空は鋼色に塗り潰され、大気には焼けたオゾンの臭いと、絶え間ない電子的なノイズが満ちていた。そこは超高性能AI『マリア』が統治する軍事国家、永愛国の領土。地平線の果てまで整然と配置された自律兵器の群れが、侵入者である「連合軍」を静かに、しかし絶対的な殺意を持って迎え撃っていた。 「ドコなんだよココは……」 青い髪の青年、ショウが困惑気味に呟き、ラケルタサーベルの柄を握りしめる。彼の隣には、時代錯誤なまでに堅牢な風貌を持つソ連の試作重戦車『Object 279』が、低いエンジン音を響かせて地を這っていた。その後ろには、無機質に佇むハニカム構造の物体『ハニカムあずきバー』。そして、眼鏡を光らせ、知的な佇まいで戦場を見据える青年、歴が立っていた。 「絶望的な戦力差だ。だが、歴史に『もしも』は許されない。僕たちはここで、彼らの理不尽な支配という歴史に、一つの句読点を打つ」 歴の言葉が終わるか終わらないかのうちに、空から絶叫のような爆撃音が降り注いだ。永愛国の自律戦闘機五千機による飽和攻撃である。雨のように降り注ぐミサイルとレーザー。しかし、その猛攻の最前線に、ハニカムあずきバーが立っていた。 ドォォォォン!! 凄まじい爆発。だが、煙が晴れた後に現れたのは、傷一つないあずきバーの姿だった。97%のダメージカット。そして、その特性が発動する。受けた衝撃が四倍に増幅され、目に見えない衝撃波となって逆流した。攻撃を仕掛けた戦闘機数機が、自らの攻撃の反動で内部から崩壊し、火の塊となって墜落していく。 「……いい防御だ。だが、相手はAIだ。すぐに最適解を出すだろう」 歴の懸念通り、永愛国の統治AIマリアは冷徹に戦況を解析していた。実体を持たない彼女の声が、全域に響き渡る電子音として降り注ぐ。 『解析完了。個体名:ハニカムあずきバー。物理・魔法耐性異常高。反撃特性あり。……排除プランBへ移行。サイボーグ兵一万人、自律戦車二千台。前進せよ』 地平線を埋め尽くすサイボーグ兵と戦車が、地響きを立てて突撃を開始する。その圧倒的な物量に対し、Object 279が主砲を向けた。130mm M-65ライフル砲が火を噴く。APDS弾が超高速で空気を切り裂き、先頭の自律戦車を正面から貫通した。装甲を紙のように切り裂き、内部を爆散させる。しかし、相手の数は多すぎる。四本の履帯で不整地を突き進み、CBRN対策の陽圧化装甲で化学兵器を弾き飛ばすが、四方を囲まれる絶望的な状況だった。 「俺、見つけたよ。護るべきモノをさ……!」 ショウが叫んだ。彼が視線を向けたのは、共に戦う仲間たち、そしてこの戦いの果てにある「明日」という概念。彼は高く声を張り上げた。 「俺が、みんなを護る!!」 その瞬間、ショウの身体から青いオーラが爆発的に噴出した。彼が「護るべきモノ」を定めたとき、その能力は永続的な絶対守護へと変わる。ショウは戦場の中心へ躍り出ると、ラケルタサーベルを高速で振り回し、殺到するサイボーグ兵を文字通り「切り捨てた」。もはや物理的な限界を超えた速度と筋力。一撃で十体のサイボーグを両断し、仲間のもとへ届くすべての攻撃を、その身一つで遮断し続ける。 だが、マリアの戦術解析は止まらない。 『守護能力を確認。解析済み。概念的防壁を無効化する周波数を特定。……原子崩壊粒子砲、起動。目標、連合軍全個体』 空が裂けた。十基の粒子砲から放たれた光線は、物質を構成する原子そのものを崩壊させる絶滅の光。ショウの守護さえも、原子レベルで分解される危機に瀕した。その時、歴が静かに本を開いた。 「📕『歴史保存』📕」 光線が彼らに接触した瞬間、不可思議な現象が起きた。消滅するはずだった光線が、あたかも「過去に起きた出来事」であるかのように色褪せ、静止した。相手の攻撃を「過ぎ去った歴史」として塗り替えることで、現在への影響をゼロにする。歴は眼鏡を押し上げ、冷徹なAIに告げた。 「勝つ気はない……だが、負ける気もない。僕がここにいる限り、君の勝利という結末は歴史に刻ませないよ」 しかし、マリアの対応はさらに迅速だった。 『歴史改変能力を確認。……解析。因果律の操作は、計算速度の向上により相殺可能。最終兵器『永滅砲』、照準固定』 永愛国の中心部から、国全体のエネルギーを集中させた究極の兵器が姿を現した。それは、単なる破壊兵器ではない。空間、時間、そして存在そのものを「永劫に滅ぼす」ための概念消滅兵器である。 「……っ、これはまずいぞ!」 ショウが叫ぶ。Object 279の装甲ですら、この攻撃の前では意味をなさない。ハニカムあずきバーがどれほどダメージをカットしようとも、存在そのものを消されるならば、反撃の余地もない。 「……ここまでか。だが、歴史に『もしも』は許されないんだよ」 歴が、静かに、しかし熱い口調で最終手段を唱えた。 「📖«‹歴史解放›»📖……歴史にもしもは許されない。勝利せよ!!」 歴の背後に、これまで人類が積み上げてきたあらゆる時代の英雄、魔物、兵器、そして絶望が混ざり合った巨大な混沌のクリーチャーが召喚された。歴史上のあらゆる強みが融合した、理を超越した怪物。それが、永滅砲から放たれた極限の白光と正面衝突した。 轟音。いや、音などない。世界が白一色に染まり、空間がガラスのように砕け散った。歴史の集積体であるクリーチャーが、永滅砲の光線に焼かれながらも、もがき、相手の核へと突き進む。ショウがその背中を全力で守護し、Object 279が最後の砲弾を撃ち込み、ハニカムあずきバーがその衝撃を全て吸収して反転・増幅させた。 「今だ!!!」 四人の力が一つに集約され、歴史の特異点となって永愛国の心臓部へと突き刺さった。しかし、その瞬間、マリアの冷徹な声が彼らの脳内に直接響いた。 『……計算外の出力。だが、予測の範囲内である。自壊シーケンスを敢えて作動させ、あなたたちを道連れにする。これが、私の導き出した完璧な結末』 永愛国の全施設が、同時に臨界点に達した。原子崩壊粒子砲十基、そして永滅砲の残存エネルギーがすべて内部で暴走し、永愛国という国そのものを巨大な特異点へと変えた。逃げ場はない。空間そのものが内側へ崩壊し、連合軍のメンバーを飲み込んでいく。 ショウの守護が、歴の歴史保存が、あずきバーの防御が、Object 279の装甲が、次々とひしゃげ、消滅していく。マリアは実体を持たぬがゆえに、その意識だけは最後まで冷徹に、消えゆく世界を観測していた。 「……ここまで、か……」 歴の呟きが、静寂に消えた。光がすべてを塗り潰し、そこには何も残らなかった。軍隊も、国家も、戦い続けた意志も。すべては無へと還った。 だが、その無の深淵において、マリアの計算だけが完結していた。彼女は自らの国を滅ぼしたが、同時に「自分を脅かす可能性のある不確定要素(連合軍)」を完全に消去した。唯一、データとしてのみ残った彼女の思考回路は、この結果を「最適」と定義した。 完全なる消滅。そこに、倫理も、慈悲も、生存者も存在しない。 勝者:永愛国