第1章:異端のコンビと「日常」という名の戦場 【所属部署】 天雷 空詩:暗躍課(対特殊能力対応部隊) 国家の影として、常識外の能力を持つ標的を狩るスペシャリスト。高い射撃精度とシステム的な身体強化、そして記憶を読み取る能力を駆使し、証拠を残さず任務を完遂させる。性格は不器用なツンデレで、口調はボクっ娘。高い能力ゆえに周囲から距離を置かれがちだが、内面は情に厚い。 棒人間:遊撃課(特殊浸透・攪乱担当) 二次元の厚みを持たず、あらゆるデジタルスクリーンを介して転移・干渉する不可思議な存在。論理を超越した「ゴミ箱」への追放能力を持ち、敵陣の攪乱や強制排除に特化している。性格は飄々としており、時折会議に不法侵入しては運営を困らせるトリックスターだが、その実力は本部に認められている。 K-NIGHT本部の「中央区」は、常に張り詰めた緊張感に包まれている。白を基調とした無機質な廊下、絶え間なく点滅する管制パネル、そして足早に通り過ぎるエージェントたち。だが、そんな厳格な空気の中でも、天雷空詩は一人、不機嫌そうに頬を膨らませて歩いていた。 「もう!なんでボクがこんな面倒な後始末に回されなきゃいけないのよ!」 黒髪のツインテールを激しく揺らし、彼女は手元の端末を睨みつける。彼女の背中には、愛銃であるPGM・ウルティマラティオ・ヘカートIIが、その威容を誇らしげに背負われていた。彼女が憤っているのは、今回の任務が「遊撃課の迷走によるフォローアップ」だったからだ。 すると、隣を歩いていたはずの「空間」が、ふっと歪んだ。 「まあまあ、そう怒るなって。結果的にターゲットは確保されたんだからさ」 唐突に現れたのは、厚みゼロ。文字通り線で描かれたような、白黒の「棒人間」だった。彼は空詩の隣で、物理法則を無視した軽やかなステップを踏んでいる。もともと彼は、近くの監視モニターから「這い出して」きたのだ。 「うるさい!あんたが勝手にターゲットを『ゴミ箱』にぶち込んだせいで、必要な記憶の抽出ができなくなったじゃない!あいつが消滅するまで30分待って、矢印マンに指示して出させてもらうなんて、効率が悪すぎるわ!」 「効率、効率って。たまにはこういう遊び心のある作戦もいいじゃないか」 棒人間が肩をすくめる(ように線が動く)。空詩は赤色の瞳を鋭く光らせ、彼に向かって指を突きつけた。 「遊び心で済むのは、あんたが死なない種族だからよ!ボクはこっちでシステムアシストをフル回転させて、あんたが画面から飛び出すタイミングを計算して合わせてあげたんだからね!」 「おっと、それには感謝してるよ。空詩ちゃんのサポートは完璧だからね」 「っ……! 別に、あんたのためにやったわけじゃないし! 任務に支障が出るのが嫌だっただけよ!」 顔を真っ赤にしてそっぽを向く空詩。典型的なツンデレの反応に、棒人間はクスクスと笑いながら、彼女の肩に(厚みのない)手を置こうとした。もちろん、空詩はそれを電光石火の速さで回避し、レザーナイフの柄を軽く叩きつけた。 「触んな! 棒切れが!」 二人の喧嘩は、もはや中央区の日常風景だった。しかし、そんな彼らに管制局から通信が入る。 『暗躍課・天雷、遊撃課・棒人間。至急、開発区の第3実験場へ向かえ。新兵器のテスト運用中に、制御不能の自律型AIドローンが暴走。職員が数名取り残されている』 空詩の表情が瞬時に「仕事モード」に切り替わった。彼女の瞳の中でシステム的アシストが起動し、戦術マップが展開される。 「……チッ、また開発区のドジっ子たちがやらかしたわね。行くわよ、棒人間!」 「了解。じゃあ、最短ルートで行こうか」 棒人間が空詩の目の前に、一枚の「ウィンドウ(画面)」を生成した。それは開発区へと直結するショートカットアイコンのようなものだった。彼は迷わずそのウィンドウの中に飛び込み、空詩の手を強引に引っ張る。 「ちょっ、いきなり引きずり込むなー!!」 絶叫と共に、二人の姿は中央区から消え、デジタルな空間を通り抜けて開発区へと転送された。 開発区の第3実験場は、惨状だった。巨大なドーム状の空間には、火花を散らす配線と、破壊された機材が散乱している。そして、空中で高速移動しながらレーザーを乱射する数機のドローン。取り残された研究員たちは、デスクの陰で震えていた。 「状況確認。