【第1日】 気がついた時、彼らは見知らぬ密林のど真ん中にいた。空を覆い尽くすほどの巨大な樹木、不気味に鳴り響く未知の生物の咆哮、そして肌にまとわりつく不快な湿気。文明の欠片もない緑の地獄である。 カジタニは即座にシーカーを起動させ、周囲の偵察を開始した。元軍人のブライアンは反射的に低い姿勢を取り、周囲を警戒する。アイシャは静かに黒鉄の剣を握りしめ、魔力の枯渇した世界で己の勘を研ぎ澄ませた。そして、状況を理解していないエンティティの少女、セラは不思議そうに辺りを見回している。 「ここはどこだ。シーカー、周囲に脱出路はあるか?」 カジタニが問いかけるが、シーカーが返すのは無機質な電子音と、どこまでも続く密林の映像だけだった。方向感覚を失わせるほどに似通った景色が四方八方へと広がっている。 "Where the hell are we... is this some kind of joke?"(ここは一体どこだ…冗談だろ?) ブライアンが震える声で呟く。彼はかつての中東での記憶がフラッシュバックし、密林の葉が擦れる音さえも銃撃音のように聞こえ、激しく動悸が激しくなった。 【第2日】 食料の確保が急務となった。アイシャは不老の肉体ゆえに飢えを感じないが、他の三人は限界が近い。カジタニはシーカーを使って上空から果実を探したが、この密林の植物の多くは猛毒を含んでいた。ある箇所に見つけた鮮やかな赤い実を、知識のないセラが口に運ぼうとしたところを、アイシャが鋭い勘で止めた。 「待ちなさい。その色は警告の色だ。この森では、美しいものは死を招く」 アイシャの言葉に、セラは「あー?」と首を傾げた。言語を持たない彼女にとって、死という概念さえも曖昧であった。 【第3日】 夜が訪れた。密林の夜は昼間とは異なる貌を見せる。闇の中から、血に飢えた捕食者たちが這い出してくる。彼らは協力して火を焚き、身を守ることにした。カジタニがサバイバルキットの火起こし器を使い、乾燥した枝を集めて篝火を囲む。 しかし、夜の静寂を切り裂いたのは、ブライアンの悲鳴だった。木の枝が折れた音に過剰反応し、パニックに陥った彼は、後退りした拍子に茂みに潜んでいた毒蛇に足を噛まれた。その蛇は、皮膚に触れただけで神経毒を流し込む猛毒種だった。 「Gah! My leg! Help me!"(がっ!足が!助けてくれ!)」 猛毒は瞬時に血管を駆け巡り、ブライアンの呼吸を浅くしていく。カジタニは応急処置を試みたが、解毒剤などあるはずもない。ブライアンは激しい痙攣を起こし、内臓が機能停止していく感覚に襲われながら、絶望の中で息を引き取った。元軍人としての経験も、この自然の残酷な毒の前では無力だった。 【第4日】 ブライアンの死体を埋葬し、残された三人は移動を開始した。精神的なショックを抱えるカジタニに対し、セラは無垢な表情で彼の服の裾を引いた。アイシャは沈痛な面持ちで、黒鉄の剣を杖代わりに歩く。 密林は彼らを拒絶していた。歩くたびに、鋭い棘を持つ植物が彼らの皮膚を切り裂く。カジタニの腕からは血が流れ、衣服は泥と血で汚れきっていた。 【第5日】 移動中、彼らは原住民の集落に遭遇した。彼らは文明を持たず、言葉すら持たない。ただ生存本能のみで動く残酷な狩人たちだった。原住民たちは、侵入者である彼らに対し、即座に木製の槍を投げつけた。 一本の槍がカジタニの肩を深く貫いた。骨が砕ける鈍い音が響き、鮮血が噴き出す。カジタニは絶叫し、地面に転がった。原住民たちが獲物を追い詰めるように距離を詰めてくる。 【第6日】 カジタニは重傷を負っていたが、彼のスキルが発動した。全治一ヶ月の重傷を一日で完治させる驚異的な再生能力。肩の穴が肉芽で埋まり、骨が接合していく。凄まじい痛みを伴うが、彼は生き延びた。 一方で、原住民たちは彼らの「能力」に興味を持った。特に、空を飛ぶセラと、不老のアイシャ。