夢の闘技場:曖昧なる戦いの幕開け 章1: 霧の中の自己紹介 夢の世界の闘技場は、ぼんやりとした霧に包まれていた。円形の舞台は石畳のように見えるが、触れると砂のように崩れ、すぐに元に戻る。観客席は空っぽで、ただ風がささやくような音だけが響く。ここは記憶が曖昧な戦士たちが集う場所。誰もが自分の名前さえ、はっきり思い出せない。 最初に姿を現したのは、銀髪の少女だった。青い瞳がきょろきょろと周囲を見回し、胸元に丸い鏡が揺れている。銀と水色のグラデーションのワンピースを着て、手にはホイッスルらしきものを握っている。彼女は元気よく声を上げたが、どこか自信なさげだ。 「えっと、わたしは……カガミ? うん、カガミだと思うの! ミラちゃんの姉で、審判さんみたいなことしてるはず……かな? あなたたち、誰? ここ、闘技場だよね? ルールは……覚えてないや。ふふ、ドジっちゃった!」 彼女の言葉に、疑問符がぽんぽんと浮かび上がるように、周囲の空気が揺れた。次に、がっしりとした体躯の男が現れる。褐色の肌に、鋭い目つき。風をまとったようなオーラを纏っているが、彼自身も首を傾げている。 「俺は……ワムウ? いや、ワムーとかだったか? 闘うのが生き甲斐の、風の戦士……うむ、そうだ。人間じゃない、長い命の持ち主だ。太陽が苦手で……え? ここは日陰か? お前たち、敵か味方か? 技は……風の何か、だったな。ふむ、思い出せん。」 今度は赤髪のポニーテールが弾むように少女が飛び出してきた。童顔で茶色の瞳が輝き、黄橙色の作業着に革手袋。腰には銃のようなものと、不思議なツールがぶら下がっている。彼女は楽しげに手を振ったが、すぐに眉を寄せた。 「わーい、みんな元気? 私はリナ・ギアハート! って、ギアハート? それともリナ・何か? 19歳のメカニックで、発明が大好き! トラブルはワクワクの種だよ! でも……ここ、夢みたい。ホーリーアローちゃんとか、キュッときゅんとか、持ってるはずだけど……これ、銃? あれ、連射できないの?」 三人は互いを見やり、頭上に疑問符がいくつも浮かぶ幻のような光景。カガミが泣きそうに目を潤ませる。「ええん、みんな名前あやふや? わたしもミラちゃんのこと、ぼんやりしか……。戦うの? ルール違反じゃない?」ワムウは拳を握り、「闘えば思い出すさ」と呟き、リナは「面白そう! でも、勝ち方わかんないよー?」と笑う。霧が濃くなり、戦いのゴングが、どこからかぼんやり響いた。 章2: 手探りの戦闘開始 闘技場中央で、三人は円を描くように立つ。誰も戦い方を思い出せない。ワムウが最初に動いた。両腕を前に突き出し、関節をぐるぐる回し始める。普段なら巨大な竜巻を起こすはずの「神砂嵐」だが、記憶の霧で歪んでいる。 「風の流法! 神砂……嵐? うおおお!」ワムウの腕が高速回転し、突風が吹き荒れるはずが……ぽよん、と小さな綿菓子のような雲がふわふわ浮かぶだけ。雲はリナの方へ漂い、彼女の髪をくすぐった。「わわっ、何これ? 攻撃? かわいいー!」リナは笑いながら後ずさるが、ワムウは困惑顔。「違う、粉砕するはず……なぜ、甘い風に?」疑問符が彼の頭上で渦巻く。 カガミは慌ててホイッスルを吹く。ピーッ! 「ダメですよー! そんなふわふわ攻撃、ルール違反かも!」彼女の胸元の鏡が光り、雲を反射しようとするが、鏡は曇ってしまい、雲が跳ね返ってワムウの顔にくっつく。ワムウはむせながら、「これは……防御か? いや、俺の技が甘くなったのか?」カガミはドジッと転びそうになり、「わたし、反射するはずなのに……鏡、曇っちゃった! うう、泣きそう……」 リナが楽しげに飛び出す番だ。「これが私の自信作! ホーリーアローちゃん、いっけー!」彼女の銃が散弾を撃ち出すはずが、連射力の低さを忘れたのか、ぽこぽこと小さな火花のような光の粒が飛び出すだけ。