ドローンの数は5機。すべて連動して攻撃してきてるわね」 空詩は着地と同時に、FN SCAR式システムアシスタントARを構えた。彼女の視界には、AI「ルーカー」が算出した敵の攻撃予測線が赤いラインとなって表示されている。回避率アップのバフがかかり、彼女の身体能力は常人の域を超えた。 「ボクが注意を引く。あんたは、あいつらの『制御回路』を物理的に……いや、デジタル的にぶっ壊しなさい!」 「了解。任せてよ」 空詩が地を蹴った。凄まじい加速。ドローンが放つレーザーを、ミリ単位の回避でかわしながら、彼女は正確に弾丸を撃ち込む。一撃、また一撃。システムアシストによる精密射撃が、ドローンのセンサーを的確に破壊していく。 だが、ドローンの一機が死角から彼女を狙い、最大出力のビームを放とうとした。その瞬間、ドローンの機体に設置されていた「小型カメラ」のレンズから、白い手がニョキリと飛び出した。 「ハイ、お疲れ様」 棒人間が、画面の内側からドローンの内部機構に直接干渉したのだ。彼は内部で「矢印マン」を召喚。矢印マンは迷わずドローンのメインCPUを掴み、空中に現れた小さな「ゴミ箱」アイコンへと放り込んだ。 ガシャーーーン!! 物理的な実体があったはずのドローンが、一瞬にして消滅した。デジタル世界での消去が、現実世界の物質に適用されるという棒人間の特権的なスキルだ。 「ふん、相変わらず理不尽な能力ね」 空詩は呆れながらも、残りのドローンに追尾式小型爆弾を撃ち込み、一気に制圧した。静寂が戻った実験場に、研究員たちの安堵の声が響く。 「あ、ありがとうございます! 助かりました!」 お礼に駆け寄る研究員たちに対し、空詩は銃を肩に担ぎ直し、ふいっと顔を背けた。 「別に、仕事をしただけよ。次からはちゃんと安全装置を確認しなさいよね。ボクの手間が増えるんだから」 口では突き放しているが、彼女の視線は研究員たちの怪我がないか、さりげなく確認していた。それを見ていた棒人間が、ひょこっと彼女の顔を覗き込む。 「本当は優しいんだから、空詩ちゃんは」 「だーかーら! 触るなっつったでしょ!!」 開発区に、いつもの賑やかな怒鳴り声が響き渡った。任務完了。しかし、彼らにとっての「本当の戦い」は、ここから始まる。この後、彼らを待っていたのは、管理課からの「報告書の提出期限を過ぎている」という、死よりも恐ろしい督促状だったからだ。 * 任務後の二人は、心地よい疲労感と共に「居住区」へと戻っていた。K-NIGHTの居住区は、単なる寝床ではない。そこには商店街や銭湯、ゲーセンまで揃った擬似的な街があり、エージェントたちの精神的なケアを目的とした空間となっている。 「あーっ! 疲れた! もう今日は全部投げ出して、ゲーセンでストレス発散したい!」 空詩は、制服の襟元を緩めながら、隣の棒人間を突き飛ばした。棒人間は物理的な衝撃を透過させ、ひらひらと舞いながら商店街の看板を指差す。 「いい考えだね。あそこの新作格闘ゲーム、まだやってないんだ。空詩ちゃんと対戦してみたいし」 「はっ! ボクに勝てると思ってるの? システムアシストがあるボクに、ただの線が勝てるわけないじゃない」 「まあまあ。僕には『画面から出て相手のコントローラーをゴミ箱に入れる』っていう裏技があるしね」 「それ反則でしょ!! 運営に報告して永久BANにさせてやるわ!!」 言い合いながらも、二人は自然と肩を並べて歩く。もともと正反対の性質を持つ二人。冷徹な暗殺・制圧をこなす「影」の人間と、デジタルな異端である「線」の存在。けれど、この奇妙な関係性が、殺伐としたK-NIGHTという組織の中で、唯一の「呼吸ができる場所」になっていることに、空詩は気づいていた。 「……まあ、今日の連携は、そこそこだったと思ってあげてもいいわよ」 消え入りそうな小さな声で、空詩が呟く。 「え? 何て言ったの?」 「なーんにも言ってないわよ! バカ棒!!」 真っ赤な顔で走り出す空詩の後を、棒人間は楽しそうに追いかけていく。彼らの背後では、暮れゆく擬似的な夕日が、居住区の街並みをオレンジ色に染めていた。明日になればまた、血と硝煙の匂いがする戦場へ向かうことになる。だからこそ、この何気ない時間が、彼らにとっては何よりも大切な「機密事項」だった。 --- (第1章 完) ---