彼らは原住民に襲われながらも、アイシャが黒鉄の剣で槍を弾き、セラが翼で彼らを追い払うことで、かろうじて生存圏を確保した。 【第7日】 彼らは原住民たちに、最低限の「火の扱い方」と「効率的な狩りの方法」を教え始めた。言葉が通じないため、身振り手振りと実演による教育である。原住民たちは次第に彼らを「神の使い」のように扱い、襲撃を止めて協力的になった。これにより、彼らは安全な休息地を得た。 【第8日】 密林に猛烈な雨が降り出した。単なる雨ではない。大気を濡らすその雫には、微細な寄生虫が含まれていた。皮膚の弱い者は、この雨に打たれるだけで皮膚がただれ、炎症を起こす。 カジタニはシーカーに指示し、大きな葉を集めて雨除けを作った。しかし、不運にもセラが雨の中で遊び、その翼を濡らしてしまった。エンティティである彼女にとって、物理的なダメージは少ないが、この世界の「熱病」という概念が彼女の肉体に干渉し始めた。 【第9日】 セラが高熱にうなされた。エンティティの特性である「無限復活」は、死後の再生を意味するのであって、生存中の病理的な機能不全を完全に無効化するものではなかった。彼女の白い肌が赤く染まり、呼吸が荒くなる。 アイシャは懸命に看病したが、薬などない。セラは意識混濁の中で、失った姉の名を呼び続けた。その姿は、強大な力を持つ存在でありながら、あまりにも儚い少女のそれであった。 【第10日】 セラの熱は、ある日突然下がった。彼女の肉体が異世界の病原体を排除し、適応したのだ。しかし、その過程で彼女の精神的な疲弊は激しく、しばらくの間、翼を広げる気力を失っていた。 カジタニは、この密林に出口がないのではないかという疑念に駆られていた。どれだけ進んでも、同じような巨木と湿地が続く。 【第11日】 食料不足が深刻化した。原住民たちがもたらす肉だけでは不十分だった。カジタニはシーカーを使って、より遠方の偵察を行ったが、そこにあったのは底なしの沼地と、巨大な捕食魚が潜む川だけだった。 【第12日】 川を渡る際、悲劇が起きた。足場の悪い泥濘に足を取られたカジタニを助けようとした際、予期せぬ地滑りが起きた。土砂が彼らを飲み込み、カジタニは激しく岩に打ち付けられた。肋骨が数本折れ、肺に刺さり、口から血が溢れ出す。 【第13日】 カジタニは再び再生能力による回復を待った。しかし、今回は内臓への損傷が激しく、呼吸をするたびに肺から血が逆流する。シーカーが彼の傍らで心配そうにホバリングし、彼の声を拡声して周囲に助けを求めたが、聞こえるのは密林の嘲笑うような鳥の声だけだった。 【第14日】 カジタニの傷は塞がったが、精神的に追い詰められていた。絶え間ない死の恐怖、仲間の喪失、そして終わりのない行軍。彼は夜、うなされるようになった。 【第15日】 原住民たちが、自分たちの村を襲った正体不明の巨大生物の死骸を運んできた。それは全身に硬い甲殻を持つ、全長10メートルを超える多足類だった。アイシャはこの生物の甲殻を使い、より強固な防具と道具を作ることを提案した。 【第16日】 道具を整備し、彼らは再び北へと向かった。アイシャの勘が、この方向にわずかながらの「出口」の気配を感じ取ったためだ。しかし、その道中には、触れただけで皮膚が溶解する猛毒のキノコ群生地が広がっていた。 【第17日】 キノコの胞子が風に乗り、彼らの集団を襲った。アイシャは黒鉄の剣に宿る『重結界』を展開し、物理的な障壁で胞子を弾いた。カジタニとセラをその結界の中に保護し、毒の海を突破する。アイシャの魔力は枯渇していたが、剣に刻まれた夫の誓いだけが、彼女に力を与えていた。 【第18日】 結界の維持により、アイシャは極度の疲労に襲われた。不老の肉体であっても、精神的な消耗は避けられない。彼女は意識を失い、倒れ込んだ。 【第19日】 アイシャを担いで歩くカジタニ。