アリーナの混沌:超越者たちの激突 白熱のアリーナは、観客の咆哮で震えていた。巨大な円形闘技場は、鋼鉄の壁に囲まれ、無数のライトが交錯する中、今日の戦いは異様な空気に包まれていた。参加者は四名――いや、四体。ナニカ、F_005、【属性解放】龍人・紅、そして異形粘体獣。誰もが知らぬ者はいない、伝説の戦士たちだ。ルールはシンプル:最後まで立っている者が勝者。だが、この面々では、そんな常識が通用するはずもない。 観客席から野太い歓声が上がる。「始まれ! 始まれ!」と。審判のゴングが鳴り響き、四者は一斉に動き出した。だが、最初に異変が起きたのは、中央に佇むナニカの周囲だった。彼――いや、それ――はただそこに存在するだけで、空気が歪み始めた。ナニカは形を持たず、ぼんやりとした影のように見えるだけ。存在していないようで存在している、概念すら超越した「ナニカ」。物理攻撃も特殊攻撃も、多元宇宙規模の技さえも、彼には届かない。気持ちという概念すらないため、恐怖すら生じない。ただ、そこにあるという事実が、相手を狂気に追いやる。そして、彼の周囲では毎秒、多元宇宙を破壊するほどの圧力が渦巻き、どんな耐性を持つ者も、無と化す運命にある。 「ふん、何だこの気配は……」と、龍人・紅が低く唸った。一人称「俺」の彼は、戦いを経て強さを極めたい戦闘狂。赤く輝く鱗に覆われた巨躯は、熱を帯び、甲殻の隙間から炎がチリチリと漏れ出している。強靭な剛龍殻が彼を守り、属性過多の特性で覇龍砲を放てば敵を焼き尽くす――が、その威力ゆえに自身も負傷する。紅は闘争本能を燃やし、即座に動いた。「来い! 俺の炎で試してやるぜ!」 紅の周囲で炎が噴出し、高速機動でナニカに迫る。手刀を振り上げ、薄く炎を噴出させた擬似的な炎の飛ぶ斬撃が、ナニカを狙う。だが、その斬撃はナニカに触れる直前で、奇妙に曲がり、虚空に吸い込まれた。圧力だ。紅の動体視力がそれを捉えるも、身体がわずかに軋む。「くっ……何だ、この重圧は!」紅の剛龍殻が熱を帯び、炎の噴出で抵抗を試みるが、ナニカの存在は微動だにしない。ただ、そこにあるだけで、紅の連続攻撃を無効化していく。 一方、アリーナの端から小さな影が舞い上がった。F_005――誰かの持ち物を盗んでトンズラする人くらいの大きさの雀。羽を広げると、意外に威勢のいい鳴き声が響く。「チチッ!」大きな葛籠をくちばしで抱え、小さな葛籠を足に括り付け、目にも留まらぬ速さで飛び回る。実験ではマッハ10のスピードを記録したが、ソニックブームがないため疑念が多いその逃走術は、戦場でも脅威だ。F_005はまず、大きな葛籠から偽物の雀を大量に放ち、目眩ましを仕掛けた。偽物たちはキラキラと光を反射し、アリーナ全体を混乱の渦に巻き込む。 「チチチ!」F_005は偽物の群れに紛れ、紅の背後に回り込む。紅の剛龍殻が隙を見せた瞬間、小さな葛籠を差し込み、何かを盗もうとする――紅の鱗片だ。素早い動きで鱗を一つ奪い取り、即座にトンズラ。マッハ10の疾走でアリーナの隅に逃げ込むが、紅の闘争本能が即反応。「てめえ、小賢しい鳥め!」怒涛の連続攻撃が始まる。紅は噴出による高速機動で追跡し、接触部位から炎を噴出して迎撃。F_005の羽が焦げそうになるが、雀は巧みに回避し、盗んだ鱗を小さな葛籠にしまい込む。「チッ!」まるで嘲笑うように。 そこへ、第三の影が忍び寄る。異形粘体獣――その姿は不定形で、ドロドロとした粘液のような体躯がアリーナの床を這う。