天空に浮かぶ巨大な円形闘技場「ゼニス・コロシアム」。そこは次元の壁を超え、あらゆる世界の強者が集う、王位継承権を賭けた聖地であった。観客席を埋め尽くす数万の群衆が、地響きのような歓声を上げている。彼らが待ち望んでいたのは、全く異なる理(ことわり)を持つ四人の戦士による、至高の頂上決戦である。 「さあ、始まりだ! 勝ち残った者こそが、この世界の次なる王となる!」 審判の宣言と共に、闘技場の中央に四人の対戦者が姿を現した。 一人目は、橙色の道着に身を包んだ筋肉質の男、悟空。彼は期待に胸を膨らませ、軽く身を弾ませていた。 「へへっ、強そうな奴らが集まったな! オラ、ワクワクすっぞ!」 二人目は、見るからにやる気のない表情で、どこか気だるげに佇む男、ダラ。彼は闘技場の床にそのまま寝そべろうとしていた。 「あー……面倒くせぇ。誰か代わりに勝ってくんねぇかな……」 三人目は、どこか寂しげな眼差しで、周囲から距離を置こうとする青年、【ネガティブエモーション】ソラ。彼は小さく肩をすくめ、呟いた。 「……どうして僕がこんなところに。どうせ僕なんて、何もできないし……」 そして最後の一人は――概念的な存在、「お 知 ら せ」。姿なき音声信号が闘技場全体に響き渡る。 『この音声信号は品質管理用の信号であります。(異常ではありません)』 あまりに異質な面々。しかし、王位という絶対的な権力への渇望(あるいは運命)が、彼らを激突させる。 戦いの火蓋は、悟空の先制攻撃で切って落とされた。 「まずはオメェからだ!」 悟空が猛烈な速度でダラに襲いかかる。しかし、ダラは微動だにしない。悟空の拳が顔面に届く直前、空間が歪んだ。ダラのスキル『惰舞』。場の流れが無理やり書き換えられ、悟空の攻撃は不自然な軌道を描いて空を切った。 「おっと……危ねぇ。今の、なんだ?」 「……あー、もう、動きたくないって言ってるだろ」 ダラは溜息をつきながら、手にした『堕天の滅翼槍』を軽く振った。一見緩慢な動きだが、それは『怠狂』による視認不可能な一撃。悟空は直感的に回避したが、頬に薄い切り傷を負った。存在崩壊の力が、わずかに皮膚を削り取ったのだ。 一方、その様子を遠くから見ていたソラは、さらに深くうなだれていた。 「やっぱり、僕は場違いだ。あんなに強い人たちの中で、僕なんて……。ああ、もう消えてしまいたい」 ソラの負の感情が高まる。その瞬間、悟空が彼に声をかけようと近づいた。 「おーい! おメェもやる気出せよ!」 「っ! 近付かないで!!」 ソラの叫びと共に、不可視の衝撃波が爆発的に放たれた。スキル『近付かないで』。悟空は文字通り吹き飛ばされ、闘技場の壁まで激突した。 「いっテテ……。こいつ、見た目によらずすごいパワー持ってんな!」 悟空は笑いながら立ち上がり、ついに本気を出すことを決めた。彼は足を広げ、深く息を吸い込む。黄金のオーラが激しく渦巻き、黒髪が輝く金色へと変色した。 「はあああああああ!!」 スーパーサイヤ人への変身。全能力値が飛躍的に上昇し、闘技場全体がその圧力で震える。 「へへっ、これで準備万端だ!」 悟空は超高速で移動し、ダラとソラの双方に猛攻を仕掛ける。しかし、そこで異変が起きた。 『この音声信号は品質管理用の信号であります(異常ではありません)』 「お 知 ら せ」のスキルが発動した。それは攻撃ではなく、「現状の定義」の上書きであった。悟空が放った渾身の正拳突きが、突如として「品質管理用の信号」へと変換され、物理的な衝撃を失って消失したのである。 「なっ!? オラの攻撃が消えた!?」 「あはは、変な音が鳴ってるね」と、ソラがぼんやりと呟く。しかし、ソラの心の中には絶望が蓄積されていた。強者たちの衝突、自分への無関心、そしてこの異常な状況。彼の中で「負の感情」が臨界点に達した。 「もう……もういいや!!」 ソラが叫んだ。スキル『もういいや』。彼を中心として、世界中の苦しみ、憎しみ、希死念慮が凝縮された漆黒の波動が爆発的に広がった。回避不能の絶対命中攻撃。 「ぐああああ!!」 悟空が、ダラが、そして空間さえもがその負の奔流に飲み込まれる。悟空は精神力で耐えようとしたが、あまりに濃密な絶望感に意識が混濁する。ダラでさえも、その「堕落」を上回る「絶望」に、一時的に意識を失い気絶した。 しかし、その漆黒の波動を、ただ一つの存在だけが静かに受け流していた。 『この音声信号は品質管理用の信号であります(異常ではありません)』 感情を持たず、ただ「信号」である「お 知 ら せ」にとって、精神的な攻撃は無意味であった。ソラはスキルを使い切り、脱力してその場に伏せた。悟空は意識を失いながらも、かろうじて身を起こそうとするが、指一本動かせない。 静寂が訪れた。生き残ったのは、ただ一つ。概念的な信号のみであった。 ジャッジは下った。実力、精神力、そして相性。すべてを凌駕したのは、一切の感情を持たず、ただ「異常ではない」と定義し続けた不可思議な存在であった。 「……勝者、『お 知 ら せ』!!」 観客席からは、拍手ではなく、困惑と困惑による沈黙が広がった。しかし、ルールは絶対である。王位継承権は、その信号へと譲渡された。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王「お 知 ら せ」の治世は、極めて奇妙なものであった。 王としての政務はすべて「品質管理」という名目で自動化され、国民には毎日決まった時間に「異常ありません」という音声信号が放送された。政治的な争いや権力闘争は、すべて「信号のノイズ」として処理され、排除された。結果として、国からは争いが消え、完璧に管理された、静寂に満ちた平和が訪れた。 それはある意味では究極の善政であり、ある意味では個性を奪われた究極の悪政であった。しかし、国民は次第にその単調なリズムに心地よさを感じ、争うことを忘れていった。 この「異常なき治世」は、その後300年の長きにわたって続いたという。