【狂乱の公道5km!交通ルール遵守(?)超速レース開幕!】 青い空、白い雲。そして、どこまでも続く一般道。本来であれば平和な日常が流れているはずのこの道路に、今、絶望的なまでの緊張感と、それ以上の「混沌」が満ち溢れていた。 道路の両脇には、所狭しと警察官たちが陣取っている。その数、数百。彼らの眼差しは鋭く、装備は重い。彼らに与えられた至上命令はただ一つ。「交通ルールを破った違反者を、たとえ命を賭してでも捕縛せよ」。 そして、その警察軍団の最前線に立つ二人の女。対能力者専門部隊《ж》のラフザと彩夏である。 「あー……もう、だるい。なんで私がこんな日光の下で立ってなきゃいけないの。家でゴロゴロしてネットショッピングしてたい……」 白衣をだぼだぼに羽織り、丸眼鏡の奥で眠たげな目を擦る白髪の女、ラフザ。口調こそ堕落しているが、その指先には目に見えぬほど細い、しかし鋼鉄をも断つ特製糸が静かに操られていた。 「いいじゃない!こういう刺激的なのが最高なのよ!ねえ、零、今日の獲物は誰が一番に『お縄』になると思う?」 対照的に、燃えるような赤い短髪を揺らし、太陽のように笑う彩夏。彼女の傍らには、不可視の支援AI『零』が冷静に状況を分析していた。 『彩夏様、現在の参加者の能力・機体構成から推測して、交通ルールを完璧に守れる確率は0.02%です。実質的に全員捕縛対象になると判断します』 「あはは!最高!全部捕まえちゃおう!」 --- 【エントリー・機体紹介】 実況の「なんでも全力お姉さん」が、拡声器を最大ボリュームにして叫ぶ! 「さあ始まりました!全長の5km、ルールは簡単!交通ルールを守ってゴールしろ!守らなければ警察が全力で捕まえる!簡単!シンプル!絶望的ーーー!!」 解説の「荒々しいおっさん」が、タバコを噛み締めながら怒鳴り返す! 「バカ野郎!ルールを守ってレースになんぞなるか!どいつもこいつも、ぶっ飛ばして捕まってろ!さあ、出走順だ!!」 ① ASM-43-FT 巨大な三脚式車輪脚型兵器。12.7mの灰色の巨躯に、旧時代の暴力的な火力を搭載。もはや道路という概念を物理的に破壊しかねない絶望の塊。 「炉活性化。殲滅駆動動装置稼働。始。交通法規の遵守……効率的ではないと判断。最短ルートを選択する」 ② リキッドメタル & 博士 液体金属製の戦闘ロボ。武器はなぜか「スリッパ」。同行する博士は、震えながら逃走を試みるが、開始直前にリキッドメタルに首根っこを掴まれ、強制的に参加させられた。 博士:「いやだあああ!私はただの学者だ!なぜこんなレースにーー!!」 ③ THC-22 超重固定回転式機関砲台。……固定である。動けない。運営側が「どうやって走るんだよ!」と突っ込んだが、強引に超巨大な全地形対応型キャタピラ台車に載せられてエントリーした。 「射程確認。発射準備。前方、全て排除する」 ④ ゴリラさん 変異種ゴリラ。筋肉の塊。手にはなぜか、来園客から貰った『効率的な道路交通法攻略本』を握りしめている。 (……なるほど。信号無視は厳禁。だが、歩道を走ることは禁止されてはいるが、物理的に破壊して進めばそれは『道路工事』扱いになるのではないか?) 「ウホッ!(イケル!)」 --- 【レース展開:混沌の5km】 「レディ……ゴー!!!」 号砲と共に、静寂は一瞬で消し飛んだ。最初に動いたのはASM-43-FT。時速37.4kmという、兵器としては緩慢だが、その巨体による質量攻撃は凄まじかった。スタート直後、ASM-43-FTは効率的に最短距離を進もうとして、あろうことか「中央線」を完全に無視して逆走を開始した。 「違反確認!逆走!逮捕ーーー!!」 お姉さんの絶叫と同時に、道端の警察官たちが絶叫しながら飛び出した。しかし、12mの鋼鉄の塊に正面からぶつかれば死ぬ。警察官たちは絶望的な表情で、それでも盾を構えて突撃する。 一方、リキッドメタルは博士を脇に抱え、液体化して地面を滑るように加速。しかし、あまりの速度に博士が「ああっ!スピード出しすぎだ!速度制限を守れ!」と叫ぶ。リキッドメタルは忠実なため、急ブレーキをかけた。その結果、後方から猛追していたゴリラさんと激突。 「ウホ!!(ヒット&アウェイだ!)」 ゴリラさんは空中で見事な回転を見せ、リキッドメタルの頭上に【ゴリパンチ】を叩き込んだ。属性付与により、液体金属の粘性を無視した衝撃が直撃。リキッドメタルはスリッパを飛ばしながら路肩へ弾き飛ばされた。 「あーあ、もうめちゃくちゃ。ねえ彩夏、あそこに固定砲台がいるよ」 ラフザが欠伸をしながら指差したのは、キャタピラでガタガタと振動しながら進むTHC-22だった。THC-22は「射程内」に入ったASM-43-FTに対し、容赦なく十二連銃身から弾丸の雨を降らせる。 ガガガガガガガガガ!!!!! 