聖杯戦争:終末の円舞曲(エンドレス・ワルツ) 第一章:召喚、あるいは絶望の始まり 冬木の街は、静まり返っていた。しかし、その静寂は嵐の前の静けさに過ぎない。選ばれた七人の魔術師が、この地に「サーヴァント」を呼び出す儀式を執り行った。 ある屋敷の地下、冷徹な眼差しを持つ英国の魔術師、エドワードは血の海に描かれた魔法陣を前に、不敵に笑っていた。彼が求めたのは「絶対的な破壊」である。 「来い。人理の焼却者、全知の王よ!」 眩い光と共に現れたのは、黄金の装飾を身に纏った傲慢なる男、ゲーティアであった。クラスは【ビースト】。本来召喚されるべき枠を超えた絶望の権現である。 「私を呼び出したのは貴様か。矮小な人間よ。よかろう、貴様の野心、私の退屈しのぎに利用してやろう」 一方、古都の神社では、若き日本人魔術師・奏太が震える手で触媒を掲げていた。現れたのは、美しくも禍々しい、下半身が蛇の美女。常世蛇 神楽である。クラスは【キャスター】。 「あらあら……。こんな稚拙な術式で私を呼び出すなんて。貴方、教育が必要ね? 礼儀作法から叩き込んであげましょうか」 神楽の口から漏れるのは、美貌に不釣り合いな、心を抉るようなモラハラ気質の暴言であった。 さらに、山奥の廃墟では、アメリカ人の粗野な魔術師、ジャックが狂ったように叫んでいた。 「最強の化け物を出せ! 全てを喰らい尽くす怪物を!」 そこに現れたのは、地球外生命体ORT。クラスは【フォーリナー】。その姿を見た瞬間、ジャックは快楽に身を震わせたが、ORTはただ静かに、周囲の風景を水晶の結晶へと塗り替え始めた。 そして、深海に近い地下祭壇では、静かなる魔術師・シオンが、母なる根源の影を呼ぶ。現れたのはティアマト。クラスは【ビースト】。その圧倒的な魔力量に、シオンは戦慄した。もはやこれは「戦争」ではなく「天災」の召喚であった。 さらに、芸術を愛する変態的な魔術師・ルカは、鋼の巨躯を持つエチュード・ゴーゴンを【バーサーカー】として。清貧を誓う修道女のような魔術師・マリアは、藍色の髪を持つ少女フテロマを【アーチャー】として召喚した。 最後の一人。彼女にはマスターなど不要だった。沙条愛歌。彼女は自らが根源に接続しているため、サーヴァントを召喚せずとも【ルーラー】に相当する権能を以て、この戦いの観測者であり参加者として君臨した。 こうして、冬木の街に「最悪の陣容」が揃った。 第二章:静かなる侵蝕と、苛烈なる説法 聖杯戦争が始まって数日。街のあちこちで「異常」が発生していた。まず、ORTが陣取った地域は完全に「水晶渓谷」へと変貌し、物理法則が書き換えられた。そこに足を踏み入れた魔術師たちは、一瞬にして捕食され、結晶の一部となった。 「まあ、見てなさい。あんな品のない結晶の塊が街を汚して。本当に、美意識というものが欠けているわね」 常世蛇 神楽は、マスターの奏太を伴い、優雅に歩いていた。彼女の玉虫色の色留袖は、ORTが撒き散らす環境改変の毒を完璧に弾き飛ばしている。 「神楽さん、あそこに行けば危険です!」 「うるさいわね。貴方は黙って私の後ろで震えていればいいのよ。そんなに腰が引けていて、魔術師として恥ずかしくないのかしら?」 神楽は奏太に毒づきながらも、その鋭い視線で周囲を警戒していた。 そこへ、一人の刺客が現れる。エチュード・ゴーゴンである。彼は巨大な『鑿』を振りかざし、大地を砕いた。 「ガハハ! 良い素材がおるな! その蛇の身体、見事な宝玉に仕上げてくれようぞ!」 ゴーゴンが放った石化の斬撃が神楽を襲う。しかし、神楽は指先一つ動かさず、口を開いた。 「……情けないわね。石を削るのが能書きなら、自分の頭の中の空っぽな空間でも彫刻してたらどうかしら? 芸術家気取りの粗大ゴミさん」 【無間説法】。淡々と、しかし執拗に繰り返される精神攻撃。ゴーゴンは一瞬、自らのアイデンティティに疑問を抱き、動きが止まった。 