彼はシーカーを先導させ、危険を事前に察知しながら一歩ずつ進む。セラは回復した翼で、上空から彼らを導いた。 【第20日】 密林の深部にて、彼らは「生きた壁」と呼ばれる、植物と動物が融合した異形の怪物に遭遇した。怪物は触手を伸ばし、カジタニの足を掴んで引きずり込もうとした。 【第21日】 セラが動いた。彼女は『Ϡ』の能力を発動し、周囲の空間そのものを歪めた。怪物の触手が空間の断絶によって切断され、断面からは緑色の粘液が大量に噴出した。残酷な切断音と共に、怪物は絶叫し、崩壊した。 【第22日】 戦いの後、彼らは小さな泉を見つけた。水は澄んでいたが、そこには目に見えない寄生虫が潜んでいた。カジタニはシーカーのセンサーで水質の異常を検知し、飲用を禁止した。彼らは雨水を溜めて生き延びるしかなかった。 【第23日】 原住民たちが彼らに別れを告げにやってきた。彼らはカジタニたちが教えた文明の片鱗を胸に、自分たちの領土を守る道を選んだ。彼らは感謝の印として、密林で最も鋭い牙を持つ獣の牙を贈った。 【第24日】 再び、激しい嵐が襲った。今回は風が猛烈で、巨木が次々となぎ倒される。運悪く、巨大な幹がカジタニの上から落下した。 【第25日】 カジタニの下半身は完全に潰れていた。骨は粉砕され、筋肉は潰れ、血と肉が混ざり合って地面に張り付いていた。内臓の一部が圧迫され、激しい腹痛と嘔吐に襲われる。絶叫さえ出ないほどの激痛の中、彼はただ空を見上げていた。 【第26日】 再生能力が作動する。しかし、潰された範囲があまりに広く、再生の過程で神経が誤って接続され、激しい幻肢痛と痙攣が彼を襲った。彼は精神的に崩壊寸前だったが、セラがその手を握り、「あー、うー」と静かに声をかけた。 【第27日】 アイシャが再び立ち上がった。彼女はカジタニの精神状態を案じ、かつての英雄としての威厳を持って彼を励ました。「生きなさい。絶望に屈することは、死よりも残酷なことよ」 【第28日】 彼らはついに、密林の木々がまばらになる場所へとたどり着いた。そこは、出口へと続く唯一の細い道だった。しかし、その道は猛毒の霧に包まれていた。 【第29日】 霧の中を進む。毒は肺を焼き、視界を奪う。カジタニは再生能力で肺の損傷を補いながら、前進を続けた。アイシャは結界を張り、セラは翼で風を起こして霧を散らそうと試みた。 【第30日】 霧を抜けた瞬間、目の前に広がっていたのは、どこまでも続く穏やかな、黄金色の草原だった。密林の陰鬱な緑とは対照的な、光に満ちた世界。彼らはついに地獄を脱出したのだ。 彼らは互いに言葉を交わさず、ただその光の中に身を投げ出した。失ったものはあまりに多かったが、生き残った彼らの瞳には、生への強い執着と、かすかな希望が宿っていた。 * 【最終結果】 ■生存者 ・カジタニ&シーカー ・アイシャ・ルーヴェン ・セラ ■死亡者 ・ブライアン・ヘイズ(猛毒蛇による中毒死) 【サバイバル貢献度】 カジタニ:75(再生能力による粘り強さとシーカーによる偵察・警戒が生存の鍵となった) アイシャ:90(結界による防御、知識、そして精神的な支柱としてグループを導いた) セラ:85(圧倒的な火力と空間操作により、致命的な局面での突破口を開いた) ブライアン:10(軍事知識を活かす前に死亡し、貢献は限定的であった) 【身体状況】 カジタニ:肉体的には完治しているが、繰り返された致命傷による精神的な外傷(PTSD)と、神経誤接続による時折の激しい痙攣が残っている。シーカーはジャンク修復により稼働しているが、外装に激しい摩耗がある。 アイシャ:不老のため肉体的変化はないが、魔力の枯渇が極限まで進み、精神的な疲労が蓄積している。黒鉄の剣は至る所で欠け、ボロボロの状態。 セラ:異世界の病への適応を完了し、肉体的には健常。ただし、人間社会の概念を学ぼうとする過程で、精神的な成長(混乱)が見られる。