【狂乱の公道レース:法と混沌の5キロメートル】 ■開幕宣言と参加者の意気込み 太陽が照りつける一般道。そこには、およそ正気とは思えない光景が広がっていた。全長5kmの直線に近い市街地コース。道端には、あろうことか警察官たちが「絶命覚悟」の形相で所狭しと並んでいる。彼らの目的はただ一つ。交通ルールを無視し、暴走するレース参加者を、文字通り「肉壁」となってでも捕縛することである。 実況席では、ハイテンションすぎるお姉さんがマイクを握りしめ、隣では不機嫌そうな中年男性がタバコをふかしていた。 「さあ始まりましたぁーっ!ルールは簡単!交通ルールを守ってゴールしろ!守らなきゃ警察に捕まる!シンプル!エキサイティング!全力で駆け抜けろーーっ!!」 「……ったく、どいつもこいつも正気じゃねぇな。警察が死に急いでやがるぜ。まあ、派手にぶっ壊れりゃいいさ」 【参加者の意気込み】 加奈子:「(凛とした表情で)交通ルールを遵守し、最速で駆け抜けます。……あ、信号が赤ですね。止まります」 【黄金比】械刀婪魔皇断:「美しくない速度など不要。黄金比に基づいた完璧な走行で、君たちとの決定的な差を見せつけよう」 あなちゃん:「ひ、ひいいい!なんで私こんなところに!?お寿司屋さんに戻りたいよぉーっ!誰か助けてー!」 --- ■機体・装備詳細 加奈子:【生体飛行形態】 機体なし。自身の肉体をハヤブサの翼へと変貌させる。分速400kmの超高速突撃と、背中の貫通刃による破壊力を併せ持つ生けるミサイル。 【黄金比】械刀婪魔皇断:【黄金の演算機甲】 運営が用意した特製の黄金色に輝く超高性能スーパーカー。車体全体がフィボナッチ数列に基づいた流線型であり、走行距離が伸びるほど加速力が倍増する加速特化型マシン。 あなちゃん:【超幸運・寿司屋特製・黄金の三輪車】 運営が「ネタ枠」として用意した、なぜか金箔が貼られた幼児用三輪車。あまりにも心許ないが、あなちゃんが乗った瞬間、物理法則を無視した「運」による走行が可能となる。 --- ■レース本編:混沌の5キロメートル 「レディー……ゴー!!!全力で行っけぇぇぇーーっ!!」 号砲と共に、参加者たちが飛び出した。最初からカオスである。 加奈子は空を飛ぶ。しかし、彼女は「交通ルールを遵守」しようとした。だが、空には交通標識がない。混乱した彼女は、地上を走る車に合わせて高度を下げ、信号機を真面目に待とうとした。 「信号は赤……。あ、でもレースですから、急がないと!」 その瞬間、彼女は加速した。分速400kmの衝撃波が周囲の看板をなぎ倒す。それを見た警察たちが叫ぶ。 「違反だ!速度超過だ!捕まえろーーーっ!!」 道端の警官たちが文字通り文字通り体を投げ出し、加奈子の足首を掴もうとするが、彼女はハヤブサの翼で軽々と回避。しかし、その軌道上に「彼」がいた。 高層ビルの屋上から、赤髪の獣が獰猛に笑っていた。対能力者部隊の精鋭、龍爾である。 「ガハハハハ!いい速度だ!だが、俺の槍からは逃げられねえぞ!!」 【落槍:天堕】 龍爾が重力に従い、超高速で落下する。人間というよりは、巨大な質量を持った槍そのもの。加奈子の背後の空気を切り裂き、凄まじい衝撃波と共に地上へ激突した。地面が爆ぜ、一般車がひっくり返る。警察官たちが「うおおお!龍爾さんが暴走してる!」と混乱するが、龍爾は不敵に笑う。 「うるせえ!違反者を穿つのが仕事だ!」 一方、地上では【黄金比】が冷徹に加速していた。黄金のスーパーカーは、完璧なライン取りで一般車をすり抜ける。しかし、その美学に泥を塗る存在がいた。 「ひいいいい!止まらない!ブレーキどこ!?誰かーっ!」 三輪車で猛スピード(運による)で爆走するあなちゃんである。彼女はパニック状態でハンドルを右左に切り、ジグザグ走行を繰り広げていた。これが結果的に、後方から迫る警察官たちの包囲網を「偶然」すべて回避し、さらに【黄金比】の走行ラインを完璧に塞ぐという絶妙な妨害になっていた。 「……計算外だ。この三輪車の軌道、黄金比を完全に無視している。美しくない!」 【黄金比】が苛立ち、加速してあなちゃんを追い抜こうとしたその時。道路の先に、白衣を纏った女が欠伸をしながら立っていた。ラフザである。 