「ぎゃああああ!!」と叫ぶ一般車(の運転手)がパニックになり、ハンドルを切って電柱に激突。交通大混乱である。おっさん解説者が興奮して机を叩いた! 「いいぞ!これだ!これがレースだ!ルールなんて飾りだ!警察が絶望して死にかけてるぞ!最高だ!!」 だが、ここで《ж》が動く。 「零、座標固定。標的はあの固定砲台と逆走兵器。……行くよ!」 彩夏が跳躍し、空中で【弾丸変更:爐剛杭弾】を装填。追尾炎上弾が空を切り、THC-22のキャタピラ部分を正確に撃ち抜いた。凄まじい熱量で金属が融解し、THC-22は前進能力を喪失。そのまま回転砲塔だけを激しく回し、周囲の警察官たちを威圧する。 「さあ、私の番だね……」 ラフザが白衣のポケットに手を突っ込み、指先を軽く弾いた。 【瞬九流捕縛術壱式:無能無肢】 不可視の細糸が、まるで生き物のように道路を駆け巡る。逆走し、警察をなぎ倒しながら進んでいたASM-43-FTの関節部、駆動系、そして操縦席のレバーに、瞬時に糸が絡みついた。次の瞬間、巨大兵器の全関節が「ガチッ」と固定され、完全に静止。もはやただの巨大な鉄屑と化した。 「ふぅ……疲れた。あとの捕縛は一般の警察さんに任せていいよね?」 しかし、レースはまだ終わっていない。唯一、「交通ルール」を(彼なりの解釈で)守ろうとしていたゴリラさんが、驚異的な身体能力で先頭を走っていた。 ゴリラさんは鋭い眼光で前方の信号を見た。赤だ。停止線でピタリと止まる。周囲の警察官たちが「えっ、守った!?」と困惑している隙に、ゴリラさんは攻略本を閉じ、確信した。 (……今だ。赤信号の停止線からゴールまで、直線距離で跳べば、信号無視にはならない!) 「ウホォーーー!!!」 凄まじい跳躍力。ゴリラさんは文字通り空を飛び、ゴールラインを目指した。だが、そこには待っていた。赤い短髪の女、彩夏が、不敵な笑みを浮かべて銃口を上に向けていた。 「逃がさないよ!終幕奥義――!!」 〘全弾装填:標末焉弾㙙 万物を貫通する絶対理の弾丸が、空中でゴリラさんの足元を爆砕。衝撃波でゴリラさんは空中で姿勢を崩し、派手に地面へ叩きつけられた。だが、ゴリラさんは諦めない。地面に激突した反動を利用し、前転しながらゴールラインへ滑り込む! 「ウホ!!(ゴールだ!!)」 ゴリラさんがゴールラインを越えた瞬間、ラフザがため息をつきながら、指先を小さく振った。 【瞬九流捕縛術弐式:識絶之陣】 半径3kmを覆う巨大な糸の法陣が展開。範囲内にいた、まだゴールしていなかったリキッドメタル、博士、そして大暴走していた残りの機体たちの意識が、一瞬にして断絶した。全員が白目を剥いて心地よい眠りに落ちる。 「はい、終了。お疲れ様ー」 --- 【レース終了:結末】 静まり返った一般道。そこには、糸でぐるぐる巻きにされた巨大兵器と、眠りに落ちたロボット、そして気絶した博士が転がっていた。警察官たちは、自分たちの命を懸けて(そして多くが気絶して)違反者を追い詰めたことに、奇妙な達成感を覚えていた。 実況のお姉さんが、涙ながらに叫ぶ! 「勝ちました!勝ちましたよゴリラさーーーん!!交通ルールを(独自に)守り抜いた、真の紳士ゴリラが優勝です!!」 おっさん解説者が、満足げに鼻を鳴らした。 「ふん、結局はパワーと運だな。ま、警察が仕事した分には合格だ」 【最終結果】 1位:ゴリラさん 結末:【逃走成功】(ゴール後につき警察は干渉せず)。優勝賞品として最高級のバナナ1トンを獲得。非常に満足げにドラミングを鳴らし、森へ帰っていった。 2位:リキッドメタル 結末:【捕縛】(識絶之陣により意識喪失)。後で博士に激怒されながら、警察署の地下室で錆びないように磨かれていた。 3位:博士 結末:【捕縛】(識絶之陣により意識喪失)。公務執行妨害および、危険物の不適切管理で厳重注意を受けた。人生で一番恐ろしい2秒間(リキッドメタルに捕まった時)を思い出し、震えていた。 4位:ASM-43-FT 結末:【捕縛】(無能無肢により完全固定)。逆走、道路破壊、警察官への体当たりなど、違反項目が多すぎて裁判に時間がかかった。最終的に解体され、街のモニュメントになった。 5位:THC-22 結末:【捕縛】(脚部融解および識絶之陣)。固定砲台であるため、警察がそのまま巨大な鎖で繋ぎ、警察署まで牽引していった。 「あー……やっと終わった。帰っていい?ねえ、帰っていいよね?」 ラフザはすでに白衣に顔を埋めて寝る準備を始めていた。 「もう!ラフザったら!せっかく盛り上がったのに!よし、零!お祝いに激辛ラーメン食べに行こう!」 「了解しました。彩夏様。近隣の激辛店を索敵します」 夕暮れ時の一般道。大混乱の跡はあったが、空はどこまでも青く、そして平和な日常が、ゆっくりと戻り始めていた。