【狂乱の一般道レース:法と混沌の5km】 第一章:開幕宣言と奇天烈な出走機体 快晴。しかし、空気は張り詰めていた。全長5kmの一般道路。そこには信号があり、コンビニがあり、買い物帰りの主婦や会社員が普通に歩いている。そんな日常の風景の中に、場違いすぎる面々が集結していた。 実況席には、テンションが限界突破しているハイテンションお姉さんと、タバコをふかしながら不機嫌そうに座る中年おっさんが陣取っている。 「さあさあ始まりましたーっ!!ルールは簡単!交通ルールを守って完走すれば勝ち!でも、ルールを破れば警察が全力で捕まえます!ハイ、ルール破り禁止ー!あ、でも妨害はOKです!カオスですねー!!」 「……ったく、どこのどいつが考えたレースだ。一般道でレースだぁ? 信号待ちでイライラして暴走した奴から順に、あいつらにボコられるってことだろ。地獄だな」 コース脇には、文字通り「所狭し」と警察官たちが並んでいた。彼らの目は血走っており、違反者を捕縛するためなら盾で轢かれようが、壁に激突しようが構わないという「絶命覚悟」の気概に満ちている。 そして、その警察陣営の最前線に立つのが、特殊部隊《ж》の二人だ。 愛羅は紺色のメッシュが入った黒髪を揺らし、背中にギターケースを背負って、ふんわりと微笑んでいる。しかしその指先は、ケースの中の特製銃へと静かに添えられていた。 「ふふっ、皆さん、ルールは守ってくださいね? 守れない方は……私が『優しく』お眠りさせてあげますから」 隣では、ダボダボの白衣を羽織った白髪の女性、ラフザがひどいクマを作って欠伸をしていた。丸眼鏡の奥の目は死んでいるが、指先の間には目に見えないほど細い、しかし鋼鉄よりも強靭な糸が張り巡らされている。 「あー……早く終わらせて寝たい。違反者が出たら、一瞬で縛り上げて処理しますよ。効率的にね……」 一方、参加者たちは意気込み十分(あるいは困惑気味)に並んでいた。 ソフィアは白金色の髪をなびかせ、琥珀色の瞳を輝かせていた。 「ルールを守って正々堂々と勝利します! 私の歯車の回転、見ていてくださいね!」 フィエス・フォートは、紅蓮色の三編みを震わせ、小柄な体を縮こまらせていた。 「こ、来ないで……! 私はただ、完走したいだけなの……。でも、もし誰かが私を突き飛ばしたら……ガマンできなくなっちゃう……っ!」 藤村 銀は、銀色の瞳で冷静にコースを見据えていた。 「ぼくは……ただ静かに走り抜けるだけだ。邪魔をするなら、神だろうが誰だろうが斬るよ」 そして、最後の一人。なぜかここに呼ばれた「全てに愛される一般人」である。 「えっ!? なんで俺がここに!? しかもこの乗り物、何!? 誰か説明してくれー!!」 運営側が彼に用意した機体は、【黄金に輝く超豪華・自動運転・ティーカップ型リクライニングチェア】であった。座席には紅茶とスコーンが完備されており、本人の意思に関わらず「最も安全で快適なルート」を自動で走行するという、レースへの意欲を完全に殺す奇天烈な機体である。 「それでは、準備はいいですかーーっ!! 信号が変わればスタート!! 3……2……1……青!! 行ってらっしゃーい!!!」 --- 第二章:混沌の5km、法と暴力のランデブー スタートと同時に、ソフィアが歯車の推進力で鋭く飛び出した。ギア2でバランスを取りながら、軽やかに一般車の間をすり抜ける。 「まずは先行して、リズムを作ります!」 その後ろから、紅蓮の炎を噴き出す斧を推進器代わりにしたフィエスが、絶叫と共に加速する。 「ひぃいっ! 速い! 速すぎますー!!」 藤村 銀は、神刀・滅殺を鞘に入れたまま、驚異的な身体能力でアスファルトを蹴った。彼女の動きには一切の無駄がなく、最短ルートを直線的に突き進む。 