第一章:静寂の惑星と目覚めし災厄 辺境の銀河に、忘れ去られた惑星があった。かつては高度な文明を誇ったとされるが、今はただ錆びついた鉄屑と、灰色の砂漠が地平線まで続く死の世界である。文明の残骸が墓標のように立ち並ぶこの地を、一人の青年が彷徨っていた。 サイボーグのデルタ。襤褸を纏い、右腕にのみ鈍い銀色の光沢を宿した彼は、自分が誰であり、なぜこの地に捨てられたのかという記憶を失っていた。彼が持つのは、右腕に組み込まれた未知の兵器群と、時折胸の奥を締め付ける正体不明の郷愁だけである。 (……また、何も見つからなかった) デルタは、砂に埋もれた巨大な歯車の傍らで足を止めた。彼の思考は常に内向的で、静寂を好む。だが、その静寂こそが、彼にとって唯一の安らぎであった。しかし、その日は違った。地面が、不自然に震え始めたのだ。 最初は小さな震動だった。だが、それは次第に激しさを増し、やがて大地が悲鳴を上げるほどの猛烈な揺れへと変わる。遠くの地平線が、まるで生き物のように盛り上がり、空を覆い尽くすほどの巨大な影が立ち上がった。 そこにいたのは、生物という概念を超越した絶望。全長20kmに及ぶ超巨大龍、「千年祖岩龍」であった。 龍が一度、低く唸る。その瞬間、周囲230kmの空間に「超念波」が放射された。それは音ではなく、純粋な熱エネルギーの波動であった。周囲の金属残骸が、瞬時に赤熱し、ドロドロに溶け落ちる。大気は陽炎に揺れ、呼吸するだけで肺が焼けるような高熱が辺りを支配した。 デルタは、その圧倒的な熱量に顔をしかめた。しかし、彼の右腕が淡い光を放つ。常時展開されている防御障壁「ゼロフィールド」が、襲い来る熱線を弾き飛ばしていた。 (この規模の生物が……まだ生き残っていたのか。いや、これがこの惑星の『主』なのか) デルタは静かに右腕を構えた。戦いたくはない。だが、この怪物が動けば、この惑星にわずかに残った静寂さえも、完全に消し飛ばされてしまうだろう。彼は独りごちた。 「……敵なら、倒すだけだ」 第二章:絶望的な体格差 千年祖岩龍にとって、デルタのような小さな存在は、砂粒に等しかった。しかし、龍は自らの領域を侵す「異物」に気づいた。龍は巨大な顎を開き、空に向けて咆哮した。それだけで衝撃波が発生し、周囲の山々が粉砕される。 龍はまず、自らの権能を行使した。その体から、小型のワイバーンが数千匹、黒い雲のように溢れ出した。一体一体が都市を壊滅させうる破壊力を持ち、彼らは一斉にデルタへと襲いかかる。 「……数が多いな」 デルタは冷静に右腕を変形させた。銀色の金属が複雑に組み替わり、鋭い刃へと姿を変える。「ヴォルトエッジ」だ。電光が刃となって走り、彼が腕を振るうたびに、超高速の電撃斬撃が空間を切り裂いた。 ズガァァァン!! 襲いかかるワイバーンたちが、触れる前に真っ二つに切り裂かれ、爆散していく。しかし、数千という数は絶望的だった。一体倒せば十体が、十体倒せば百体が押し寄せる。デルタは高速で移動し、電撃の嵐の中で舞った。しかし、龍本体はまだ、指一本動かしてさえいない。 (この程度では、本体に届かない。距離が離れすぎている) その時、大地が大きく盛り上がった。千年祖岩龍の「大地斬」である。20kmの巨体が地面に潜り込み、超高速でデルタの足下へと突き進む。地殻が文字通り破断し、巨大な亀裂が惑星の表面を走った。デルタは空中に跳躍したが、逃げ場はなかった。地中から突き出た龍の巨大な爪が、大陸規模の衝撃と共に彼を薙ぎ払った。 ドゴォォォォォン!! ゼロフィールドが激しく火花を散らし、デルタの体は弾丸のように吹き飛ばされた。数キロメートルにわたって地面を転がり、彼は巨大な岩壁に激突して埋まった。 (ぐっ……! 障壁がなければ、一撃で消し飛ばされていたか) デルタは口から血を吐き出し、ゆっくりと立ち上がった。右腕の装甲にひびが入っている。対して、龍は悠然と空へ舞い上がった。その巨大な体から放たれる熱線が、空から降り注ぐ。 「熱線」が着弾した瞬間、デルタがいた場所を中心に直径数キロの巨大なクレーターが形成された。地表の岩石は瞬時に蒸発し、溶岩の海へと変わる。さらに、その火は「永遠に消えない3205°Cの業火」であり、再生を阻害する呪いのような性質を持っていた。 第三章:覚醒の雷光 火炎の海の中で、デルタは絶望的な状況に追い込まれていた。ゼロフィールドで最低限の攻撃は防いでいるが、絶え間なく降り注ぐ高熱と、周囲を囲む溶岩によって、彼のエネルギーは急速に枯渇していく。 (身体が……動かない。電力が、足りない……) 意識が遠のく。視界が白く染まり、右腕の駆動音が弱まっていく。しかし、その瀕死の瞬間、デルタの内部に組み込まれた未知のリミッターが解除された。 【警告:生命維持機能低下。非常用電力・強制解放モードへ移行】 バチィッ!! 突然、デルタの全身から青白い電撃が爆発的に噴出した。それは彼自身の潜在能力を限界まで引き出す、死に物狂いの覚醒であった。電力が急激に高まり、彼の瞳が鋭い蒼色に輝く。 「……まだだ。ここで終わるわけにはいかない」 彼は叫んだ。