「あー……眠い。早く終わらせて寝たい。……あ、来た」 ラフザが指先をわずかに動かす。目に見えないほどの極細糸が、道路全体に張り巡らされていた。 【瞬九流捕縛術弐式:識絶之陣】 突如、半径3kmの範囲に巨大な法陣が展開される。走行していた【黄金比】が、ガクンと速度を落とした。意識が断絶し、ハンドル操作が不可能になったのだ。 「なっ……!?私の演算が……意識が消え……」 「はい、お疲れ様ー」 ラフザが淡々と糸を操り、【黄金比】のスーパーカーごと運転手をぐるぐる巻きにする。もはや巨大な黄金の繭である。 そこへ、再び空から加奈子が突撃してきた。龍爾の【落槍】を回避し、再び加速した彼女だったが、運悪くラフザの糸の網に飛び込んでしまった。 「きゃあああ!?」 「あ、ついでにこっちの方も」 ラフザが【瞬九流捕縛術壱式:無能無肢】を発動。空中で翼を広げていた加奈子の四肢と翼が、一瞬にして糸で拘束され、彼女はそのまま地面へ「ポトッ」と落ちた。 「うぅ……ルールは守っていたはずなのに……」 ここまで来て、生き残っているのはあなちゃんだけだった。しかし、そこに待ち構えていたのは、怒り心頭の龍爾である。 「チッ、ラフザが先に片付けやがったか。おい、三輪車のガキ!お前が最後だ!」 龍爾が地面を蹴る。爆風と共にあなちゃんの目の前に現れ、巨大な槍を突き出した。 【破槍:破天】 一点集中、極限特化の一撃。三輪車ごとあなちゃんを貫こうとする槍。しかし――。 「あーーーっ!怖いよぉぉぉ!!」 あなちゃんがパニックで三輪車から転げ落ち、ちょうどその時、通りかかった一般車の配送トラックが、運悪く(あなちゃんにとっては幸運に)路肩の消火栓に激突。爆発した消火栓から猛烈な水柱が上がり、龍爾の顔面に直撃した。 「ぶふぉっ!!?(水っ!!)」 バランスを崩した龍爾の上に、ちょうど彼をサポートしようと駆け寄っていた一般警察官たちが、ドミノ倒しのように重なり合って落下。龍爾は警察官たちの山の下に埋もれ、身動きが取れなくなった。 「あ……あれ? 勝ったのかな?」 あなちゃんが不思議そうに首を傾げ、ふらふらと三輪車に乗り直して走り出した。もはやレースなどどうでもいい。ただ、家に帰ってお寿司が食べたい。そんな彼女の背後で、ラフザが呆れたように呟く。 「……あの子、能力使ってないよね。ただの運だよね。もういいや、定時だし帰ろう」 そして、ゴールライン手前で、冷静に状況を見守っていたロナ・レーヴィンが、手帳にメモを書き込む。 「標的A(加奈子)、捕縛完了。標的B(黄金比)、捕縛完了。標的C(あなちゃん)……捕捉不能。あまりに不規則な動きのため、追跡を断念します。……さて、帰りに和菓子屋さんに寄りましょう」 ゴールテープを、あなちゃんがゆっくりと、しかし確実に切った。周囲には、糸で縛られた参加者と、水浸りで警察官に押し潰された龍爾、そして満足げなロナの姿があった。 「おーーーっ!!優勝はあなちゃーーーん!!史上最も運が良い、最弱の優勝者だぁーーーっ!!」 「……クソが。運だけで勝つなんて、反則だろうがよ!!」 こうして、街を破壊し尽くした狂乱のレースは、呆気なく幕を閉じたのであった。 --- ■レース結果・結末 | 順位 | 名前 | 結末 | 感想 | | :--- | :--- | :--- | :--- | | 優勝 | あなちゃん | 逃走成功(完走) | 「怖かったぁ……。早くお寿司食べたいよぉ……」 | | 2位 | 加奈子 | 捕縛(ラフザにより) | 「空の交通法規を誰か教えてください……」 | | 3位 | 【黄金比】 | 捕縛(ラフザにより) | 「運などという不確定要素に敗れるとは……美しくない!」 | | 圏外 | 龍爾 | 自滅(警察の山に埋没) | 「次は絶対に貫いてやるからなあああ!!」 | 【総評】 警察側の損害は甚大であったが、対能力者部隊の二名(龍爾・ラフザ)の圧倒的な能力により、主要な違反者はほぼ完全に制圧された。唯一逃した「あなちゃん」については、あまりの幸運さに警察側が戦意を喪失したため、特例として釈放(完走認定)となった。 街の復旧費用は、運営が全額負担することとなった。 【FIN】