そして、最後尾。一般人は黄金のティーカップに深く腰掛け、「うわぁぁぁ! 勝手に動いてるー! 怖いー!!」と叫びながら、なぜか完璧な車間距離を保って時速40kmで巡航し始めていた。 レース開始から1km地点。最初の関門、信号機が現れた。 ソフィアはきっちり停止線で止まった。しかし、後ろから来たフィエスが、焦りと恐怖でブレーキを掛け損ねる。 「あぁっ! 止まれないーー!!」 ガシャアァァン!! フィエスの紅蓮の斧が、ソフィアの背後を直撃。ソフィアは前方に弾き飛ばされ、停止線を大幅に越えて交差点に突っ込んだ。 「あーっ!! ソフィア選手、停止線突破! 交通違反です!!」 「おいおい、いきなりかよ。警察の出番だな!」 道端に潜んでいた一般警察官たちが、狂ったように叫んで飛び出した。「違反者だ! 捕まえろ!!」 ソフィアは慌ててギア1に切り替え、手数で警察官をいなそうとする。「すみません! 押されたんです!!」 しかし、そこへ《ж》の愛羅が、静かにギターケースから銃を取り出した。 「あらあら。ルール違反はダメですよ」 ドンッ! 愛羅が放った【魔弾:能力封じ】がソフィアの足元に着弾。瞬間的に能力封じの空間が展開され、ソフィアの歯車がガタガタと停止した。 「えっ!? 動かない!? ギアが……!」 「はい、捕獲。お疲れ様でした」 愛羅の冷徹な微笑みに、一般警察官たちが一斉にソフィアに襲いかかり、手錠をガチャンと掛けた。ソフィアは「私は被害者ですー!」と叫びながら連行されていった。 一方、フィエスは激昂していた。ソフィアを弾き飛ばした罪悪感と、警察官たちが自分にも向けた鋭い視線に、彼女のスイッチが入った。 「……も、もういいっ!! 来ないで!! ガマンできなくなったーーー!!」 バーサークシフト発動。フィエスは紅蓮の炎を全開にし、あえて逆走を始めて警察を挑発した。道端の警察官たちが絶望覚悟で彼女に飛びかかるが、フィエスの【アヴェンジレイジ】が炸裂する。連続攻撃で警察官たちを次々と吹き飛ばし、炎の嵐となって突き進む。 「あははは! 止まれない! 止まりたくないーー!!」 それを眺めていたラフザが、面倒そうに溜息をついた。 「あー……うるさい。静かにしてください」 ラフザが指をわずかに弾く。その瞬間、コース全域に【瞬九流捕縛術弐式:識絶之陣】が展開された。直径3kmに及ぶ不可視の糸の法陣。その範囲内にいたフィエスが、突然、意識を完全に断絶された。 「え……?」 白目を剥いてガクンと膝をつくフィエス。そのまま、待ち構えていた警察官たちが彼女にダイブし、大量の拘束帯でぐるぐる巻きにした。フィエスは意識がないまま、芋虫のように運ばれていった。 残るは藤村 銀と、一般人だけとなった。 銀は冷静に、しかし内心では呆れていた。(……なんてひどいレースなんだ。警察の方が参加者より凶暴じゃないか?) 彼女は一切の違反をせず、歩行者に道を譲り、信号を完璧に守って進む。しかし、そこへ運営が仕掛けた「妨害」が入った。突然、路面に巨大な穴が出現し、進路が断たれたのだ。 「……面倒だな」 銀は神刀・滅殺を抜き放った。空中で一閃。【天照】。眩い光と共に穴を埋めるほどの衝撃波を放ち、道を強引に作り出す。しかし、これは「道路破壊罪」に該当した。 「違反だーーー!!」 警察官たちが一斉に叫び、銀に向かって特攻を仕掛ける。銀は冷徹に刀を構え、「ぼくは……あなたを斬る」と呟いた。 だが、そこへ愛羅が再び姿を現す。 「銀さん、いい加減にしましょうか」 愛羅が放ったのは【魔弾:絶対命中】。因果律を逆転させ、命中という結末から過程を導き出す弾丸。銀はそれを察知し、「神封じ」で反応しようとしたが、この弾丸は「能力」ではなく「確定した未来」として飛んでくる。 