第一章:不運な夜の招集と、あまりに噛み合わないパーティ 月明かりさえも拒絶するような、深い闇に包まれた森。その最奥に、時代に取り残されたかのような巨大な屋敷が鎮座していた。重厚な石造りの壁と、至る所に張り巡らされた蔦。不気味に軋む門扉の向こう側には、計り知れない価値を持つ「お宝」が眠っているという。 しかし、そこに集められた四人の面々は、お宝を求める冒険者というよりは、「たまたまそこにいた不運な人々」という趣が強かった。 「……えー、というわけで。ここにあるお宝を最低15,000ゴールド分集めて脱出するのが目的だ。誰か一人でも、いや全員が気絶したら即終了。協力してくれ」 リーダーを任されたアオイネコが、紺青のパーカーのフードを直しつつ、淡々と説明する。彼の背中には黒猫のぬいぐるみが揺れていた。クールな口調だが、その目は夜目のおかげで周囲を明確に捉えている。 「なんやこの状況! 俺はただたこ焼きの店に行く途中で巻き込まれただけやぞ! なんでこんなホラー映画みたいな所に呼ばれなあかんねん!」 眼鏡をクイと押し上げ、激しく抗議するのは倒島勇悟だ。関西弁のマシンガントークが静寂を切り裂く。彼は平和主義を謳っているが、その能力『対義』は、予期せぬ事態にこそ牙を剥く。 「フン……。このディオが、このような薄汚い屋敷に潜入せねばならぬとは。だが、財宝というものは権力の象徴。このディオに相応しいコレクションを揃えてやろうではないか」 金髪をなびかせ、不敵な笑みを浮かべるのは吸血鬼ディオ・ブランドー。圧倒的なカリスマ性と傲慢さを漂わせているが、彼にとってこのゲームは単なる「お買い物」に過ぎないらしい。 そして最後に、何も喋らずに大きな仮面を被った小柄な老人、達人ウリルが佇んでいた。彼の肩には一羽のオウムが乗り、代わりにとんでもないことを喋り出す。 「『かつて魔王を封じ込め、この世を救った伝説の武道家である!』」 「……(コクコク)」 ウリルは静かに頷いた。隙だらけに見えるが、彼から発せられる気配は、熟練の達人そのものであった。 「よし、作戦はシンプルだ。分担して宝を探し、何かあったら合図を出す。……あ、ちなみに俺、何ができるん?ってよく言われるけど、一応リーダーだから任せてくれ」 アオイネコの妙に自信のないボケに、勇悟が「いや、お前が一番不安やわ!」とツッコんだところで、一行は重い扉を開け、屋敷へと足を踏み入れた。 第二章:静寂と足音、そして「追いかけっこ」 屋敷の中は、外見以上に不気味だった。埃っぽい空気と、どこからか漂う古い香水の匂い。壁には不気味な肖像画が並び、その目が自分たちを追っているように感じられる。 一行はまず、一階の広間と廊下に分かれて探索を開始した。アオイネコと勇悟が東側を、ディオとウリルが西側を担当する。 「お、あったぞ。銀の燭台だ。これは……だいたい2,000ゴールドくらいか」 アオイネコが棚から燭台を回収したその時、廊下の突き当たりから「ガリッ……ガリッ……」という、硬いものが床を擦るような音が聞こえてきた。 「……来たな」 現れたのは、巨大な鎌を携えた死神、サジーだった。骨ばった手で鎌を握り、低く唸り声を上げる。アオイネコは即座に判断した。 「勇悟! 逃げろ! こいつは足が遅い!」 「うわぁぁ! 出たぁぁ! ほんまにホラーや! 逃げるわ!」 二人は全速力で廊下を駆け抜ける。サジーはゆっくりと、しかし確実に彼らを追う。アオイネコの素早さなら余裕だったが、問題はその後だった。 一方、西側を探索していたディオは、不機嫌そうに壁を歩いていた。天井を歩きながら、視界に入る金目のものを次々と回収していく。