空は鉛色に塗り潰され、太陽の光は厚い雲と灰に遮られていた。かつて文明が謳歌した街並みは、今やひび割れたアスファルトと、打ち捨てられた車両、そして絶え間なく響く「飢えた叫び」に支配されている。 世界を襲った謎のゾンビウィルスは、瞬く間に人類を飲み込んだ。生き残った者は、もはや希望ではなく、ただ「今日を生き延びる」という本能だけで動いていた。 【荒廃したコロニー】 ヨーコ・スズキは、肩で息をしながらコンビニエンスストアの棚に身を潜めていた。彼女の白いブラウスは泥と返り血で汚れ、瞳には深い疲労が刻まれている。手にしたポンプ式ショットガンが、かすかに震えていた。 (もう……限界……) 彼女はナップザックから救急スプレーを取り出し、擦りむいた腕に吹き付ける。その時、店外から「ガリガリ」と、爪でコンクリートを掻きむしる音が聞こえてきた。 現れたのは、皮膚が剥がれ落ち、どす黒い筋肉が露出したゾンビだった。顎が外れ、だらりと垂れ下がった口から、粘着質な唾液が糸を引いている。その目は濁りきり、ただ生者の温もりだけを求めていた。 「……来ないで!」 ヨーコがショットガンを構え、引き金を引く。――ドォォン! 至近距離からの散弾がゾンビの胸部を弾き飛ばし、肉片が壁に飛び散った。しかし、死体は止まらない。肺など不要な化け物は、胸に巨大な穴が開いたまま、不気味な速さで這い寄ってくる。 「きゃあ!」 絶体絶命の瞬間、彼女は本能的に【エスケープ】を発動させた。一瞬の加速で後方へ大きく跳躍し、ゾンビの腐った指先を紙一枚で回避する。彼女は息を乱しながら、記憶の底から浮かび上がる「銃器の扱い方」を反芻していた。 一方、街の海岸線に近いエリアでは、異様な光景が広がっていた。 海上に鎮座する、巨大な鋼鉄の要塞――【超大和型戦艦】。全長263メートルの巨体は、押し寄せるゾンビの群れを、文字通り「蹂躙」していた。 岸壁に上がり詰めようとする数万のゾンビに対し、戦艦は無言で主砲を火いた。 ――ズドォォォォォン!! 45口径51センチ連装砲が放つ衝撃波だけで、周囲の建物が震え、ゾンビの群れは文字通り肉片となって霧散した。装甲厚800mmの強固な壁に、ゾンビたちが絶望的に爪を立てるが、鋼鉄の城は微塵も揺るがない。それは意思を持たぬ、静かなる破壊の化身であった。 その戦火の喧騒の中、一人の男が静かに歩いていた。 【殺し屋の流儀】野原ひろしである。彼は無表情に、血溜まりの中を歩きながら、手にしたナイフを軽く回した。彼の周囲には、頭部を正確に破壊されたゾンビの死体が山となって積み上がっている。 「……ふぅ」 ひろしは周囲を見渡し、状況を分析する。彼にとって、この地獄のような光景は、ある種の「メニュー」に見えていた。 (この個体の動き、配置……。まるで、盛り付けの悪いナポリタンだな) 彼は【昼メシの流儀】を展開する。目の前のゾンビの群れの隙間、効率的な殺害ルートを「最高の食べ方」として導き出した。その瞬間、彼の瞳に鋭い光が宿る。 「朝飯前ではいかない……だから昼メシの流儀だ」 ひろしは爆発的な速度で踏み込んだ。ゾンビが反応するよりも早く、ナイフが頸椎を断ち、心臓を貫く。作戦が完璧に遂行されるたび、彼の心拍数が上がり、身体能力が跳ね上がっていく。【テンション上がるな〜】。殺戮の舞が、静寂の街に刻まれていた。 さらに内陸の【研究所】付近では、地獄を体現したような戦いが繰り広げられていた。 「焼き尽くせ!!」 Micro Blazeが火炎放射器を最大出力で放射する。赤と青の機械装甲から火花を散らしながら、彼は前方のゾンビ群に地獄の業火を浴びせた。0.025秒に一度のダメージ判定が、化け物たちの肉を瞬時に炭化させ、絶叫さえ許さず消し飛ばしていく。 しかし、その背後から、空間を歪ませる異形が飛来した。 【4次元ハイパーダイヤモンド】。回転し続ける正八面体の幾何学的構造体は、咆哮のような振動を放ちながら、Micro Blazeへと突撃した。 「なっ……!?」 Micro Blazeがビームを放つが、ハイパーダイヤモンドは4D幾何学によって弾道を逸らし、そのまま正面から衝突した。――ガキィィィン! 衝突した瞬間、Micro Blazeの強固な機械装甲の一部が「フラクタル化」し、幾何学的な破片となって崩れ落ちる。物理法則を無視した破壊力に、Micro Blazeは大きく後退した。 【最終局面:研究所の最深部】 運命に導かれるように、生き残った者たちが研究所の広場で合流した。絶望的な状況の中、彼らは一時的な共闘を選んだ。目指すは、ウイルス抗体が眠る最深部のサーバー。 そこには、時間経過と共に強化され、皮膚が硬質化した「エボリューション・ゾンビ」が数百体、壁のように立ちはだかっていた。 「私がシステムをハッキングして扉を開けます! 皆さん、時間を稼いでください!」 記憶を取り戻しつつあったヨーコが、大胆に端末へと駆け出す。彼女の指がキーボードを叩く速度は、もはや人間業ではなかった。 「よし、来いッ!!」 Micro Blazeが前線で火炎の壁を作り、ハイパーダイヤモンドが正八面体の弾丸を雨のように降らせて敵の陣形を崩す。超大和型戦艦は、研究所の壁を突き破って主砲を突き出し、内部の敵を一掃した。 そして、ひろしが静かに呟く。 「【領域展開・昼食時間(ランチタイム)】」 世界が塗り替えられ、そこは静謐なレストランのような空間へと変貌した。ひろしの傍らには、巨大なオムライスの化身が顕現し、ゾンビたちをまとめてプレスし潰していく。完璧な作戦、完璧な殺戮。彼らの連携により、ついにワクチンが回収された。 【エピローグ】 ワクチンが散布され、ウィルスの活性が停止してから、数年の月日が流れた。 世界に再び緑が戻り始めていた。コンクリートの隙間から名もなき花が咲き、鳥の声が空に響く。 生き残った彼らは、かつての戦場となった丘の上に立っていた。 ヨーコは、もう震えていない。彼女は空を見上げ、失った記憶と、得た絆に思いを馳せていた。Micro Blazeは機械の鎧を脱ぎ捨て(その素顔は誰にも明かされなかったが)、静かに風に吹かれている。ひろしは、久しぶりに本物のナポリタンを口にし、満足げに目を閉じた。 そして、海に浮かぶ巨大な鋼鉄の城は、静かに波に揺られていた。もはや砲弾を撃つ必要はない。ただそこにあるだけで、平和の象徴のようにどっしりと構えていた。 彼らは思う。地獄を生き抜いたからこそ、この静寂が、何よりも贅沢な宝物であることに。