聖杯戦争外伝:虚構の残滓と断罪の星 第一章:召喚の儀と歪んだ祝祭 冬木の街に、不吉な月が昇っていた。魔術師たちが密かに集い、万能の願望機「聖杯」を巡って殺し合う儀式。しかし、この回の聖杯戦争は、開始前から決定的な「バグ」を抱えていた。 冬木の郊外にある古い洋館。魔術師の青年、エドワードは不敵な笑みを浮かべ、床に描かれた魔法陣に血を滴らせた。 「来い! 我が望む最強の王よ!」 眩い黄金の光と共に現れたのは、傲岸不遜な黄金の鎧を纏った男――ギルガメッシュ(アーチャー)であった。 「雑種。我に命じるなど、身の程をわきまえよ」 一方、市街地の地下室では、厳格な魔術師の女、エレナが黒い魔力を練り上げていた。 「騎士道を捨て、効率と破壊を。我が剣よ、応えよ」 召喚されたのは、冷徹な眼差しを持つ黒い甲冑の騎士、アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕(セイバー)。 「……ふん。使い勝手の良さそうなマスターだ」 さらに、海外から招かれた魔術師。英国の青年アーサーは、神聖な祈りを捧げていた。 「正義を、そして救済を。天の使者よ!」 現れたのは、白い羽を持つタキシードの男、ゴフィット(ルーラー)。彼は慈悲深い笑みを浮かべながらも、その瞳には絶対的な断罪の意志を宿していた。 また、アメリカから来た粗野な魔術師、ジャックは、単なる「強さ」を求めて禁忌の術式を用いた。 「正解はどうでもいい。とにかくヤバい奴を呼べ!」 そこに現れたのは、無感情な表情をした少年のような姿の存在、セロス・テーミス(キャスター)。天使と悪魔の相反する性質を併せ持つ預言者が、静かに浮遊していた。 日本の古参魔術師、藤原は、静寂を愛する青年、蛇師 華織(アサシン)を召喚し、また別の隠遁者は、おどおどとした褐色の青年、キユミ・イルヒ(アーチャー)を呼び出した。彼らはそれぞれ、聖杯という至高の宝を求め、冬木の街へと散った。 だが、彼らはまだ知らなかった。彼らが追い求める聖杯は、すでに「ない」ということを。 第二章:静寂を切り裂く「ENEMY」 聖杯戦争が始まって三日。マスターたちは互いの出方を伺い、偵察と小競り合いを繰り返していた。 「ふん、退屈な時間だ。雑種どもの絶望を味わう前に、誰か一人くらいは跳ねて見せろ」 ギルガメッシュは黄金の玉座(のように作り替えたホテルの最上階)でワインを傾けていた。 その時だった。街の警報機が鳴り響き、空間が「物理的に」切り裂かれた。 キィィィィィィン! 超高周波の駆動音と共に、黒いミニスカートを纏った少女が空から降り立った。黒髪に紅い瞳。背中には未知の推進機械「Lovinz」を装備している。彼女の名は、ルノ。 彼女は参加者ではない。召喚されたサーヴァントでもない。聖杯をあらかじめ破壊し、この戦いを「無意味な殺し合い」に変えた特異点――全陣営共通の敵(ENEMY)であった。 「……敵……」 ルノが呟くと同時に、彼女の腕にある電磁投射砲『FALDAM』が火を噴いた。標的は、偶然通りかかったキユミ・イルヒの陣営だった。 「ヒィィッ!? ナニ、コレ!!」 キユミは慌てて後方に飛び退くが、衝撃波で周囲のビルが粉砕される。マスターの隠遁者は叫んだ。 「避けろ! キユミ! あれは魔術ではない、未知の兵器だ!」 ルノは無機質な瞳で彼らを見据え、さらに高機動で接近する。その動きはあまりに速く、残像さえ残さない。 第三章:共闘という名の妥協 ルノの圧倒的な破壊力に、マスターたちは戦慄した。彼女は聖杯を持たず、ただ「効率的に敵を排除すること」だけを目的として動いている。 「聖杯が破壊されているだと? 馬鹿な! そんなことがあってたまるか!」 エドワードが憤慨し、ギルガメッシュに命じる。 「ギル! あの女を殺せ! 我が聖杯を奪った罪、万死に値する!」 「黙れ雑種。我が動くのは我の意志だ。だが……あの娘の不遜な態度は気に入らぬな」 ギルガメッシュが『王の財宝』を開き、数百の宝剣を雨のように降らせる。しかし、ルノは空中で推進器を急旋回させ、全ての攻撃を紙一重で回避。さらに近接戦に移行し、背中の円盤状機械を展開した。 ドォォォォォン!! アサルトアーマーのような爆発攻撃がギルガメッシュを襲う。黄金の鎧に守られていたため致命傷には至らなかったが、衝撃で吹き飛ばされた。 「……面白い。単純な力だけでは勝てぬか」 そこへ、黒い閃光が走る。アルトリア・オルタだ。 「どきなさい、黄金の王。効率的に仕留めるのは私の役目よ」 黒い聖剣がルノの機体を切り裂こうとする。だが、ルノはSIZM(突撃銃)を連射し、弾幕で距離を稼ぐ。戦場は混沌としていた。 第四章:因果の断絶と均衡の罠 ルノの猛攻により、一部のマスターが脱落し始める。生き残った者は、一時的な同盟を組まざるを得なかった。しかし、その同盟は砂上の楼閣に過ぎない。 ゴフィットは静かに空から戦況を見下ろしていた。 「悲しいことです。