【喫茶店Dallasでバトル】ライムちゃん vs 残忍星人 夕暮れどきの喫茶店「Dallas」。窓の外では一番星が瞬きはじめ、店内では緑髪ツインテールのメイド、ライムちゃんが、虹色のペンをエプロンに差してスマホゲームを遊んでいた。 「イベント周回、あと一回……にゃー。あっ、喫茶店の床に宇宙船が着陸した音がする!」 実際、轟音とともに店の前へ宇宙船が降り立った。ドアを蹴破って現れたのは、身長三メートル、タコのような頭部を持つ宇宙人。片手には、長射程で連射可能な光線銃。 「我は残忍星人。次はこの星を滅ぼす」 「いらっしゃいませ。ご注文は?」と、頭に魚を載せた三毛猫の店主、マスターDが、丸眼鏡をくいっと上げた。 「滅ぼすと言った」 「では、滅ぼす前にコーヒーはいかがですか?」 「交渉には応じない」 「ですよね~」 その様子をカウンター席で見ていたごついおっさんが、黒革のジャケットの袖をまくった。あごひげと筋肉で、店の椅子が少し気の毒に見える。 「マスター、余興のバトルとして申し込みを受けるか?」 「参加費は一人一回五千円ですにゃ。ライムちゃんには三割、千五百円を渡します」 「宇宙を滅ぼす侵略者から参加費を取るな!」 「規約に書いてあります」 ライムちゃんは虹色のペンを抜き、にっこり笑った。 「いいよ! ただし、お店を壊したら弁償ね。あと、光線銃は店内で振り回さないでね。にゃん!」 「貴様を撃つ」 光線銃が火を噴いた。ライムちゃんは横へひょいと避ける。光線は背後の壁に当たる寸前、なぜか壁に描かれていた『本日は定休日』の張り紙へ吸い込まれた。 張り紙が光った。 『本日は定休日』の文字が巨大化し、光線を包み込む。 「えっ、今の張り紙、誰が貼ったんだ?」とおっさん。 「昨日の私です。閉店後にギャグ漫画を読んでたら、伏線になりました。✧(≖ ◡ ≖✿)✧」 ライムちゃんはペンを走らせ、テーブルの上に食材を描いた。虹色の線が立体になり、ぱっと湯気を立てる。 【虹のペン】 - 描いた食材:コーヒー豆の形をした巨大なマシュマロ - 効果:ぶつかると相手を傷つけず、ふわふわに包んで一瞬だけ動きを止める。コーヒーに入れると浮かぶ。 - 描いた食材:ナポリタン味の長いロールケーキ - 効果:床に置くとギャグ漫画のバナナの皮のように滑る。転んでもケチャップの文字で「セーフ」と表示される。 - 描いた食材:プリン型のパンケーキ - 効果:ひっくり返すと、直前の攻撃をそっくりそのまま跳ね返す。ただし、跳ね返るのは攻撃の勢いだけで、相手の体に傷はつかない。 ライムちゃんが巨大マシュマロを投げる。残忍星人は光線銃を連射したが、弾はマシュマロに吸い込まれて「ぽふ、ぽふ、ぽふ」と小さな音になった。 マシュマロは宇宙人の腕にぺたりとくっつく。 「何だこれは! 我の肉体には傷一つつかぬ!」 「うん。知ってるよ」 ライムちゃんの笑顔から、ふっと冗談の色が消えた。 「あなたの体は、激レア金属ハブタエモチ製の武器で攻撃しない限り、絶対に傷つかない。ギャグでも、奇跡でも、その条件は変わらないんだよね」 残忍星人の肉体は、どんな攻撃を受けても傷つかない。地球にハブタエモチがあるはずもない。しかも、それが存在するのは遠く離れたアバロ銀河の惑星ボルボスだけ。周辺宙域には一族の警戒区域と防衛線まである。 つまり、普通に戦って倒すのは不可能だった。 「ライムちゃん、ここは一旦退くべきじゃないか」おっさんが言った。 「そうですね。倒せない相手に無理な攻撃を続けるのは、喫茶店の備品にもよくないです」 マスターDが、魚を頭に載せたまま創造神プリンターを起動した。 「俺ならプリンターで超巨大ビル作って頭上にドカーンだけどな~」 「やめろ! それは余興じゃなくて災害だ!」 おっさんがマスターDのプリンター用紙を取り上げる。マスターDは「ちぇっ」と肩をすくめた。 ライムちゃんはスマホを取り出し、宇宙船の通信周波数を探った。ゲームの攻略情報を調べるとき鍛えた検索力で、残忍星人の船に残る航路ログを発見する。 「ボルボスへの経路、記録されてる。防衛線を突破して採掘するのは大変そうだけど……勝つために必要なのは、ハブタエモチで作られた武器。なら、取りに行くしかないね」 「貴様らがボルボスへ到達することはない」 残忍星人は銃口を向けた。