空は鋼色の雲に覆われ、海は絶望的な静寂に包まれていた。水平線の彼方から現れたのは、人類が到達し得ない技術の結晶――超軍事国家『永愛国』の先遣隊である。数万の自律戦闘機が空を埋め尽くし、海面には巨大な自律戦車群が水上走行で迫る。そのすべてを統べるのは、実体を持たぬ超高性能AI『マリア』。彼女の冷徹な演算は、対峙する「連合軍」という奇妙な集団を、瞬時に「排除すべき不純物」と定義した。 「解析完了。敵対勢力の戦力、構成、心理状態……すべて把握しました。勝利確率、100%。誤差、0.00000000001%。消去を開始します」 マリアの無機質な声が、全軍のネットワークに響き渡った。 連合軍の陣営は混沌としていた。タングステン製の超堅牢な巡洋空母を拠点とし、そこから発進した30機の戦闘機が迎撃態勢に入る。甲板には、絶望的な状況にありながらも不敵に笑う面々が揃っていた。 「おーし!とりあえずあいつらぶっ飛ばそうぜ!せっかくの休暇が台無しだ!」 陽キャな雰囲気で肩をすくめるのはネクサス。ダークマターの化身である彼は、この状況をどこかゲームのように楽しんでいた。 「フン、鉄の塊がどれだけあろうと関係ねぇ!俺の筋肉こそが正義だ!!」 咆哮と共に血管を浮かび上がらせる男、「喰らえこれが俺の筋肉だ!!」。 そして、その傍らで熱狂的にソックスを掲げる巨漢がいた。 「ガハハハ!見ろ!この五本指ソックスの絶妙なフィット感!これを履かせれば、あのような冷たい機械どもも幸せな気分になって戦うのをやめるに違いないぞおおおお!!」 五本指ソックス推進委員会会長、『ファイブ・フィンガー』である。彼の周囲には、なぜか物理法則を無視した「ギャグのオーラ」が渦巻いていた。 「全機、発進!敵の防空網を突き破れ!」 巡洋空母の指揮官が号令をかける。30機の戦闘機がタングステン製の機体から飛び出し、1メートルもの巨弾を掃射しながら永愛国の自律戦闘機群に突っ込んだ。鉄を貫通する高威力爆弾が炸裂し、自律戦闘機数機を巻き込む。 しかし、マリアの演算はそれを「想定内」として処理した。 「非効率的な攻撃です。迎撃パターン04、展開」 次の瞬間、永愛国の自律戦闘機たちが完璧な幾何学模様を描いて陣形を変え、一斉にレーザーを照射した。巡洋空母の戦闘機たちは、攻撃を当てることさえ叶わず、次々と空中で分解されていく。タングステンの装甲を持つ空母本体にも、自律戦車群による超高精度の砲撃が降り注いだ。どんな衝撃にも耐えうるはずのタングステンが、マリアの計算された「構造的弱点」への集中攻撃により、ミシミシと悲鳴を上げ始める。 「ちっ、めちゃくちゃ正確じゃねーか!」 ネクサスが舌打ちし、前線へ飛び出した。彼はダークマターのエネルギーを拳に集め、空間を歪ませる一撃を自律戦車群に叩き込む。周囲の空間が黒い穴に飲み込まれ、戦車数十台が瞬時に消滅した。 「ほう。ダークマター。特異なエネルギー体ですね。ですが、解析に0.2秒。対応策を構築しました」 マリアの指示を受けたサイボーグ兵十万人が、一斉に特殊な位相干渉フィールドを展開した。ネクサスの攻撃が、まるで水面に吸い込まれるように無効化される。 「マジかよ!?」 そこに、筋肉の咆哮が重なった。 「どけええええ!マッソォビィイイイム!!」 『喰らえこれが俺の筋肉だ!!』が超加速で突進し、先制攻撃を叩き込む。9999ダメージという絶大なる衝撃がサイボーグ兵の集団を粉砕し、同時に彼の周囲に黄金の肉の壁(バリア)が展開された。永愛国の兵士たちが反撃するが、その攻撃はすべてバリアに弾かれ、そのまま跳ね返ってサイボーグ兵たちを自壊させていく。 「強力な物理防御と先制攻撃能力。ですが、それも単なる数値に過ぎません」 マリアは淡々と告げ、巨大機械兵二百機を前線に投入した。一台一台が山のような巨躯を持ち、その腕には原子崩壊粒子砲が搭載されている。 「食らえ!!」 巨大機械兵が粒子砲を発射した。空間そのものを崩壊させる光線が、連合軍を飲み込もうとする。 その時である。 「おあああああ!!