互いに憎しみ合いながら、共通の敵を前にしてのみ手を組むとは」 彼は不滅の剣を抜き、ルノの背後に現れた。彼のスキル【因果の断絶】。斬ったという「原因」を飛ばし、「斬れた」という「結果」だけを存在させる。理論上、回避不可能な一撃だ。 だが、ルノはそれを「回避」したのではなく、「存在しなかったこと」にしたかのような不可解な挙動で逃れた。彼女の種族はUnknown。既存の因果律に縛られない存在だった。 そこへ、セロス・テーミスが介入する。 「……均衡を。強すぎるものは、弱き者に合わせるべき」 【均衡の加護】が発動し、ルノの圧倒的なスペックが、周囲のサーヴァントと同等まで引き下げられた。これにより、ようやく「戦い」という形が成立し始める。 「今だ! 華織!」 藤原の叫びに、蛇師 華織が動いた。銀髪をなびかせ、刀身を蛇のように撓ませる。 「参式――廻傲蛇道!」 予測不能な軌道で伸びた斬撃が、ルノの肩を深く切り裂いた。血が舞う。しかし、ルノは表情一つ変えず、冷徹に呟いた。 「……不十分」 第五章:絶望の加速 ルノはダメージを負いながらも、さらに加速した。彼女にとっての「敗北」とは消滅ではなく、「撤退して再構成されること」であった。一度撃破されても、彼女はどこかへ逃走し、さらに強化されて戻ってくる。 「ちくしょう! 殺しても殺しても戻ってくるのか!」 マスターのジャックが絶叫する。セロスは無感情に分析した。 「彼女は、この聖杯戦争というシステムそのものを食い潰して再生している。聖杯を壊したことで、彼女自身が聖杯の代替品となっている可能性がある」 その時、キユミ・イルヒが静かに弓を引き絞った。彼は極度の緊張で震えていたが、その瞳だけは獲物を捉えていた。 「ボク……やる。ヤツ……討つ」 人外特効。そして、標的を定めれば百発百中の射撃。キユミの放った『竜を射殺す滅尽の矢』が、空を切り裂いてルノの心臓部(推進機のコア)を貫いた。 凄まじい爆発が起き、ルノは地上へと叩きつけられた。初めて、彼女の動きが止まった。 第六章:裏切りの連鎖 共通の敵が倒れた瞬間、静寂が訪れた。そして、その静寂はすぐに「殺意」に塗り替えられた。 「さて。邪魔者が消えたところで、聖杯(の残骸)を誰が手に入れるか決めようか」 ギルガメッシュが嘲笑いながら、周囲のマスターたちに剣を向けた。 「当然、私がいただくわ」 アルトリア・オルタが黒い聖剣を構える。 もはや同盟など存在しない。残ったのは、純粋な殺し合いだった。 ゴフィットは正義の名の下に、不浄な欲望を持つ者たちを裁こうとした。セロスは善悪を反転させ、相手の信念を崩壊させて戦う。華織は空間を操作し、死角から斬撃を繰り出す。 戦いは泥沼化した。マスターたちが一人、また一人と倒れていく。令呪を消費し、無理やりサーヴァントに奇跡を行わせる。しかし、それは自らの寿命を削る行為だった。 「令呪で命じる! 全力で戦え! 死んでも構わない!」 エドワードが絶叫し、ギルガメッシュに絶対命令を下す。しかし、ギルガメッシュはそれを鼻で笑った。 「我に命令するなど、万死に値すると言ったはずだぞ、雑種」 それでも、令呪の魔力による一時的な強化は凄まじかった。ギルガメッシュの攻撃力は跳ね上がり、周囲のサーヴァントを次々と圧殺していった。 第七章:終焉の光、そして勝者 最後の一戦となったのは、ギルガメッシュ、アルトリア・オルタ、そしてゴフィットの三人だった。 街はもはや廃墟と化していた。空は赤く染まり、次元の裂け目が口を開けている。 「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め! 『約束された勝利の剣』!!」 オルタの黒い光の奔流が大地を焼き尽くす。対して、ゴフィットは【境界線の喪失】を発動。自分と相手の境界を消し、オルタの魔力を自分のものとして奪い取ろうとした。 だが、そこに「王」が介入した。 「原初を語る天地は分かれ、無は開闢を言祝ぐ。世界を裁くは我が乖離剣、星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の終着よ!」 天地乖離す開闘の星(エヌマ・エリシュ)。 時空を断絶させる究極の衝撃波が、すべてを飲み込んだ。黒い聖剣の光も、天使の境界操作も、すべては原初の混沌へと還元された。 光が消えた後、そこに立っていたのは、黄金の鎧を纏い、不敵に笑う一人の男だけだった。 「……ふん。くだらぬ茶番であったな」 足元には、消滅していくサーヴァントたちの粒子と、事切れたマスターの骸。そして、もはや何の願いも叶えられない、ただのガラス片となった聖杯の残骸が転がっていた。 ギルガメッシュは、その残骸を一瞥し、興味なさそうに背を向けた。 「願いなど、我が望めばそれですでに叶っている。この世に我以外の勝者がいるなど、最初からあり得ぬ話よ」 冬木の街に、静かな夜が戻ってきた。しかし、そこにはもう、誰もいなかった。 【勝者:ギルガメッシュ 陣営】