「なっ……!? 何を言うか!」 「いいえ、事実を言っただけよ。貴方の生き方は、ただの破壊の模倣に過ぎない。救いようのない凡才ね」 神楽の言葉は、そのまま呪いとなってゴーゴンの精神を蝕んでいく。そこへ、後方から高精度の熱塵弾が撃ち込まれた。 「戦いたくないけど……戦うしかないよね。行くよ」 フテロマが空中に浮遊し、ダインスレイヴを連射する。その精密射撃は、呆然とするゴーゴンと、余裕をかます神楽の両方を同時に狙っていた。 第三章:理の外側、根源の気まぐれ 戦況が混迷を極める中、沙条愛歌は街の時計塔の頂上で、退屈そうに爪を眺めていた。 「ふふっ。みんな必死ね。聖杯なんていう、ただの願望機のために殺し合うなんて」 彼女にとって、この聖杯戦争は子供の遊びに過ぎない。彼女は空間転移を使い、一瞬で戦場へと降り立った。 愛歌の目の前には、ティアマトがいた。海から現れた巨大な母性は、街の半分を黒い泥で飲み込んでいた。ティアマトが発する「生命の原種」が、街の人間を強制的に黒化させ、配下に変えていく。 「アア……アア……」 ティアマトの嘆きが響き渡る。それは全生命への愛であり、同時に絶滅への宣告であった。 「ねえ、お母さん。あなた、ちょっと大きすぎるわ」 愛歌が指を鳴らす。すると、ティアマトの周囲の空間がねじれ、強制的に圧縮された。根源に接続する愛歌にとって、この世界の理など書き換え可能なコードに過ぎない。 そこに割り込んだのは、黄金の王、ゲーティアであった。 「分不相応な振る舞いだ、娘よ。この世界を焼き尽くし、人理を再構築するのは私の役目である」 ゲーティアが空に浮かぶ光の輪、人理定礎を起動させる。数億本のAランク宝具が、雨のように降り注いだ。 ドゴォォォン!! 冬木の街が、文字通り消滅し始めた。爆風と熱量。しかし、その中心に立つ愛歌は、あくびをしていた。 「うるさいなぁ。私の服が汚れちゃうじゃない」 愛歌は未来予知と可能性改変を行い、攻撃が当たる直前に「攻撃が当たらなかった世界線」へと自身をスライドさせた。完璧な回避。ゲーティアの顔に初めて、苛立ちの色が浮かぶ。 第四章:絶望の共鳴、神々の激突 街はもはや原型を留めていなかった。水晶の森、黒い泥の海、そして黄金の炎。三つの絶望が混ざり合い、地獄絵図と化している。 「いい加減に、この不浄な景色を掃除しましょうか」 常世蛇 神楽が、ついにその真価を発揮する。彼女は奏太の令呪を消費し、強制的に魔力をブーストさせた。 「さあ、見ていなさい。これが真の『清浄』よ」 【六根清浄】。神楽が唱える多重呪術が、世界を包み込む。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、そして思考。全ての感覚を白紙に戻し、不浄なるものを消滅させる光の波動が広がった。 この光は、ティアマトの黒泥を浄化し、ゲーティアの炎を消し去り、ORTの水晶を砕いた。 「なっ……! 私の権能を塗り替えたというのか!?」 ゲーティアが驚愕する。しかし、神楽は冷酷に笑う。 「あら、驚いた? 貴方みたいな『計算ずく』の王様には、理屈抜きの神威は理解できないでしょうね。お疲れ様、もう退場していいわよ」 しかし、その瞬間。地底から巨大な衝撃が走った。ORTである。細胞一つ残さず消さない限り死なないその怪物は、神楽の浄化の光さえも「捕食」し、自身の外皮をさらに強化していた。 「……ッ! まだ生きているの!? このしぶとい化け物!」 神楽の余裕が消える。ORTは咆哮し、一兆度の炎の玉を口から吐き出した。超新星爆発に匹敵する熱量が、神楽を飲み込もうとする。 第五章:死闘、そして崩壊への加速 「危ない!」 フテロマが加速翅を最大出力で展開し、神楽と奏太を強引に突き飛ばして救出した。彼女は空中でダインスレイヴを最大連射し、ORTの注意を逸らす。 「戦いたくないけど……でも、ここで全部壊されたら、帰る場所がなくなっちゃうもん!」 