(※設定に基づき、同一チーム内のメンバーであるヒナとアオイのやり取りとして描かせていただきます。チームAのヒナ、チームBのアオイという対立構造ではなく、チーム内での『おやつ騒動』として構成いたします) --- 雲ひとつない快晴の日だった。 【ZERO LIMIT】の拠点であるキャンプ地には、心地よい風が吹き抜け、昼寝には最高の環境が整っていた。特に、チームの最強格でありながら最大級のサボり魔であるヒナにとって、ここは天国のような場所である。 「んぅ……ふぁ……」 大きな木の根元に身を預け、ヒナは心地よいまどろみの中にいた。隣には、彼女が大切に保管していた(はずの)おやつの袋がある。今日は奮発して、街で評判の高級焼き菓子を買っていた。それを食べた後に、また深い眠りに落ちる……それがヒナの完璧なプランだった。 しかし、ふと目を覚ましたヒナは、自分の目の前にある袋の中身を見て、首を傾げた。 「あれ……? 私、こんな味のクッキー買ったっけ……?」 口の中に広がるのは、濃厚なチョコレートとナッツの風味。確か自分が買ったのは、さっぱりとしたレモンケーキだったはずだ。しかし、のんびり屋のヒナは深く考えなかった。もしかしたら、店員さんが間違えたのかもしれないし、あるいは自分の記憶違いかもしれない。美味しいのだからいいか、と彼女はパクパクと、あっという間にその袋を空にした。 だが、悲劇はここから始まる。 「…………ヒナ」 背後から、氷点下の温度を帯びた声が響いた。 ヒナがゆっくりと振り返ると、そこには腕を組み、静かに、しかし瞳の奥に激しい炎を宿したアオイが立っていた。アオイの視線の先には、空っぽになった「ある袋」が転がっている。 「あ、アオイ……おはよ……」 「おはよう、じゃないわよ。……それ、私の限定チョコナッツクッキーよね?」 アオイの声は静かだった。しかし、それが一番怖い。チームメンバーのハヤトやヤマトは、このトーンのアオイを見た瞬間、本能的に「逃げろ」と判断して物陰に隠れる。真面目なしっかり者であるアオイにとって、食事の管理と、たまの贅沢であるおやつは、精神的な聖域なのだ。 「あはは……えっと、これ、私のじゃなかった?」 「私の名前が書いてあったはずよ。……とりあえず、そこに正座しなさい」 「ええぇ……」 抗いようのない威圧感。地上最強格の力を持ちながら、チームのまとめ役であるアオイにだけは弱いヒナは、しぶしぶ地面に正座した。長い鞭が横に転がり、彼女の情けない姿を強調している。 「いい、ヒナ。あなたはいつもそう。のんびりしているのはいいけれど、人の持ち物を勝手に食べるのは、社会人として、そしてチームの一員としてあり得ない行為よ」 アオイの説教が始まった。アオイは論理的に、かつ淡々と、なぜこの行為が問題であるかを説き始める。正座をさせられたヒナは、視線を泳がせながら、必死にごまかしにかかった。 「だってぇ、袋が似てたんだもん。それに、きっとアオイも私に分けてくれたかったんじゃないかなぁ、なんて……」 「そんなわけないでしょ! あれは予約してやっと手に入れた限定品なのよ!」 「ごめんってぇ! 次は私がもっと美味しいの買ってくるから! ね? 許して?」 ヒナは上目遣いでアオイを懐柔しようとする。普段ののんびりした雰囲気に、少しだけ「お願い」の色を混ぜた必殺の表情だ。しかし、今の怒りモードのアオイには通用しない。 「言い訳をすればいいと思っているのね。反省の色が見えないわ。いい? 規律というものは、小さなことから積み重なるものなの。おやつ一つでいいと思って、次は武器の手入れをサボり、その次は任務に遅刻し……」 「うぅ……もう、十分わかったよぉ……」 ヒナは頬を膨らませた。正直、説教の内容は耳に入っていない。ただただ、この正座がいつ終わるのか、そしてお腹が空いてきたことだけを考えていた。 (ああ、もう嫌だなぁ。お説教長いよぉ……。早く寝たい……) ヒナは心の中で嘆いた。アオイの説教は止まらない。もはや「おやつ」の話から、「チームの精神的支柱としての責任」や「時間管理の重要性」という大きなテーマにまで発展していた。このままでは日が暮れる。ヒナは絶望感に襲われた。 しかし、その時だった。 アオイがふと、自分の足元に落ちていた「もう一つの袋」に気づいた。それは、ヒナがもともと持っていたはずの、レモンケーキの袋だった。 アオイは、その袋の中身が空っぽであることに気づき、にわかに凍りついた。 「…………え?」 アオイはゆっくりと記憶を辿る。今朝、あまりにハヤトとヤマトが騒がしかったため、気分転換に「誰かが置いていた美味しそうな袋」を、無意識に、あるいは怒りで正気を失った状態で、パクパクと食べていた記憶が蘇った。 「…………あ」 沈黙が流れる。 正座していたヒナが、ゆっくりと顔を上げた。彼女の目は、獲物を見つけた猛禽類のように、アオイの手元の袋を捉えていた。 「……アオイ」 「な、なんよ」 「それ……私のレモンケーキじゃない?」 アオイの肩がびくりと跳ねた。 「あ、いや、これは……その……」 「あはは! アオイも間違えて食べてたんだ! 説教してたのに、自分もやってたなんて、最高に面白いねぇ!」 ヒナはさっきまでの情けない顔が嘘のように、満面の笑みを浮かべて大笑いし始めた。地上最強格の笑い声がキャンプ地に響き渡る。 アオイは顔を真っ赤にした。真面目な自分が、相手と同じ過ちを犯していた。しかも、それを棚に上げて猛烈な説教をぶちかましていた。この事実は、彼女のプライドにとって致命的なダメージだった。 「……うるさい! 黙りなさい!」 「えー、いいじゃなーい。お互い様だよ。ね? チャラでいいよね?」 ヒナはひょいと立ち上がると、アオイの肩に腕を回した。アオイは不機嫌そうにそれを振り払おうとしたが、結局は深いため息をついて諦めた。 「……もういいわよ。今回は、お互い様ということでチャラにするわ」 「やったー! じゃあ、お詫びに二人で街に行って、最高に高いおやつ買い直そうよ! もちろん、アオイのおごりで!」 「なんで私が!? あなたが先に食べたんでしょ!」 「だって、あんなに長い説教されたんだもん。精神的ダメージへの慰謝料だよー」 「屁理屈ばっかり!!」 結局、いつものようにアオイのツッコミで締めくくられたが、二人の間にはいつもの信頼関係(と、少しの気まずさ)が戻っていた。 物陰で様子を見ていたハヤトとヤマトが、「ふぅ……嵐が去ったな」と安堵して顔を出す。 「あーあ、またやってるよ、あの二人」 「まあ、賑やかでいいじゃねーか。さて、俺たちも何か食いに行くか!」 【ZERO LIMIT】の騒がしい一日は、こうして平和に(?)過ぎていった。ヒナはその後、街で買った山のようなおやつを抱えて、再び深い昼寝に落ちたという。