ライムちゃんはナポリタン味のロールケーキを床へ転がす。 残忍星人が一歩踏み出す。 つるっ。 宇宙人は派手に滑った。だが、転んだ体には傷一つない。ケチャップで床に「セーフ」と書かれている。 「……屈辱だ」 「ケガがなくてよかったね。にゃー!」 ライムちゃんは隙を作ると、マスターDのプリンターで出力された避難用宇宙船へ、おっさんと店主を誘導した。プリンターは超巨大ビルの代わりに、まともなサイズの宇宙船を印刷していた。 「最初からそれを出せ!」とおっさん。 「ビルのほうがロマンがあるにゃ」 「ロマンで店を潰すな!」 喫茶店を守るため、そしてハブタエモチを得るため、一行は宇宙へ飛び立った。旅の途中、残忍星人は何度も追撃してきた。光線は宇宙船の窓に当たるたび、ライムちゃんが描いたプリン型パンケーキに弾かれ、宇宙空間へ逸れていく。 「パンケーキの防御力、宇宙規模!」 「食べ物を盾にするな!」 長い航海の末、アバロ銀河の惑星ボルボスへ到着。周辺宙域には残忍星人の一族が築いた防衛線が広がっていた。 警備兵たちは、飛来する一行を見て武器を構えた。しかし、ライムちゃんは喫茶店の制服姿のまま、虹のペンで『予約済み・採掘体験コース』と描いたチケットを掲げる。 「ええと、観光客です! 採掘体験の予約をしてきました!」 「そんな予約はない!」 「じゃあ今ここで予約しました。支払いは五千円です」 「宇宙でもその値段なのか!」とおっさん。 なんやかんやの末、ボルボスの採掘管理者は、残忍星人の一族が星々を滅ぼしている事実を知り、採掘を許可した。ライムちゃんたちは、厳重な手続きのもと、必要最小限のハブタエモチを手に入れる。 それを加工して、ライムちゃん専用の小さな剣が完成した。 「これで、やっとあなたの肉体に傷をつけられる。でも――」ライムちゃんは剣を構えた。「星を滅ぼすのは止める。けど、必要以上に痛い目に遭わせるつもりはないよ」 残忍星人は返事の代わりに光線銃を乱射した。 ライムちゃんは、終盤の切り札を発動する。 「猫耳メイド姿に変身!」 猫耳としっぽがぴょこんと現れ、ギャグ補正が強化された。ライムちゃんは巨大なコーヒーカップを描いて実体化させる。 「さあ、回転サービス開始にゃん!」 残忍星人はハブタエモチ製の剣で傷を受け、ついに戦闘不能となった。ライムちゃんは相手を巨大コーヒーカップに乗せ、超高速回転させる。カップは喫茶店のドアをくぐり、店外へ一直線に飛び出した。 びゅるるるるるる――ぽーん! 残忍星人は夜空へ飛ばされ、星を滅ぼす力を失った。宇宙船は無力化され、一族の防衛線には、ボルボスの管理者から星々への侵略を止めるよう正式な申し入れが出された。 ライムちゃんたちは無事に地球へ帰還。Dallasの店内は、壁の張り紙とケチャップの「セーフ」を除けば、ほぼ元通りだった。 おっさんは腕を組み、審判として宣言した。 「勝者、ライムちゃん! ただし、店外へ吹っ飛ばすなら事前に窓を開けておけ!」 「はーい。次から気をつけます!」 マスターDは売上帳を確認する。 「バトル参加費、五千円。ライムちゃんへの取り分、千五百円。宇宙遠征の経費は別会計にゃ」 「私の千五百円、宇宙旅行でだいぶ消えた気がする……」 「経験はプライスレスだ」 「じゃあ交通費もプライスレスにして!」 そのとき、店外の夜空に輝くお星さまが、きらきらと声を響かせた。 「星を救ったメイドさん、ありがとう🌟 でも次は、カップを飛ばす前に中身のコーヒーを飲んでね✨」 ライムちゃんは空を見上げた。 「それは盲点だった! にゃー!」 --- - 最後に被害額(円): - 店の壁の補修(光線の焦げ跡・張り紙周辺):30,000円 - テーブルと椅子の修理(転倒・振動による軽微な損傷):12,000円 - ナポリタン味ロールケーキ、マシュマロ、パンケーキの材料費:4,500円 - 巨大コーヒーカップの製作・片付け費:18,000円 - 窓・ドアの調整と清掃費:15,500円 - 被害額合計:80,000円 - 補足: 宇宙船の損失、惑星ボルボスへの往復費用、採掘費用は喫茶店の店内被害額には含めない。ライムちゃんの報酬は参加費5,000円の30%で、1,500円。