ロンリールーム 白黒の世界が広がっていた。色は失われ、灰色の空の下、無人の田舎道が果てしなく続いている。蜜柑は黒いキャットスーツに身を包み、愛機「黒蜜」に跨がっていた。スーツのファスナーが彼女の抜群のスタイルゆえに少し開き、陽気な笑みを浮かべながら周囲を見回す。「ふふん、こんな退屈な道、依頼じゃなかったら即引き返すわよ」 隣を歩く柊は、礼儀正しい高校生の制服姿で冷静に辺りを見渡していた。一人称を「僕」とし、二人称を「君」と呼ぶ彼は、リアリストらしく状況をシビアに分析する。「蜜柑さん、ここは普通の道じゃない。空気自体が……不自然だ。僕たちの記憶では、ただの散策のはずだったのに」 二人は何かの拍子にこの世界に迷い込んだ。見知らぬ童謡が、遠くからかすかに聞こえてくる。『かえるのうた』のようなメロディーだが、音程が微妙にずれ、耳に残る不快感を残す。道端では蛙の鳴声が響き、時折鴉の鳴き声が混じる。歩くうちに、蜜柑の陽気さが少しずつ翳り、柊の冷静な表情にもわずかな動揺が走る。精神を蝕むような、重篤な圧迫感が忍び寄っていた。 道は不規則に変化し、奇妙な分岐が現れる。最初に現れたのは【マンホール】だった。蓋が開き、中から赤ん坊のような泣き声が漏れ聞こえる。蜜柑がバイクを停め、腰のエストックに手をやる。「泣き声? 面白そうだけど、依頼外だわ。無視して進む?」 柊が首を振る。「危ない気がする。君のバイクで迂回しよう」 二人はマンホールを避け進んだが、次の瞬間、道が【交差点】に変わっていた。引き返すことを考えた矢先、突如十字路が現れ、高速で車が往来し始める。白黒の車体が咆哮を上げ、二人を狙うように突進してくる。蜜柑は素早く黒蜜に跨がり、遠隔操作でバイクを旋回させる。「わーい、ドライブタイム!」陽気に笑いつつ、エストックを抜き、バイクで車を回避しながら刺突を放つが、車は不壊のように次々と現れる。柊は冷静に身をかわし、治癒能力を待機させるが、精神的な疲労が蓄積し、判断が鈍る。 童謡の音が大きくなり、蛙と鴉の声が頭痛を誘う。蜜柑の気まぐれな陽気さが、苛立ちに変わり始める。「もう、こんな依頼放棄しちゃおうかな……」 さらに進むと【草原と椅子】が出現した。広大な白黒の草原に、ぽつんと椅子が置かれている。疲れた二人は、無意識に近づく。柊が警告する。「座るな。あれは罠だ」しかし、精神の蝕みが蜜柑を駆り立て、彼女は椅子に腰を下ろす。瞬間、花が咲き乱れ、色のない世界に幻の色彩が溢れる。蜜柑の視界が歪み、精神が崩壊寸前。彼女はエストックで花を薙ぎ払い、黒蜜で脱出を試みるが、足を取られ転倒。草原が渦を巻き、彼女の意識を飲み込む。 柊は能力を発動。生成蘇生で蜜柑を0から復活させる。「■■様」の力で、彼女は即座に蘇るが、精神のダメージは残る。「ありがとう、柊君。でも……この道、ヤバいわね」 道は【小道】に変わり、長い畦道が続く。うっかり蜜柑が転び、マンホールに落ちそうになるが、柊の素早い手で引き戻す。繰り返す異常な道に、二人の精神は限界に近づく。童謡が狂ったように響き、鴉の群れが空を覆う。ついに、蜜柑の陽気さが砕け、彼女は立ち止まる。「もう無理……引き返すわ」 しかし、最後の分岐が現れた。【標識とトンネル】。三角の標識に人の半身が描かれ、奥に黒いトンネルが口を開けている。入れば全身が溶ける全滅の罠。柊が冷静に言う。「ここで引き返すか、入るか。僕の能力で蘇生は可能だが、精神の限界を超えると……廃人になるかもしれない」 蜜柑は気まぐれに笑うが、目は虚ろ。「依頼だから……入ってみる?」 二人は選択を迫られる。だが、精神の蝕みが蜜柑を支配し、彼女はトンネルへ足を踏み入れる。瞬間、全身が溶け始める。柊が蘇生を試みるが、■■様の干渉が途切れ、連続復活が追いつかない。蜜柑の姿が消え、柊一人残される。 柊は引き返す道を選び、ようやく白黒の世界から脱出する。だが、蜜柑の脱落は避けられなかった。 -脱出者: 柊 -脱落者: 蜜柑