キンッ!! 弾丸は銀の刀の鍔に当たり、彼女の手から刀を弾き飛ばした。直接的なダメージはないが、武器を失い、同時に能力封じの弾丸が周囲に展開された。 「あ……」 銀が呆然とした瞬間、警察官たちが文字通り「波」のように彼女に押し寄せた。銀はもがいたが、あまりの物量に押し潰され、捕縛された。 さて、ここで実況のお姉さんが絶叫する。 「現在、生存者は……お一人!! 全てに愛される一般人さーーーん!!」 「おい、あいつ、まだ走ってんのか?」 コースの終盤。一般人は相変わらず黄金のティーカップに揺られていた。 「うわぁ、なんだか後ろで爆発とか叫び声が聞こえるなー。怖いなぁ。あ、見て、あそこの看板、美味しそうなケーキ屋さんだ!」 彼は完全にレースであることを忘れていた。ティーカップは自動運転で、歩行者がいれば丁寧に停止し、信号が赤になれば、まるで熟練のドライバーのように静かに待機する。警察官たちは彼を見て、「……あいつ、完璧にルール守ってるな」と、呆れて手を出すことができなかった。 さらに、彼が曲がり角でうっかり速度を出しすぎそうになった瞬間、不思議な幸運が働き、ちょうど通りかかった清掃車の速度が落ち、絶妙なブレーキタイミングが誘発された。結果として、彼は一度も速度制限を超えることなく、完璧な交通ルール遵守を達成していた。 「ん、もうゴールかな? ティーカップさんが止まったぞ」 一般人がふと気づくと、そこにはゴールラインが引かれていた。後方からは、捕縛された参加者たちを連行する警察のパトカーの列が、長い行列となって続いていた。 --- 第三章:結末と順位 ゴール地点には、疲れ果てた実況のお姉さんと、タバコを全部吸い切ったおっさんがいた。 「というわけでーーっ!! 優勝は、全くやる気がなかった一般人さーーーん!! おめでとうございまーーす!!」 「……ありえねぇ。あいつ、寝てたんじゃねーのか?」 ゴール後の参加者には警察は干渉しないルールであるため、一般人は悠々とティーカップから降りた。 一方、捕縛された面々は、警察署の待機室に集められていた。 ソフィアは真っ青な顔で反省していた。 「反省しています……。でも、本当に押されたんです! 次はギア3で防御を固めて走ります……」 フィエスは、拘束を解かれた後、隅っこで丸まって震えていた。 「もう……もうお外に出たくない……。警察の人たち、目が怖かった……」 藤村 銀は、静かに天井を見上げていた。 「……負けた。まさか、ルールを完璧に守るという『最強の盾』に、僕の刀は通用しなかったということか」 そして、《ж》の二人。 愛羅は満足そうにギターケースを閉じ、ふんわりと微笑んでいた。 「ふふっ、皆さんいい経験になりましたね。ルールを守ることは、人生においてとても大切なことなんですよ」 ラフザは、すでに待機室の椅子で丸くなって爆睡していた。彼女にとって、このレースの最大の勝利は「早く仕事が終わって寝られたこと」だった。 一般人は、優勝賞品として贈られた「豪華ケーキセット」を頬張りながら、不思議そうに空を眺めていた。 「……っていうか、俺、なんでここにいたんだっけ?」 彼は全てを忘れ、ただただ甘いケーキの味に幸せを感じていた。混沌とした5kmの道のりは、彼にとって心地よい昼寝の時間に過ぎなかったのである。 【最終結果】 1位:全てに愛される一般人【逃走成功(ルール遵守)】 2位:藤村 銀【捕縛】(道路破壊罪・公務執行妨害) 3位:フィエス・フォート【捕縛】(危険運転・公務執行妨害) 4位:ソフィア【捕縛】(停止線突破・交通違反) 物語は、夕暮れ時の穏やかな街並みに、パトカーのサイレンが遠く響き渡る中で、静かに幕を閉じた。