謎の洞窟、その最奥。そこは地獄の縮図であった。足下を流れるのは煮えたぎるマグマの河。空気を焼き尽くすほどの熱波と、硫黄の臭いが立ち込める溶岩地帯。その中心に、彼はいた。 橙色の皮膚、天を突く二本の巨大な角。不老不死の最強生物、元魔族の王――エスターク。 「グゴゴゴゴ…誰だ?我が眠りをさまたげる者は?」 地響きのような声が洞窟全体を震わせる。エスタークがゆっくりとその巨体を起こした瞬間、周囲の重圧が跳ね上がり、並の生命体であれば呼吸すらままならない圧殺感に襲われる。彼は記憶を失っているというが、その肉体に刻まれた「最強」の証明は、ただそこに在るだけで絶対的な絶望を振りまいていた。 対峙するのは、異様な顔ぶれの集団。掌サイズの精霊龍皇ファヵムァ・レム、銀色のヘタレ・ヘタスラ、一般人の山田、概念的なYESorNO、不気味な元サーカス主役、ゲーム狂のアンドロイド・ファミゴン、そして不屈のデュラハン・ランチェスター卿。 「ボクがこの状況を楽しくしてあげるよ!」レムが快活に叫ぶ。しかし、戦いの火蓋を切ったのはエスタークだった。 【戦闘開始】 エスタークの身体から、黄金の障壁が展開される。【マホカンタ】。魔法攻撃を一切受け付けず、跳ね返す絶対の拒絶。さらに彼は、地を這うような速度で剣を振り上げた。 「私を滅ぼす為にやって来たのか?……さあ、来るがよいっ!」 【帝王の怒り】! 巨大な剣が溶岩の地面に叩きつけられる。凄まじい衝撃波と共に、大地が裂け、爆炎が柱となって突き上げた。広範囲を飲み込む炎に、ヘタスラが悲鳴を上げて逃げ惑う。しかし、その「ヘタレ心」が奇跡的に確定的な攻撃をすり抜けさせ、彼は辛うじて生存した。 「ふふ、面白い。コピーさせてもらおうか」 元サーカス主役が冷酷に笑い、【バイナリースター】を放つ。星状の魔力弾と三日月状の斬撃がエスタークを襲うが、エスタークは眉一つ動かさない。雷と即死への完全耐性を持ち、さらに強靭な肉体を誇る彼にとって、小規模な爆発は心地よい刺激に過ぎない。 「僕の番だね!RPGモード、召喚!」 ファミゴンがカセットを装填し、LvMAXの戦士、僧侶、魔法使いを召喚する。しかし、魔法使いが放った極大呪文はマホカンタに弾かれ、逆に自分たちに降りかかるという惨状に。さらにエスタークは、不気味な沈黙の後、深く息を吸い込んだ。【息を吸い込む】。周囲の空気が吸い込まれ、真空状態に近い圧力が生まれる。 「消えろ」 【地獄の業火】! 口から放たれたのは、すべてを灰にする灼熱のブレス。洞窟の壁がドロドロに溶け、召喚された勇者たちが一瞬で蒸発する。逃げ遅れた山田が社会的に死ぬ間もなく、熱波が彼を襲う。しかし、山田の「認識」がエスタークを捉えていた。だが、社会的に死ぬことが意味を持つのは人間社会のみ。魔族の王にとって、社会的信用などという概念は無価値であった。 「騎士の誇りにかけて、貴殿を討つ!」 ランチェスター卿が馬を駆り、【冥王豪滅剣】を突き出す。物理ダメージを無効とする霊体であり、金剛不壊の鎧を纏った騎士の最強の一撃。剣先がエスタークの胸に届く。しかし、エスタークはそれを片腕で受け止めた。鋼の肉体が火花を散らし、衝撃波が周囲を薙ぎ払う。 「…ぬぅ、心地よい一撃だ」 エスタークは不敵に笑うと、間髪入れずに【いてつくはどう】を放った。レムのバフやランチェスターの強化が、白い衝撃波と共に霧散する。 混乱する一行。そこへ、YESorNOが静かに問いかける。 「YESか、NOか」 エスタークの意識に直接干渉する概念攻撃。本来なら答え終わるまで身動きができないはずの拘束技。しかし、エスタークは記憶を失っている。善か悪かさえ分からぬ彼にとって、二択の問いなど意味をなさない。彼は答えず、ただ本能的に拳を突き出した。 「グガガッ!」 【ギガブレイク】! 剣に雷を纏わせた斬撃がYESorNOを真っ二つに切り裂く。雷耐性を持つエスタークにとって、雷を纏うことは呼吸と同じ。回答を待たず、概念ごと斬り伏せた。 絶望的な状況の中、レムが【龍人変化】を遂げ、神速の突撃『龍気の奔流』を仕掛ける。光速に近い速度でエスタークの懐に潜り込み、その小さな体に似合わぬ絶大な衝撃を叩き込む。エスタークの巨体がわずかに後退した。 「効いたか!?」 しかし、エスタークの特性【自動回復】が即座に作動し、傷口が塞がる。さらに彼は、瞑想に入った。 「…眠い。だが、目覚めよ」 【目覚めの力】発動。 エスタークが深い瞑想から覚醒した瞬間、周囲の溶岩が逆流し、空が赤黒く染まった。両手の剣に地獄の業火を纏わせ、それを空高くへ投げ飛ばす。その瞬間、世界が静止した。 ドォォォォォォン!! 巨大なX字の斬撃が戦場を分断し、地殻変動さえ引き起こす大爆発が起こる。爆炎が晴れた後、そこには静かに佇むエスタークの姿だけが残っていた。 レムは衝撃で壁に叩きつけられ、ファミゴンは残機を使い果たし、ランチェスター卿は鎧を砕かれて膝をついた。ヘタスラだけが、恐怖のあまりに「完璧に」回避し続け、震えながら隅にうずくまっていた。 「…我が名はエスターク。記憶はなくとも、この力が我が正体よ」 最強の生物は、静かに剣を構えた。もはや戦いではなかった。それは、抗いようのない自然災害に飲み込まれるのと同義であった。絶望の炎が、再び洞窟を包み込む。