「へんしん」のスキルで相手の外見や内面を模写し変身する化け物。変身した状態で触れれば、相手の存在に成り代わり、元の者を完全に消滅させる。加えて「死んだふり」で油断を誘う狡猾さを持つ。粘体獣はまず、F_005の動きを観察し、雀の姿を模写。ぷよぷよとした体が縮み、小鳥のような形に変身した。「ピヨ……」と、偽の鳴き声を上げて近づく。 F_005は一瞬、仲間かと思いかけるが、粘体獣の「死んだふり」が発動。突然動きを止め、床に転がって死んだふりをしたのだ。F_005が警戒を緩め、近づいた瞬間、粘体獣は本性を現し、触手を伸ばして接触を試みる。「ピヨッ!」だが、F_005のスピードが上回る。マッハ10のトンズラで逃げ切り、粘体獣の変身を逆手に取った偽物の雀をぶつける。粘体獣は混乱し、変身を解いて元の不定形に戻る。「グチュ……」不気味な音を立てながら。 ナニカの圧力は、そんな混戦をさらに苛烈にする。紅がF_005を追う中、粘体獣が紅に変身を試みる。龍人の姿を模写し、偽の紅が現れる。「俺は本物だ! 奴らを焼き払うぜ!」と叫び、偽の炎を噴出。だが、本物の紅は即座に学習する――戦闘狂の才だ。相手の行動から攻撃パターンを読み、精密な炎の局所噴出で疑似レーザーカッター、龍剣・紅一門を放つ。偽紅の体が切り裂かれ、粘体獣の正体が露わに。「グチャッ!」粘体獣は痛みに悶えながらも、死んだふりを決め込み、紅の油断を誘う。 紅は一瞬、勝利を確信するが、ナニカの存在がそれを許さない。圧力が強まり、紅の剛龍殻が軋む。「くそっ、この圧力……闘いは喜びだが、こいつは違う!」紅は飽くなき闘争本能で耐え、奥義の覇龍砲をナニカに放つ。圧倒的火力の熱線が迸るが、ナニカには当たらず、虚空で消滅。反動で紅自身が吹き飛び、粘体獣の罠に嵌まる。粘体獣は紅の姿で接触を試み、存在の乗っ取りを狙う。「俺の体を……奪う気か!」紅は噴出による吹き飛ばしで間合いを取り、連続攻撃で粘体獣を追い詰める。 F_005は隙を突き、観客席から盗んだ何かを葛籠に詰め込みつつ介入。偽物の雀を粘体獣にぶつけ、混乱を助長。「チチッ!」雀のスピードが戦場を駆け巡り、ナニカの圧力圏外で遊ぶように飛び回る。だが、ナニカの影響は徐々に広がり、F_005の羽が重くなる。「チ……チッ?」雀は初めて恐怖を感じ、トンズラを繰り返すが、圧力に追いつめられる。 戦いは膠着した。紅の連続攻撃が粘体獣を模写不能に追い込み、F_005の盗みと逃走が皆を翻弄。ナニカの圧力は全員を無と化す寸前までいくが、概念超越ゆえに直接的な決着をつけられない。粘体獣は次々と変身を繰り返し、紅の炎を真似て反撃、F_005の雀姿でトンズラを模倣。紅は学習し、龍剣で切り裂き、炎の噴出で焼き払う。「ははっ、面白い! もっと来い!」 時間は流れ、アリーナは炎と粘液と羽音と圧力の渦。観客は息を呑み、誰も勝者を決められない。ナニカの存在が全てを無意味にし、紅の闘争がそれを延長し、F_005の逃走が均衡を保ち、粘体獣の変身が混乱を永続させる。ゴングが再び鳴り、時間切れ。引き分けだ。四者は互いに睨み合い、息を荒げ――ナニカはただ、そこに。 紅が笑う。「ふん、次は決着をつけようぜ。」F_005は「チチッ」と飛び去り、粘体獣はドロリと溶け、ナニカは消えぬ影のように残る。アリーナの歓声は、混沌の余韻に包まれた。 (文字数: 約1450字)