配管工と鑑定士の決闘 荒涼とした異世界の平原に、二つの影が対峙していた。灰色の作業着に身を包んだ鈴木志郎は、黒髪を短く刈り、薄い髭を蓄えた真面目な顔を上げ、静かに息を整えていた。彼の仕事は変わらない。魔力の循環を司る配魔管の管理者として、詰まりを除き、世界の流れを正す。それが彼の信念、明鏡止水の境地だ。一方、幼い少女の姿をした長嶋小雪は、銀色の瞳を輝かせ、冷静に相手を観察していた。神から授かった転生特典【鑑定】と【習得】を携え、どんな敵も攻略する不屈の戦略家。彼女の心には、決して揺るがぬ勝機の光が宿る。 二人は互いに約束した。一撃のみ、全力で放ち、回避も防御もせず、ただ正面からぶつかり合う。風が平原を駆け抜け、土埃を巻き上げる中、志郎が先に動いた。彼の右手がゆっくりと上がり、腰に下げた魔具箱から配魔管を抜き取る。古びた金属の管は、魔力の脈動を宿し、微かな振動を伝えてくる。志郎は管を地面に突き立て、深く息を吸い込んだ。「俺は仕事するだけだ」と独り言ち、魔力詰りのスキルを起動させる。 管の内部で、魔力が淀み始める。志郎の周囲の空気が重く淀み、視界がわずかに歪む。彼は管の栓を指先で慎重に回し、蓄積を極限まで高める。管内は魔力の圧力で膨張し、金属が軋む音が響く。地面が微かに震え、土が盛り上がる。志郎の額に汗が滲み、灰色の作業着が風に煽られる。彼の目は静かだ。詰まりは完成し、管は今や巨大な圧力の器と化していた。警告の言葉が彼の唇から漏れる。「近付くな。解消するぞ。無視する奴はどうなっても知らん」 対する小雪は、動じず【鑑定】を発動させた。彼女の瞳が金色に輝き、志郎の全情報を瞬時に読み解く。名前、スキル、弱点――配魔管の仕組み、魔力詰りの蓄積、解消時の奔流の性質まで、すべてが彼女の脳裏に刻まれる。「ふむ、面白いわね。配管工の力か。でも、勝機は見えた」小雪の小さな手が上がり、【習得】を即座に起動。志郎のスキルを寸分違わず模倣し、マスターする。彼女の周囲に、幻の配魔管が形成され、魔力詰りが急速に蓄積されていく。小雪の銀髪が魔力の風に舞い、幼い顔に戦略家の微笑みが浮かぶ。アドリブの天才として、相手の力を利用し、完璧に再現。彼女の管もまた、極限の圧力を帯び、地面を震わせる。 二人は同時に解消を始めた。志郎が管の栓を力強く引き抜くと、内部の魔力淀みが爆発的に解放される。間欠泉のごとく、管から極大の魔力奔流が噴き出し、巨大な水柱のような圧力が平原を薙ぎ払う。奔流は青白く輝き、空気を焼き、土を抉り、轟音を響かせて小雪に向かう。志郎の体は後退せず、ただその力を注ぎ込む。 小雪もまた、模倣した管の栓を抜き、自身の魔力詰りを解消。彼女の奔流は志郎のものと同等の規模で、青白い奔流が逆方向に噴射する。マスターしたスキルゆえ、耐性を得た小雪の体は奔流の反動に耐え、力を増幅させる。二つの奔流が中空で激突した瞬間、世界が震えた。 衝突は壮絶だった。青白い魔力の奔流が互いに噛み合い、爆発的な閃光を放つ。空気が蒸発し、地面が陥没。雷鳴のような轟音が平原を覆い、土煙が天を衝く。二つの圧力は螺旋を描き、互いを押し潰そうと争う。志郎の奔流は純粋な破壊力で小雪のそれを削り、小雪のそれは模倣の精度で志郎の流れを乱す。魔力の粒子が四散し、熱波が周囲を焼き尽くす。衝突点では空間が歪み、黒い亀裂が生じる。志郎の顔に初めての苦悶が走り、小雪の瞳にわずかな動揺がよぎるが、両者とも一歩も引かず、力を注ぎ続ける。 やがて、均衡が崩れた。小雪の模倣奔流が耐性の影響でわずかに優位に立ち、志郎の奔流を押し返す。志郎の管が耐えきれず軋み、奔流の勢いが弱まる。一瞬の隙に、小雪の圧力が志郎を直撃。巨大な魔力の波が彼の体を包み、灰色の作業着を裂き、黒髪を乱す。志郎の体は吹き飛び、地面に叩きつけられ、気絶した。生存はしているが、意識を失い、動かなくなった。 小雪は息を荒げ、自身の奔流を収め、静かに立つ。勝機を見失わなかった彼女の戦略が、決着をつけた。 勝者: 【鑑定習得者】長嶋小雪