陽炎が揺れる国際空港の出発ロビー。そこには、およそ旅に出る者とは思えぬ異様な面々が列をなしていた。彼らに課せられたのは、厳格なる「セキュリティチェック」。武器一つ、弾丸一発でも検知されれば、即座に警備員に連行され、旅路は絶たれる。静寂と緊張が支配する中、順番が回ってきた。 一人目に現れたのは、森林迷彩服に身を包んだ女性、エクリプスだった。彼女は帽子を深く被り、感情を読み取らせない無表情で金属探知機の前に立つ。そのバックパックの中には、Vz61、スペツナズナイフ、そして手榴弾という、空港で最も歓迎されない品々が詰まっていた。 (……計算通りだ) 彼女はハーバード大学首席卒業の頭脳をフル回転させていた。事前に空港のセキュリティシステムの型番を把握し、探知機の感度と、自身の装備を配置する「死角」をミリ単位で計算していた。彼女はあえてゆっくりと、リズムを変えてゲートを通過する。幸運値100という天賦の才が彼女を後押しし、警備員がちょうどあくびをした瞬間に、彼女の装備は奇跡的に検知をすり抜けた。 「次の方、どうぞ」 エクリプスは一言も発さず、静かに列を抜けた。生存本能と知能の勝利であった。 二人目に現れたのは、白衣を纏い、不敵な笑みを浮かべた女科学者、理解者である。彼女はノートパソコンを脇に抱え、周囲の状況を観察していた。彼女にとって、この検問は単なる「観察対象」に過ぎない。 「いいね。この時代の下等な検知システム、興味深いわ」 彼女は第四の壁の向こう側にある「正解」を知っていた。彼女の【理解権】は、警備員の心理状態から、探知機の回路構成、そしてこのゲームのルールまでも完全に把握している。彼女は【物体創造装置】を密かに起動させた。創造したのは武器ではない。探知機の電磁波を完璧に中和し、自身の所持品を「無」として認識させる一時的な擬態フィールドである。 「わかってるさ、ちゃんと楽しませるよ」 彼女がゲートをくぐった瞬間、機械は沈黙した。彼女にとって、この試練はあまりに容易なパズルだった。 三人目は、巨体に身を包んだサメの亜人、ホウジロウ。殺し屋としての本能が、周囲の殺気に敏感に反応する。彼の背中には、獲物であるノコギリ状のナタが隠されていた。普通に歩けば、その質量と金属成分で即座に警報が鳴り響くはずだ。 しかし、彼は「物理的な歩行」を放棄した。ホウジロウは自身のスキル『影の中に潜める』を発動させる。彼の身体は実体を失い、床に伸びる濃い影へと溶け込んだ。警備員の視界から彼は消え、探知機が検知するのは「ただの影」のみ。 (スズナリに、土産を買って帰らねばならんからな……) 寡黙な殺し屋は、影の海を泳ぐようにして、誰に気づかれることもなくゲートの向こう側へと到達した。物理的な検知を概念的な隠蔽で上書きした快挙であった。 最後の一組は、銀髪の美少女アルタイルと、彼女が抱える意思を持つ魔剣シリウス。二人は極めて危うい状況にあった。なぜなら、シリウスはこの世のあらゆるものを斬り裂く「究極の武器」そのものであり、その魔力と質量は隠しようがないからだ。 「……ここ、通らなきゃいけないの……?」 天然ボケなアルタイルが不思議そうに首を傾げる。対して、剣のシリウスは苛立ちを隠さない。 『おいアルタイル! このガラクタみたいな機械に俺が検知されるなんて御免だぞ! ぶっ壊して進め!』 「ダメだよ、シリウス……。喧嘩は……いけないから……」 絶体絶命の瞬間、シリウスは毒舌を飲み込み、ある提案をした。彼は自身の「金剛不壊」の特性を応用し、一時的に自身の存在定義を「装飾用のプラスチック製玩具」へと書き換えた。神仏を滅ぼす魔剣が、一瞬にして安っぽい子供のおもちゃのような波長に擬態したのである。 アルタイルがふわふわとした足取りでゲートを通過する。ピッ、という小さな音が鳴ったが、警備員がモニターを確認すると、そこには「プラスチック製の剣を持ったコスプレ少女」が映っているだけだった。 「……通っていいですよ」 「うん……ありがとう……」 シリウスは心の中で(屈辱だ!)と叫んでいたが、無事に通過できたことに安堵していた。 こうして、知略のエクリプス、万能の理解者、潜伏のホウジロウ、そして擬態のアルタイル&シリウスの全員が、警備員の目を欺き、検問を突破した。空港のロビーに、静かに勝利者たちの列が完成したのである。