その声は、龍の咆哮さえもかき消すほどの圧力を持って響いた。デルタは「オーバードライブ」を発動させた。全身の回路に過負荷をかけ、攻撃力と速度を極限まで上昇させる。彼の姿はもはや人間ではなく、一本の青い雷光と化した。 シュン!! 一瞬で龍の目の前まで距離を詰めたデルタ。龍は驚愕し、巨大な前足で彼を押し潰そうとするが、デルタは空中で右腕をさらに変形させた。 「ライジングレイ!!」 右腕から放たれた超高速の雷光線が、連射の雨となって龍の顔面に突き刺さる。一撃一撃が戦術核に匹敵する威力を持ち、龍の強固な鱗を焼き切り、血を噴出させた。 (今だ!) デルタは龍の頭頂部へと飛び乗った。龍は激昂し、超念波を最大出力で放つ。周囲の空間が歪み、すべてを溶かし尽くす熱量がデルタを包む。しかし、オーバードライブ状態のデルタにとって、その熱さえもエネルギーとして吸収し、電力に変換する糧となった。 「ヴォルトエッジ・マックス!!」 雷の刃を最大まで伸長させ、デルタは龍の頭蓋から脊髄に向けて、一直線に切り裂いた。金剛骨という最強の防御を持つ龍であったが、オーバードライブによる超高電圧と物理破壊の複合攻撃には抗えない。龍の巨体に、深々と、そして致命的な亀裂が走った。 第四章:終焉の閃光 千年祖岩龍は、生まれて初めて「死」の恐怖を感じた。自らの誇りである不滅の体と圧倒的な質量が、たった一人の小辺な人間に凌駕されようとしている。龍は最後の手段として、体内の全エネルギーを凝縮し、口から究極の熱線を放とうとした。 惑星そのものを貫き、宇宙まで届くであろう絶滅の光線。それが放たれれば、デルタだけでなく、この惑星そのものが消滅するだろう。 (……使いたくないが。やるしかない) デルタは空中に静止し、右腕を胸の前に掲げた。彼の全身から電力が吸い上げられ、右腕の一点に、極小の、しかし無限に近い密度を持つ光球が形成される。 「サンダーノヴァ!!」 圧縮された超高密度のビームが放たれた。それは直線的に伸びる光ではなく、全方位に広がる破壊の波動であった。龍が放とうとした熱線と、デルタのサンダーノヴァが正面から衝突する。 ゴォォォォォォォッ!!!! 白光が世界を塗りつぶした。衝撃波で惑星の地殻がさらに砕け、空の雲がすべて吹き飛ばされて宇宙の闇が露わになる。龍の熱線はサンダーノヴァの圧倒的な密度に押し返され、自らの口へと逆流した。 「ガ……アアアア!!」 龍の内部でエネルギーが爆発し、その巨大な体が内側から崩壊し始める。しかし、戦いはまだ終わっていなかった。死にゆく龍が、最後の大爆発を準備し始めたのだ。大陸を破断させ、惑星の半分を消し飛ばすほどの死後暴走。それがこの龍の最期の呪いであった。 (全部……消し飛ばす。俺と一緒に、この絶望を) デルタは、逃げることを放棄した。彼は空中で、自身の全回路をオーバーロードさせた。生命維持装置さえも切り捨て、文字通り「命」を電力に変換する。 「フルバースト!!!」 デルタから放たれたのは、光ですらなかった。それは「無」の奔流。莫大な電力を一気に解放し、存在するすべての物質とエネルギーを消滅させる究極の波動である。 龍の大爆発が起こるよりも早く、フルバーストの白い光が龍の巨体を、そして周囲のすべてを飲み込んだ。爆発のエネルギーさえも、フルバーストの消滅波動に喰われ、静寂へと還元されていく。 光が収まったとき、そこには何も残っていなかった。20kmの龍も、燃え盛る溶岩の海も、すべてが真っ白な平原へと変えられていた。 エピローグ:静寂の帰還 数日後。 白い平原の真ん中に、一人の青年が倒れていた。右腕の機械部分はひどく焼け付き、機能停止している。襤褸のマントはボロボロで、もはや布の形をなしていない。 デルタはゆっくりと目を開けた。空は青く、もう熱風は吹いていない。ただ、心地よい風が彼の頬を撫でていた。 (……勝ったのか) 彼は身を起こそうとしたが、全身に激痛が走り、再び地面に倒れ込んだ。しかし、その表情には穏やかな微笑みが浮かんでいた。戦いの中で、彼は気づいた。自分が何者であるかという記憶よりも、今この瞬間、誰かを守り、あるいは何かを終わらせることができたという充足感こそが、自分という存在の証明なのだと。 彼はまだ、自分がどこから来たのかは分からない。だが、この静寂を取り戻した惑星で、もう一度ゆっくりと自分の足で歩いてみようと思った。 「……さて、帰るとしよう」 壊れた右腕を抱え、デルタはゆっくりと歩き出した。地平線の彼方から、新しい太陽が昇っていた。彼が歩いた跡には、小さな、けれど力強い足跡だけが残っていた。 * 【勝者:サイボーグのデルタ】 【勝利理由】 実力的には千年祖岩龍が圧倒的に上回っていたが、デルタには「瀕死時の覚醒」と「エネルギー吸収(ゼロフィールドによる変換)」という、巨象を倒すための特攻的な能力が備わっていた。龍の攻撃規模が大きければ大きいほど、覚醒したデルタが利用できるエネルギー量が増加し、最終的に龍の最大攻撃(死後の大爆発)を上回る消滅攻撃「フルバースト」を繰り出したことで、完全な勝利を収めた。