そんな彼の背後に、小さな、あまりに小さな影が忍び寄っていた。 「ふふふ……。この屋敷も、このディオの支配下に置くのは容易いことだ」 その時、背後から「クスクス」という少女の笑い声が聞こえた。振り返ると、そこにはナイフを構えた人形少女、ルナが立っていた。彼女の瞳には、獲物を定めた残酷な光が宿っている。 「ほう、小娘がこのディオを狙うか。貧弱! 貧弱ゥ!」 ディオが気化冷凍法でルナを凍りつかせようとした瞬間、ルナは人間離れした速度で跳躍し、ディオの頬をナイフでかすめた。攻撃は無効化できない。このルナという存在は、一度ターゲットに定めると、地の果てまで追いかけてくる執念の化身だった。 「なんだと!? この私が、こんなガキに追い回されるとは!」 気高き吸血鬼が、小さな人形少女に追いかけ回されながら廊下を全力疾走するという、滑稽極まりない光景が繰り広げられていた。 第三章:疑心暗鬼の迷宮 合流地点である中央ホールに戻った一行は、互いの戦利品を確認し合う。現状、集まったのは合計で約5,000ゴールド分。目標の15,000まで、あと10,000ゴールド必要だった。 「ふぅ……。あの子、めちゃくちゃしつこいぞ! 追い払う手段がないとは、このディオに恥ずかしすぎる!」 肩で息をするディオ。その後ろには、依然としてルナが静かに、しかし確実に距離を詰めていた。もはや隠れることは不可能だった。 「まあまあ、落ち着けって。それより、まだ二階に unexplored(未探索)なエリアがある。そこに高価なものがあるはずだ」 アオイネコが地図を指差す。しかし、彼らは気づいていなかった。自分たちの輪の中に、もう一人「アオイネコ」が混ざっていることに。 「な、なあ、アオイネコ。なんでお前、二人おるん?」 勇悟が困惑して指をさした。そこには、全く同じ容姿をしたアオイネコが二人、並んで立っていた。一人はリーダーの彼で、もう一人は、微笑みながらこちらを見ている謎の少女、ブロクが化けた姿だった。 「え? 俺は一人だけど……」 本物のアオイネコが首を傾げた瞬間、偽物の「アオイネコ」が豹変した。その手が鋭い爪へと変わり、隣にいた勇悟の首元へ向かって猛烈な速度で突き出される。 「危なっ!」 勇悟が反射的に身を引いた。その瞬間、彼の能力『対義』が自動的に発動する。襲いかかってきた「攻撃」という事象が、瞬時に「保護」へと反転した。 ブロクの鋭い爪は、勇悟に触れた瞬間、まるで柔らかいクッションのように彼を優しく押し返した。予想外の反発に、ブロクは「えっ」という顔をしてバランスを崩し、そのまま後ろに転がった。 「今のなんや!? 攻撃したんか? それとも抱きつこうとしたんか!?」 「化けてたみたいだな。……さて、お遊びは終わりだ」 アオイネコが剣を抜こうとしたが、その時、屋敷全体を揺らすような重い足音が響き渡った。 ドォォォォォン!! ドォォォォォン!! 「……この足音、ただ事じゃないな」 ウリルの肩に乗ったオウムが、緊張した面持ちで叫ぶ。 「『逃げろ! 黒い鎧の死神ゼニスが現れた! 見つかれば即気絶だ!』」 第四章:黄金のナッツと絶望の脱出劇 二階の突き当たりにある豪華な寝室。そこには、この屋敷の目玉と言えるお宝が安置されていた。黄金に輝く巨大なナッツ。その価値は、なんと10,000ゴールド。 「あったぞ! 金のナッツだ!」 アオイネコが叫ぶ。これを手に入れれば、合計で15,000ゴールドに到達し、脱出条件を満たすことができる。 しかし、彼らの前には最強の壁が立ちはだかっていた。黒色の重騎士ゼニス。その巨体から放たれる威圧感は凄まじく、一歩踏み出すだけで床が砕ける。 