フテロマの戦略的な射撃が、ORTの弱点――と言っても、ほぼ無いのだが――を執拗に突き、わずかな隙を作る。 そこを逃さず、エチュード・ゴーゴンが飛び出した。 「ワシの芸術を完成させるのは、この星で最強の素材だ! 喰らえ、脊髄の剣!」 【肉肉しい宝剣】。ゴーゴンは自らの脊髄を剣として抜き出し、ORTの水晶の外殻に叩き込んだ。石化の斬撃が、ORTの細胞を内部から結晶化させ、動きを鈍らせる。 しかし、ORTの回復速度はそれを上回った。一瞬で再生し、ゴーゴンの腕をそのまま捕食した。 「ぎゃあああああ!!」 「あーあ、お疲れ様。お粗末な芸術だったわね」 神楽が冷たく言い放つ。しかし、彼女の表情は険しかった。この戦い、誰もが「最強」であり、誰もが「不滅」に近い。 そんな中、ティアマトが真体へと移行し始めた。体長7400万km2。地球そのものを覆い尽くす絶望の母。彼女が一度呼吸すれば、大気は毒に変わり、一度瞬きすれば、大陸が沈む。 「もういいわ。飽きた」 沙条愛歌が、静かに呟いた。彼女は聖杯など興味がない。ただ、この混沌とした状況が、自分の美意識に反していた。 「みんな、一緒に消えちゃえばいいのに」 愛歌が根源の力を解放し、世界を「無」に回帰させようとしたその時、一つの特異点が発生した。 第六章:女媧再臨、真なる神の降臨 「……ふん。根源だか何だか知りませんが、お嬢ちゃん。世界を壊すのは、私の仕事よ」 常世蛇 神楽が、静かに目を閉じた。彼女の周囲に、かつてないほどの神気が集い始める。マスターの奏太は、三画あった令呪をすべて使い切り、彼女にすべての魔力を注ぎ込んだ。 「【女媧再臨】」 眩い光が冬木を、そして地球を包み込んだ。神楽の姿が変貌する。美魔女の皮を脱ぎ捨て、万物を創造し、破壊する真なる神としての姿へ。 彼女が小指をわずかに動かす。すると、ORTの不滅の細胞が、一瞬にして塵へと変わった。細胞一つ残さず消滅させるという唯一の殺害方法を、神権によって実現させたのだ。 次に、彼女が人差し指を振る。 「再生しなさい。不浄を除いた、清らかな世界へ」 その指先から放たれた光が、ティアマトの絶望を、ゲーティアの傲慢を、そして沙条愛歌の気まぐれな干渉さえも、すべて塗りつぶしていく。 「馬鹿な……! 私が、この私が、消される……!?」 ゲーティアの叫びは、光の中に消えた。ティアマトの嘆きも、愛歌の退屈な微笑みも、すべては神楽の「再構築」の前に、意味をなさなかった。 第七章:終焉、そして静寂へ 光が収まったとき、そこには元の冬木の街が戻っていた。いや、戻ったのではない。神楽が「理想とする清浄な街」として、再創造した世界であった。 生き残っていたのは、神楽と、ボロボロになった奏太。そして、なぜか生き残っていたフテロマだった。 「……ふぅ。やっと静かになったわね」 神楽は元の、下半身が蛇の美魔女に戻っていた。彼女は奏太を見て、いつものように毒を吐く。 「見てよ、この情けない顔。聖杯戦争を勝ち抜いたとは思えないわね。貴方みたいなのがマスターだから、私がこんなに苦労するのよ」 奏太は力なく笑った。「……でも、勝ったんですよね」 「当たり前よ。私がいたんだから。さあ、聖杯なんていう安っぽい金色のカップは捨てなさい。あんな不浄なものを欲しがるなんて、正気の沙汰じゃないわ」 神楽は、願うことさえ不要なほどの力を得ていたが、それを誇ることはなかった。ただ、自分の美学に反するものを排除しただけである。 フテロマは静かに空を見上げた。 「戦いたくなかったけど……いい世界になったね。私は、アルカンドに帰るよ」 少女は光の粒子となって、遠い故郷へと消えていった。 冬木の街に、本当の静寂が訪れた。聖杯戦争という惨劇は、一人の苛烈なる蛇神の気まぐれと、圧倒的な権能によって、強制的に完結させられたのである。 【勝者:常世蛇 神楽 & 奏太 陣営】