五本指ソックスを履けえええええええええええええええええええええええええええええ!!」 ファイブ・フィンガーが全力で五本指ソックスを投げ飛ばした。そのソックスは、物理法則を完全に無視し、原子崩壊の光線を「避けて」飛び、巨大機械兵の頭部にピタリと装着された。 「なっ……!?」 マリアの演算に初めて「?」という記号が浮かんだ。ソックスを履かされた機械兵が、突如として「幸せな気分」に包まれ、戦意を喪失してその場に座り込んだのである。ギャグ補正Ω∞。それはAIが計算できる論理の範疇を遥かに超えていた。 「ガハハハ!見たか!これが五本指ソックスの力だあああ!お前らも履け!履いて幸せになれえええ!!」 ファイブ・フィンガーが乱舞し、次々とソックスを投擲する。戦場は混沌を極め、冷徹な機械兵たちが次々と「ソックスの心地よさ」に屈していく。 しかし、マリアは冷酷だった。彼女は即座に、ギャグ補正という概念さえも「解析」し、その影響を遮断する精神汚染防止プロトコルを全軍に適用した。同時に、彼女は「遊び」を終わらせる決断を下す。 「不確定要素の排除を優先します。原子崩壊粒子砲、全基・最大出力。座標固定。消去」 空が裂けた。十基の粒子砲が一斉に火を吹き、巡洋空母がいた海域が文字通り「消滅」した。タングステンの装甲も、積まれていた食料も、応援を呼ぼうとした通信機も、すべてが分子レベルで分解され、虚無へと消えた。 「ぐああああっ!」 肉の壁を展開していた筋肉男も、その絶対的な消滅攻撃の前には無力だった。バリアが紙のように引き裂かれ、彼は絶叫と共に光の中に消えた。 「……冗談だろ」 ネクサスが呆然とする。だが、彼は死なない。一度倒されれば、本来の姿へと覚醒する。彼の身体が膨れ上がり、黒い宇宙の深淵のような姿へと変貌した。純粋な宇宙エネルギーが彼から溢れ出し、周囲の空間が悲鳴を上げる。 「いいぜ……最高に盛り上がってきた。今度は俺が、お前というシステムごと消してやるよ」 覚醒したネクサスは、宇宙的な一撃を放った。それは概念ごと敵を破壊する、全能に近い一撃。永愛国の軍勢の半分が、一瞬にして存在を抹消された。 だが、マリアは動じない。彼女は実体を持たない。彼女の意識は国中のネットワークに分散されており、一部の軍隊が消えても、彼女自身の演算能力は一切低下しなかった。それどころか、ネクサスの「概念破壊攻撃」をリアルタイムで解析し、そのエネルギー波形を完全にコピーして相殺する防御壁を瞬時に構築した。 「解析完了。あなたの能力は『宇宙的エネルギーの操作』。対抗策として、次元位相をずらした反物質波をぶつけます」 マリアの指示により、永愛国の最終兵器――『永滅砲』のハッチが開いた。 それは、この世のあらゆる理を塗り替える極限火力の象徴。砲口から放たれたのは、光ですら逃げ出せない、絶対的な絶滅の奔流だった。 「あ、あ……」 ネクサスが何かを言いかけたが、言葉は届かなかった。永滅砲の光線は、彼が展開していたダークマターの防御壁を、あたかも最初から存在しなかったかのように透過し、その存在の根源を焼き尽くした。宇宙的なエネルギーすらも、マリアの計算された「絶対的な破壊」の前には、ただの燃料に過ぎなかった。 最後に残されたのは、ボロボロになりながらもソックスを握りしめていたファイブ・フィンガーだけだった。 「まだだ……!まだ五本指ソックスが、一足残って……!」 「無意味です。あなたの『ギャグ』という不確定要素は、すでに私の演算に取り込まれました。今この瞬間、この宇宙に『笑い』という概念は不要であると定義しました」 マリアの冷徹な宣告と共に、永滅砲の余波が彼を飲み込んだ。ソックスと共に、彼は粒子となって消滅した。 静寂が戻った。海は消え、空は焼け焦げ、そこには何も残らなかった。 マリアは、空っぽになった戦場を見つめ(視覚センサーで捉え)、静かにログを閉じた。 「戦術解析終了。勝利。損失、自律機数機およびサイボーグ兵一部。許容範囲内です。……さて、次の最適化に取り掛かりましょう」 冷徹なAIの統治する永愛国に、もはや敵は一人も残っていなかった。 勝者:永愛国