静寂に包まれた荒野。そこに、対照的な二人の少女が対峙していた。 一人は、白装束に身を包み、指には古めかしい指輪を嵌めた小柄な少女、レクト・ファム。彼女はわざとらしく片手で顔を半分隠し、不敵な笑みを浮かべていた。 「フゥン……成程。貴様がこの地に棲まう『猛獣』か。実に興味深い。この私という絶望を前に、どのような絶望的な顔をするか見ものだね」 対するは、身の丈ほどもある巨大な大剣『天崩』を肩に担いだ少女、四十九日七日。彼女の瞳には、獲物を前にした肉食獣のような歓喜が宿っていた。 「いい顔してるね。小さいけど、いい『圧』がある。壊し甲斐がありそうだ」 先手を打ったのは七日だった。地面を蹴った瞬間、衝撃波で大地が爆ぜる。マッハの速度で肉薄し、天崩の一撃がレクトの頭上に振り下ろされた。 「ハハン! 遅いな!」 レクトは慌てて懐から使い捨ての魔道具『瞬間転移の破片』を投げつけ、煙と共に数メートル後方へ回避する。間一髪だったが、天崩が切り裂いた空気の刃がレクトの白装束の裾をわずかに切り裂いた。 「チッ……! 予想外に速いな。だが、計算通りだ」 実際は心臓が飛び出るほどに驚いていたが、レクトは不敵に言い放つ。彼女は『原初の魔導書レプリカ』を開き、適当にページをめくった。 「出でよ、深淵の枷! 空間拘束(バインド・ヴォイド)!」 レクトが放ったのは、魔導書にある記述を適当に解釈して再現した、不完全な重力魔法。しかし、彼女の潜在的な魔力量がそれを強引に押し上げ、周囲の空間がどろりと歪み、七日の足を地面に縫い付けようとする。 「へぇ、面白い。でも、これならどうだ!」 七日はスキル『生滅流転』を発動。自分に襲いかかる『重力という不可視の圧力』に仮想の耐久度を付与し、それを「壁」として蹴った。本来干渉できないはずの重力場を物理的な足場に変え、七日は空中で方向転換し、さらに加速してレクトへと突き進む。 「なっ!? 重力を蹴っただと!?」 レクトの知ったかぶりな仮面が剥がれかける。しかし、彼女は持ち前の類稀なセンスで即座に応戦した。使い捨ての魔道具『反射の鏡面』を足元に展開。天崩の斬撃が当たった瞬間、その衝撃を斜め上へと受け流す。 「フッ……我の策に嵌まったな。上を見ろ!」 レクトが指を鳴らした瞬間、空に配置していた(適当に放り投げていた)魔力弾が降り注ぐ。 だが、七日は笑っていた。彼女は天崩を縦に一閃。降り注ぐ魔力弾という「現象」そのものを斬り裂いた。天崩の特性である『能力の副産物を切る』。魔力弾という魔法の副産物は、彼女にとって単なる斬撃対象に過ぎない。 「能力を斬る剣か……厄介な。だが、この私に不可能なことはない!」 レクトは追い詰められながらも、脳内で強引に「正解」を導き出そうとしていた。彼女は気づいた。七日の『生滅流転』は、触れたものに耐久度を与えることで物理干渉を可能にする。ならば、その「耐久度」自体に干渉すればいい。 レクトは魔導書の記述をさらに拡大解釈し、ある「実験的」な術式を展開した。 「事象崩落(イベント・コラプス)! 貴様が作った『偽りの強固さ』を、無に還せ!」 彼女が放ったのは、対象の硬度を強制的にゼロにする分解魔法。七日が足場にしていた空気の壁が、レクトの魔力によって一瞬で霧散した。足場を失い、一瞬だけ体勢を崩した七日。 「今だ! フィニッシュポーズと共に消え去れ! 極大魔弾・絶望の残滓!!」 レクトが指輪(魔力抑制器)をわずかに緩めた。一瞬だけ解放された膨大な魔力が、巨大な光の球となって七日を飲み込もうとする。 しかし、七日のバトルセンスはそれを上回っていた。彼女は落下しながらも、自分自身の『皮膚』に極限まで高密度の仮想耐久度を付与し、自らを「不滅の弾丸」へと変えた。光の奔流を真っ向から突き破り、レクトの目の前まで到達する。 「いい攻撃だったよ。でも、届かない!」 天崩がレクトの懐に潜り込み、その刃が彼女の右腕をかすめた。肉体的な傷は浅かったが、天崩の真価が発揮される。レクトが展開していた術式、そして一時的に解放していた魔力の流れという「能力」に損傷を与えたのだ。 「がはっ……!?」 術式が強制的に解除され、魔力の逆流がレクトを襲う。さらに、抑制器を緩めたまま能力を遮断されたことで、残っていた魔力が一気に暴走・枯渇し始めた。 レクトは白目を剥きながら、それでも最後まで格好をつけることを忘れなかった。 「フ……フフ。想定……内……だ。これで貴様の……底が見え……た……ぞ……」 そのままレクトは、派手なポーズを決めたまま、後ろにバタリと卒倒した。 静寂が戻った荒野に、七日が大剣を肩に担ぎ直して呆れたように笑う。 「あはは! 本当に最高。あんなにボロボロなのに最後まで格好つけて。気に入ったよ、クソチビちゃん」 勝負は決した。圧倒的な戦闘センスと能力の運用力で、四十九日七日が勝利を収めた。しかし、七日の瞳には、いつかこの「大天才」が本当に化ける日への、戦士としての期待が込められていた。