【喫茶店Dallas・午後のひととき】 チリン、とドアベルが鳴り、ワインレッドの髪を揺らしたバレガー・スクリアスが店内に入ってきた。銀色の瞳は落ち着いていて、所作はきびきび。けれど、席につくなりメニューをじっと見つめる顔は、少しだけ楽しげだった。 ライムちゃん「いらっしゃいませー! にゃー、今日はアップルパイが焼きたてだよ! おすすめの紅茶もあるにゃん!」 バレガー「では、アップルパイと紅茶をお願いします。紅茶はミルクを添えてください」 ライムちゃん「かしこまりっ! お客さま、アップルパイ好きなんだね。私も好き! あとグミも好き! あと漫画も好き! あとソシャゲも……」 レモンちゃん「注文を受けてから好物の自己紹介を三連コンボで重ねないの。お客さまがメニューを読む時間がなくなるでしょ」 ライムちゃん「えへへ、話が弾みそうだったからつい! ✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 レモンちゃんは魔法の花を一輪、テーブルにふわりと咲かせた。花びらが小さく光り、メニューの端を押さえる。 レモンちゃん「お待たせしないように、花の魔法で伝票を厨房まで運びます。……って、伝票が花に乗って飛んでいくの、冷静に考えるとちょっと変ね」 ライムちゃん「伝票のお花見だね!」 レモンちゃん「花見の会場は厨房じゃないのよ」 カウンターの奥から、頭に魚を載せた三毛猫のマスターDが、丸眼鏡をくいっと上げて顔を出した。 マスターD「ふむ。ご注文はアップルパイと紅茶じゃな。焼きたてを用意するぞ。レモンちゃん、今日も接客が華やかじゃな」 レモンちゃん「ありがとうございます、マスター。バイト中は中学生らしく、きちんと働いています」 ライムちゃん「きちんとツッコむのも接客のうちだよね!」 レモンちゃん「それは接客の基本に載ってないわ」 近くの席では、ごついおっさんがコーヒーをすすりながら、三人のやり取りを見守っていた。黒革のジャケットとあごひげの迫力に反して、表情は平和そのものだ。 ごついおっさん「注文を取るだけで、ずいぶん賑やかなもんだな。いい店だ」 バレガー「皆さん、息が合っていますね」 ライムちゃん「そうなの! うちの妹はツッコミが鋭くて、マスターは経営上手で、おっさんは……」 ごついおっさん「常連だ」 ライムちゃん「常連さん! にゃー!」 ごついおっさん「そこは無理に紹介しなくていいぞ」 ほどなくして、マスターDがアップルパイと紅茶を運んできた。パイはこんがりと焼け、表面には小さな星形の砂糖が散っている。 マスターD「お待たせじゃ。焼きたてのアップルパイと紅茶じゃよ」 バレガー「ありがとうございます。とても良い香りですね」 ひと口食べたバレガーの表情が、ほんの少し柔らかくなった。 バレガー「甘さと酸味のバランスがいいですね。おいしいです」 ライムちゃん「やったー! マスター、褒められたよ!」 マスターD「わしが焼いたパイじゃからのう。褒め言葉はありがたく受け取っておくぞ」 レモンちゃん「お姉ちゃん、なぜあなたが褒められたみたいに喜んでいるの」 ライムちゃん「おいしいものは、みんなで喜ぶものだよ! そうだ、バレガーさんってメイドさんなんだよね? メイド服って、動きやすい工夫とかあるの?」 バレガー「ありますよ。袖口を邪魔にならない形にしたり、ポケットの位置を考えたり。見た目だけでなく、働きやすさも大切です」 ライムちゃん「なるほどー! 私のメイド服にも、虹のペンを入れるポケットがあるんだ。これで、漫画のネコ型クッションを描いて――」 レモンちゃん「待って。そのペンで描いたものを実体化させるんだから、店内に巨大クッションを出す前にサイズを考えて」 ライムちゃん「じゃあ、手のひらサイズ!」 虹色のペンが紙の上を走り、丸い猫のクッションがぽんっと現れた。ライムちゃんはそれをバレガーの隣に置く。 ライムちゃん「できた! お店の新しいお友だちだよ。にゃー!」 バレガー「かわいいですね。接客の合間に、こういう小物を作るのも楽しそうです」 レモンちゃん「ただし、会計伝票までクッションにしないでね」 ライムちゃん「しないよー。伝票は大事だからね!」 マスターD「うむ。店の備品と会計は大切じゃ。創造神プリンターを使うまでもない、穏やかな午後がいちばんじゃな」 ごついおっさん「まったくだ。パイを食べて、茶を飲んで、気の置けない会話をする。それだけで十分だ」 バレガー「ええ。忙しい日々のなかで、こういう時間は貴重です」 ライムちゃん「じゃあ、漫画も読もうよ! 喫茶店が舞台のギャグ漫画があるんだ。店員さんが注文を聞くたびに、なぜか語尾が全部『にゃ』になる話!」 レモンちゃん「それ、今のお姉ちゃんとほぼ同じじゃない」 ライムちゃん「えっ、私、漫画の主人公だったの!?」 ごついおっさん「いや、現実だ」 マスターD「現実のほうが、たまに漫画より奇想天外じゃからのう」 全員の笑い声が店内に広がった。バレガーはアップルパイを最後まで味わい、紅茶を飲み干すと、きちんと席を立つ。 バレガー「ごちそうさまでした。楽しい時間をありがとうございます」 ライムちゃん「また来てね! 次はソシャゲの話もしようにゃん!」 レモンちゃん「お姉ちゃん、会計を忘れているわよ」 ライムちゃん「はっ! 楽しくて、危うくお店の人がお客さまにおごるところだった!」 マスターD「危うく、ではなく、それは経営上まずいぞ」 ごついおっさん「そこは店主らしいツッコミだな」 【お会計】 - 注文内容:アップルパイ 650円 - 注文内容:紅茶(ミルク付き) 500円 - 支払金額:1,150円 バレガーは代金を支払い、笑顔でDallasを後にした。ドアベルがチリンと鳴る。 ライムちゃん「またのお越しをー! にゃー!」 レモンちゃん「最後まで語尾が漫画のままだったわね」 マスターD「それもまた、Dallasの日常じゃ」 ごついおっさん「さて、俺はもう一杯コーヒーを頼むか」 レモンちゃん「常連さん、今の会話を見届けたあとで追加注文するの、タイミングが完璧ですね」