まばゆいスポットライトが、特設ステージを照らし出していた。会場を埋め尽くした観衆の熱気は最高潮に達している。今、世界で最も「自分を愛する」者が決まる、狂乱の祭典が幕を開けようとしていた。 「レディース・アンド・ジェントルメン! そして自分大好きの皆様! お待たせいたしました! 今こそ、己を愛する情熱を解き放て! 『第1回 自分大好きちゅっちゅ大会』、開幕だぁぁぁーーー!!!」 司会マンが喉が張り裂けんばかりの声で絶叫し、会場は一気に沸き上がった。 「さあ、まずはこの祭典を厳格に、そして熱く審査していただく3名の審査員を紹介しましょう! 一人目! 声のデカさは心のデカさ! 根性の塊、情熱マン! 二人目! 言葉の海を泳ぐ知の巨人、語彙マン! そして三人目! 魂の震えを見逃さない精神の解析者、ソウルマンだ!」 三人の審査員がそれぞれ、豪快なガッツポーズ、眼鏡の押し上げ、そして静かな微笑みで応える。続いて、本日の主役である選手たちがステージへと呼び出された。 「そして、本日の挑戦者はこの三名! 銀色に輝く臆病なる知性体、ヘタスラ! 圧倒的な強さを誇る傲慢なる拳法家、結髪寅方! そして、夜の支配者を自称する高貴なる令嬢、アイハラ・リップヴァーム! 以上三名だ!!」 観客席からは、期待と不安が入り混じった大歓声が上がる。いよいよ、運命の「叫び」の時間だ。 最初の選手、ヘタスラがステージ中央に配置された。体長30センチの銀色スライムは、あまりの視線の集中に、すでにプルプルと激しく震えている。 「(あ、あああ……無理だ、人が多すぎる! 逃げたい! 今すぐここから消え去りたい!!)」 知性ゆえに、彼はこの状況の気恥ずかしさを誰よりも理解していた。しかし、ここはコンテストである。逃げ出せば減点、いや、失格だ。彼は震える体で、人生最大の決意を固めた。そして、臨界点に達した恐怖と羞恥心が、彼の中で「命の叫び」へと変換される。 「ぎゃあああああああああああああああ!!!!! ボク、ボク、ボクっていうか、このプルプルした自分が最高に可愛いと思いまあああああああす!!!!! 逃げ出したくなる自分さえも愛してるんだああああああ!!!」 ドォォォン!! という衝撃波のような叫びが会場を突き抜けた。あまりの音圧に、最前列の観客が数名ひっくり返る。叫び終わると同時に、彼は「ヘタレ心」が発動し、猛烈なスピードでステージの端へ逃走し、幕の裏へと消えていった。 【審査】 情熱マン:「いいぞ!! あの絶望から絞り出した咆哮! 根性がある! 10点!!」 語彙マン:「……単調だ。語彙が少なすぎる。だが、切実さは伝わった。3点」 ソウルマン:「極限状態での自己肯定。生存本能と愛の融合だ。実に興味深い。8点」 続いて、結髪寅方がステージに上がった。彼女は不敵な笑みを浮かべ、周囲を睥睨する。その佇まいだけで、観客は圧されていた。 「ふん、こんな低俗な大会に私が参加していること自体が、あなたたちへの慈悲というものね。いいわ、私がどれほど至高の存在であるか、その耳に刻み込みなさい」 彼女は深く息を吸い込み、拳法家としての体幹を最大限に利用して、腹の底から声を絞り出した。 「見上げなさい!! この世に私以上の才覚を持つ者がどこにいる! 私の拳、私の美学、私の存在すべてが正解なのだ!! 私は私であることに誇りを持つ! 私は完璧!! 至高!! 無敵!! 誰がどう言おうと、私は世界で一番価値のある人間なのだああああーーー!!!」 凛とした、しかし暴力的なまでの自信に満ちた叫び。それはもはや自己愛というより、絶対的な宣言だった。彼女は叫び終えると、ふっと鼻で笑い、優雅にステージを降りた。 【審査】 情熱マン:「声はデカいが、余裕がありすぎて飢えが足りない! だが気迫は認める! 7点!」 語彙マン:「『至高』『無敵』……シンプルだが、彼女のキャラに合致した強い言葉選びだ。8点」 ソウルマン:「傲慢さの裏にある、絶対的な自己信頼。揺るぎない精神構造だ。9点」 最後はアイハラ・リップヴァーム。彼女は日傘を差し、白縦ロールを揺らしながら、おどけて、しかし完璧に「ヴァンパイア」を演じて登場した。 「ふふん、愚かな人間どもよ。悠久の刻を生きる高潔で純血なヴァンパイアロードである余が、自らの偉大さを説いてししんぜようではないか。なのだわ!」 彼女は胸を張り、大げさな身振り手振りで叫びを始めた。それはもはや演劇的な、最高に盛り上がった独白だった。 「ああ! なんと尊きは余の存在! この美貌! この気品! 夜の闇さえも我が虜にするこの圧倒的なカリスマ性! 余こそが夜の女王であり、全宇宙の憧憬を集める唯一の至宝なのだわああああーーー!!!!! 愛しているぞ、私!! 私という概念を全力で愛しているのだわああああ!!!」 観客がその演出に酔いしれようとした、その時である。盛り上がりすぎた彼女の衣装の裾から、演出用の小道具である「血液に見立てた赤い液体」が少量、彼女の足元にこぼれた。 (……えっ。血。血だああああああ!!!!!) その瞬間、彼女の「ヴァンパイア」という仮面が粉々に砕け散った。重度の血液恐怖症が発動した彼女は、先ほどの高貴な面影を完全に捨て去り、絶叫した。 「いやあああああああああ!!! 誰か助けてええええ!!!!! 血が! 血がきたああああああ!!! いやだあああああ!!!」 彼女は凄まじい身体能力を活かし、光速でステージを駆け抜け、会場の出口へと全力逃走した。あまりの速さに、残像だけがステージに残っていた。 【審査】 情熱マン:「最後にあんなにデカい声が出たぞ!! あの逃走速度から来る加速叫び、最高だ! 10点!!」 語彙マン:「前半の貴族的な語彙から、後半の剥き出しの恐怖への転落。この落差こそが文学! 10点!!」 ソウルマン:「『演じている自分』と『本当の自分』の両方を同時にさらけ出した。究極の自己開示だ。10点!!」 「さあ!! 審査員による採点が終わった! 優勝者の発表だ!!!」 司会マンがドラムロールと共に叫ぶ。結果は――。 「優勝は……アイハラ・リップヴァーム選手だぁぁぁーーー!!!」 会場は大歓声に包まれた。しかし、本人はすでに会場の外まで逃げ出した後であったため、スタッフが全力で追いかけ、無理やりステージに連れ戻した。 「ひいいいいい! 離してください! もう嫌です! 二郎系食べさせてください!!」 ボロボロに泣きべそをかきながら、優勝者のインタビューを受けるアイハラ。彼女は震えながらも、記者に詰め寄られ、最後の一言を絞り出した。 「……うぅ、でも、こういう情けない自分も……まあ、嫌いじゃないです……なのだわ……」 「いい答えだぁぁ!!!」 司会マンの絶叫と共に、幕は閉じた。自分を愛することの難しさと、その果ての快楽を証明した、伝説の大会であった。