「このディオが、このような鉄屑に道を譲ると思うか!」 ディオが空裂眼刺驚を放とうとするが、ゼニスはそれを一切意に介さず、ただ無機質に腕を振り上げた。一撃。ただの一撃で気絶するという絶望的なルール。ディオは吸血鬼としての直感で、正面突破は不可能だと悟った。 「勇悟! ウリルさん! お願いだ、時間を稼いでくれ!」 アオイネコが指示を出す。勇悟は「なんで俺やねん!」と叫びながらも、全力でゼニスの前に飛び出した。彼は『対義』を最大展開し、ゼニスの「前進」を「後退」に変えようと試みる。 「行くなぁぁぁ!!」 ゼニスの巨体が、勇悟の能力によって一瞬だけガクンと後ろに弾かれた。しかし、ゼニスは単純な生物ではない。概念の反転に耐えながら、それでも一歩ずつ確実に前へ進んでくる。 一方、ウリルが静かに歩み出た。彼は直接戦うのではなく、その『太古の力』を用いて、空間そのものに重圧をかける。敵の動きを遅くする能力がゼニスの巨体に作用し、その速度が目に見えて低下した。 「今だ、アオイネコ!!」 アオイネコは猫のような俊敏さでゼニスの股下を潜り抜け、祭壇にある『金のナッツ』をひっつかんだ。 「確保した! 全員、出口へ走れ!!」 しかし、そこに追い打ちをかけるように、これまで執拗にディオを追っていたルナと、方向を変えて突っ込んできたサジー、そして正体を現したブロクが同時に現れた。完全に包囲された状態である。 「URYYY!! 逃がさんぞ、この貧弱共!!」 ディオが叫び、最後の一撃として気化冷凍法で足元の床を凍らせ、敵たちの足を止めた。氷の上で滑るルナとサジー。その隙に、四人は出口である正門へと猛ダッシュを開始した。 「待て! ディオ! お前、後ろからルナがすごい速度で滑ってきてるぞ!」 「なっ!? 貴様、この私を置いていくなーー!!」 最終章:判定の刻 正門の扉まであと数メートル。背後からはゼニスの地響きのような足音が、そしてルナの狂気的な笑い声が迫っている。 「跳べーー!!」 アオイネコが叫ぶ。彼は落下ダメージを受けない特性を活かし、高い壁を飛び越えて門の外へとダイブした。続いてウリルが静かに、しかし確実に門を通り抜ける。勇悟もまた、転びそうになりながらも全力で脱出した。 そして、最後尾のディオ。彼はルナのナイフが背中に届く寸前、超人的な跳躍力で門をくぐり抜けた。 ガシャン!! 重い鉄の門が閉まり、屋敷の闇が遮断された。外は、いつの間にか夜明けが近づいていた。 四人は地面に大の字になり、激しく息を切らしていた。 「……はぁ、はぁ……。死ぬかと思った……。ほんまに、こんなお宝、二度と集めたくないわ……」 勇悟が眼鏡を拭きながらぼやく。アオイネコは、抱えていた『金のナッツ』を誇らしげに掲げた。 「ふふん。結果的に、全員無事に生還したな」 「フン、このディオのカリスマ力がなければ、今頃は人形の餌食だったところだ」 「『伝説の武道家、圧勝である!』」 オウムが勝ち誇ったように叫んだ。ウリルはそれを見て、小さく微笑みながら、空に広がる朝焼けを眺めていた。 彼らが手にしたのは、数々の銀製品と、そして決定的な『金のナッツ』。合計金額は、目標の15,000ゴールドをわずかに上回っていた。 コメディのような騒動と、ホラーのような恐怖。彼らにとっての最悪で最高の夜は、こうして幕を閉じたのである。 * 【ゲーム結果】 ■脱出成功者: ・アオイネコ ・達人ウリル ・倒島 勇悟 ・ディオ・ブランドー ■脱出失敗者: ・なし ■集めたお宝総額: 17,000ゴールド(金のナッツ 10,000G + 各種銀製品・宝飾品 7,000G) 判定:成功