空は鉛色に濁り、かつての文明の残滓であるコンクリートの骸が、絶望的な静寂の中に横たわっていた。世界を塗り潰したのは、飢餓に突き動かされるだけの生ける屍――ゾンビ。彼らはただ歩くだけではない。時を経て変異し、皮膚は鋼のように硬化し、爪は肉を容易く引き裂く凶器へと化した。生き残った人間たちは、もはや「生存」ではなく「死ぬまでの時間稼ぎ」に疲弊していた。 【序章:孤独な戦線】 【荒廃したコロニー】 錆びついた鉄柵と、打ち捨てられた食料品店が並ぶエリア。そこには、一匹の奇妙な軍人がいた。軍帽を深く被り、背中に身の丈に合わない兵装を背負った犬、「軍人わんこ」である。彼は泥にまみれた前足でライフルを構え、周囲を警戒していた。喉は乾き、精神は極限まで追い詰められている。 「クソ……数が多い。だが、ここを抜ければ物資があるはずだ」 軍人わんこが独りごちた瞬間、路地の奥から「ギチギチ」という不気味な音が響いた。現れたのは、皮膚が剥がれ落ち、肋骨が剥き出しになったゾンビたちだ。彼らの目は濁り、口からはどす黒い粘液が滴っている。一匹が超人的な跳躍で襲いかかった。 「この野郎ッ!」 軍人わんこは即座に小型ミサイルを起動。爆炎が路地を焼き尽くし、ゾンビの肉片が周囲に飛び散る。しかし、死体は止まらない。爆発で半身を失ったゾンビが、なおも這いずりながら彼に手を伸ばす。その絶望的な執念に、軍人わんこは戦慄した。 【市街地外縁部】 一方、街の外れでは、圧倒的な鋼鉄の咆哮が轟いていた。「413th Armored Division」の戦車群である。主砲が火を噴くたび、押し寄せるゾンビの群れが文字通り「消滅」した。しかし、彼らの表情に余裕はない。数万、数十万という物量。弾薬の消費は激しく、兵士たちの目は血走っていた。戦車の履帯に絡みつく死体の山が、前進を妨げる。 「撃て! 止まるな! 止まれば食われるぞ!」 指揮官の絶叫が無線に響く。現代兵器をもってしても、この数には限界がある。ゾンビたちは戦車の装甲に頭を叩きつけ、自らの体を盾にして突破口を開こうとしていた。狂気的な物量作戦に、最強の師団さえも疲弊し始めていた。 【霧の深い森】 深い霧に包まれた森の中、白髪の女性「レス」は、銀の刀の柄に手をかけていた。彼女の周囲には、すでに数十体のゾンビが転がっている。しかし、彼女の呼吸は荒い。反応速度で凌いでいるとはいえ、絶え間ない戦闘による疲労が蓄積していた。 「あー……もう、しつこいねぇ。僕、もう歩きたくないよ」 ゆるい口調とは裏腹に、その瞳は鋭い。霧の向こうから、異様に長い腕を持つ変異種が音もなく接近していた。レスはそれを察知し、瞬時に腰の刀を抜く。 「先制攻撃」 閃光が走った。ゾンビが気づくよりも早く、その首が宙を舞う。しかし、森の奥からは数千の呻き声が近づいていた。逃げ場のない密林で、彼女は孤独な死闘を強いられていた。 【聖域の境界】 そんな地獄の中、ただ一匹、無垢な存在がいた。小型犬のジャックである。彼は好奇心旺盛に、ゾンビが徘徊する街を散歩していた。周囲のゾンビたちはジャックの「神聖なオーラ」に本能的な恐怖を感じ、近づくことさえできない。しかし、ジャックは気づいていた。この世界の空気が、耐え難いほどに汚れ、腐っていることに。彼はクゥーンと悲しげに鳴いた。彼にできることは、その可愛さで絶望に染まった世界を浄化することだけだった。 【辺境の平原】 そして、時代を逆行したような軍勢がいた。「ダートハート」の王国軍である。1600人の重騎兵がランスを構え、2000人の歩兵が盾の壁を作る。彼らは中世の戦術で、現代の災厄に立ち向かっていた。 「構えよ! ランスチャージ!!」 地響きと共に重騎兵が突撃する。鋼の蹄がゾンビの胸腔を貫き、なぎ倒していく。しかし、彼らの前には、皮膚が岩のように硬化した「装甲ゾンビ」の群れが現れた。ランスが弾かれ、盾の壁に激しい衝撃が走る。中世の兵士たちにとって、この未知の怪物は恐怖以外の何物でもなかった。 【邂逅と絶望への行軍】 運命に導かれるように、彼らは次第に一点へと集まっていく。軍人わんこは413th Armored Divisionの戦車に拾われ、レスはダートハートの歩兵隊と合流し、ジャックは皆の足元に寄り添った。互いに面識はなく、不信感と疲労が渦巻いていたが、共通の敵は明確だった。 彼らが向かう先は、この悪夢の根源――【研究所】。 「あそこに行けば、ワクチンがあるかもしれない」 軍人わんこが地図を広げながら言った。しかし、研究所へ向かう道中、彼らは見た。空を舞い、音速で移動する翼を持った変異ゾンビの群れを。そして、地面から突き上げるように現れる巨大な触手のような肉塊を。ゾンビたちは刻一刻と進化し、もはや生物としての常識を超えていた。 【研究所:死の回廊】 ようやく辿り着いた【研究所】。そこは白く無機質な壁に、どろどろとした血と内臓が塗りたくられた地獄だった。足を踏み入れた瞬間、彼らを襲ったのは、目に見えない死――空気感染だった。 「ゲホッ……! 何だ、この空気は……!?」 413th Armored Divisionの兵士たちが次々と崩れ落ちる。防護マスクを突き破るようにウィルスが浸透し、生きている人間が、数分後には意識を失い、そして「目」を開けて隣の友人に噛み付いた。内部からの崩壊。絶望的なパニックが研究所を包む。 「逃げろ! 走れ!!」 軍人わんこが叫ぶ。しかし、回廊の先から現れたのは、研究所で最悪の失敗作とされた「超個体」だった。身長3メートルを超え、全身が硬質化した骨の鎧に覆われ、四本の腕に鋭い刃を持つ怪物。 「……やるしかないね」 レスが銀の刀を正眼に構える。ダートハートの騎士たちが盾を組み、413thの生き残った戦車が狭い廊下で主砲を構える。ジャックは静かに、しかし力強く吠えた。神の加護を持つ彼だけが、この絶望的な空間で唯一の希望の光となっていた。 「こちら軍人わんこ! 全機! 射撃せよ!!」 空を覆い尽くすほどの軍事飛行機が現れ、研究所の天井を突き破って数億発の弾丸が雨のように降り注ぐ。轟音と火炎。しかし、その炎の中でも、超個体は笑っていた。肉体が再生し、さらに巨大化していく。 戦いはまだ始まったばかりだ。一歩間違えれば、この世界から「人間」という種が消え、永遠の静寂と腐敗だけが残る。彼らは血を吐きながら、それでも生きるために、絶望の深淵へと突き進む。 -------------------------------------------------- 【生存状況】 ・軍人わんこ:生存(重傷・精神的疲労) ・413th Armored Division:生存(戦力大幅減少・空気感染による内部崩壊中) ・レス:生存(極度の疲労) ・ジャック:生存(完全無傷・神聖化中) ・ダートハート:生存(兵数激減・壊滅的打撃)