かくしなきゃな。」その言葉には優しさが滲んでいて、思わず葵はその手が優しい温度を持っているのを感じ取った。 混乱する中でのその瞬間、葵崋の心には煙る炎が灯った。 これが彼女たちの出会いの瞬間だった。 --- ある週末、焚き火を囲む季節に、紫色の炎が鮮やかに空に舞い上がるように見えた。葵と震蜾は公園で静かに火を囲んでいた。 「やっぱお前、面白いよな。」震蜾がチラリと葵に目を向ける。 「は?」彼女は素っ気なく返事する。 「なんでもねえ大したことない。」震蜾は真顔で言った。時折垣間見せる優しさを隠し切れない彼に、葵は不安な気持ちが増えていった。「迷惑。」と彼女は心の中で言ったが、彼の姿は逆に魅力的だった。 その日の夜、静かに月の光が差し込む下、二人は言葉を交わし続けた。ただ静かにしたのではない。また温かい炎と共に、心の距離も近づいてきた。淡い恋心が少しずつ膨らんでいく。 この日のデートが二人にとっての深い絆を結ぶことになったのは、葵が震蜾の中に秘めた優しさを見つけたからだった。 --- 時間が経つにつれ、葵の心の中で複雑な感情が広がっていた。しかし、一つだけはっきりしていることがあった。それは、震蜾が自分にとって特別な存在であるということだった。 ある春の日、二人は近くの動物園へデートに行くことになった。