それがワムウに当たるはずが、カガミの「こっちです!」で鏡像が現れ、粒を撹乱。光の粒はぐるぐる回ってリナ自身に跳ね返り、彼女の作業着を少し焦がす。「あちっ! 自分の攻撃が戻ってきた? キュッときゅん、強化してよー!」リナはマルチツールを振り回すが、ツールはただキラキラ光って、何も起きない。「え、作るはずが……おもちゃみたい?」 戦いはグダグダ。ワムウが「ステルス能力!」と叫び、体表の管から空気を噴出。姿を消すはずが、水蒸気の屈折でただの虹色の霧が発生し、三人とも霧の中に包まれる。「見えなーい!」カガミが泣き叫び、リナが「ワクワク! 隠れんぼ?」と笑う。ワムウの声だけが響く。「姿を消したはず……なぜ、みんなも霧の中?」 章3: 混沌の技の応酬 霧が晴れぬまま、技の応酬は続く。カガミが立ち上がり、真面目に叫ぶ。「ルール違反です! そんな霧、ダメですよ!」ホイッスルを吹き、イエローカードを掲げる。胸元の鏡が反射態勢に入るが、記憶の曖昧さで鏡はただの飾り玉のように回転するだけ。ワムウの霧を吸収しようとするが、逆に霧が鏡に絡まってカガミをくしゃみ連発にさせる。「はくしょん! わたし、吸収するはずなのに……うわーん、ドジだわ!」 ワムウは苛立ち、「最終流法・渾楔颯!」と気合を入れる。管から空気を吸い込み、圧縮して噴出。標的を切り刻むはずが、圧縮された空気がぷしゅーっと漏れ出し、ただの風船のような膨張音を立てる。風船が膨らんでリナにぶつかり、彼女をふわっと持ち上げる。「わー、飛んじゃう! ライフセーバーくん、助けてー!」リナの自走ロボットが起動し、ナノマシンを注入して回復するはずが、ロボットはただピコピコ音を立てて踊るだけ。2回目の使用でさえ、ただの光のショー。「回復した気が……しないよー? でも、楽しい!」 リナの「ぱっちん!」ドローンが飛び、攻撃を弾くはずが、5回も防がずに1回で機能停止。ワムウの風船攻撃を弾こうとして、ドローン自体が風船に絡まってパチンと割れる。「あちゃー、壊れちゃった。発明、失敗?」疑問符が飛び交い、三人は息を切らして笑い合うような、泣きそうな顔で睨み合う。 カガミが突然、「即死耐性、発動!」と叫ぶ。何の前触れもなく、彼女の鏡が光る。誰も即死技を使っていないのに、勝手に即死を無効化し、ワムウを「退場!」と指差す。ワムウはぽかんとして、「俺は即死など使ってないぞ? なぜ退場?」リナは手を叩いて、「審判さん、厳しいー! でも、ルールわかんないよね?」 章4: 決着の霧 戦いは延々と続き、誰も勝敗がつかないグダグダ状態。技はすべて頓珍漢で、竜巻は雲、銃は火花、鏡はくしゃみ要員。疲れ果てた三人が座り込んだ時、闘技場の中央に巨大な影が現れた。バク――夢の守護者らしき存在。ふくよかな体に角を生やし、威厳ある声で宣言する。 「この曖昧なる戦い、勝者を定める。記憶の霧が晴れぬ中、最も真っ直ぐに闘志を燃やしたのは……ワムウ! 風の戦士よ、勝利を。」 カガミは目を丸くし、「ええ? わたし、審判なのに負けちゃうの?」リナは拍手、「おめでとう! 次は私の発明でリベンジだよ!」ワムウは拳を握り、「ふむ、闘えただけでも満足だ。だが、技が甘かったな……。」バクの角が光り、霧が一気に晴れる。 章5: 目覚めの現実 ワムウの視界が揺らぎ、闘技場が溶けるように消えていく。次に目を開けた時、彼はベッドの上にいた。現実の世界、静かな部屋。窓から朝日が差し込み、太陽の光が少し眩しい。「夢……だったのか。あの風の技、なぜあんなにグダグダに? カガミという娘や、リナの機械……すべて、俺の記憶の欠片か。」 彼はベッドから起き上がり、鏡を見る。自分の顔が映るが、どこか曖昧だ。「闘いの生き甲斐は本物だ。次は、太陽の下で本気の風を起こすとしよう。」夢の余韻に、かすかな笑みが浮かぶ。すべて、ワムウが見ていた夢だった。