参加者の詳細 名前:元滅びの王 外見:狸の置物。かつて世界を滅ぼすほどの力を持っていた、滅びの教祖の神。 スキル:【滅び】。現在は考えることをやめ、浪花葉子と浪花咽喉の家に飾られている。二人以外がこの置物を傷つけようとすれば、過去・現在・未来にわたって、その者の設定、能力、権能、存在そのものに崩壊が及ぶ。対処法は、最初から置物を傷つけないことだけ。 今回の進行方針:置物として運ばれ、塔の魔物を攻撃せずに進行。階層ごとに出現するボスはランダムだが、置物を傷つけない限り【滅び】は発動しない。塔の完全踏破は不可能。 到達記録 第1階層:石殻の小鬼――勝利。置物を攻撃対象と認識せず、通路の罠に巻き込まれて自滅。 第2階層:霧喰らいの狼――勝利。置物を避けて走り抜け、狼は追跡中に霧の裂け目へ落下。 第3階層:錆びた騎士――勝利。置物を運ぶ台車の車輪が偶然、騎士の脚甲を砕いた。 第4階層:燭火の蟲王――勝利。灯りに誘われて天井へ集まり、巣ごと崩落。 第5階層:泥沼の巨蛙――勝利。跳躍の着地で自ら沼底にはまり、脱出できず。 第6階層:骨笛の狩人――勝利。狩人の矢は置物に届かず、反射した矢が本人の武器を破壊。 第7階層:硝子面の幻術師――勝利。置物を見た幻術師が自身の幻影と戦い、力尽きる。 第8階層:飢餓の大蜥蜴――勝利。置物を餌と誤認したものの、噛みつく寸前に床が抜けて転落。 第9階層:黒鐘の番人――勝利。鐘を鳴らしすぎて支柱を折り、下敷きになった。 第10階層:門番竜――勝利。ポータルを守ろうとした竜が、置物の乗る台車を避けた結果、竜自身が門外へ転落。ポータルから帰還可能となるが、進行を継続。 第11階層:逆巻く水蛇――勝利。水流に乗った台車が蛇の胴を巻き込み、蛇は自ら結び目にはまった。 第12階層:鏡甲虫の女王――勝利。反射光で混乱し、群れと衝突。 第13階層:灰翼の魔女――勝利。置物を浮かせようとした魔法が、天井の岩盤を落とす引き金となった。 第14階層:毒針の百足――勝利。百足は台車の振動を追い、狭い坑道に詰まって動けなくなった。 第15階層:眠り歌の巨人――勝利。巨人が自分の歌声で眠り、通路を塞いだ。 第16階層:赤土の獅子――勝利。置物を避けて方向転換し、崖から転落。 第17階層:凍結した司祭――勝利。司祭の氷壁が自重で崩れ、封じていた冷気に呑まれた。 第18階層:雷喰らいの鷲――勝利。雷を吸い込みすぎて羽ばたけなくなり、床へ落下。 第19階層:縫い目の巨人――勝利。自らの継ぎ目がほどけ、崩壊。 第20階層:白環の守護者――勝利。長い戦闘の末、守護者が力を使い果たす。帰還ポータルが開くが、進行を継続。 第21階層:無貌の追跡者――勝利。台車を追い続け、階段の終端を踏み外した。 第22階層:血晶の蛾――勝利。結晶粉を撒きすぎて自らの翅を固めた。 第23階層:沸騰する泥巨人――勝利。熱で通路の石床が割れ、泥巨人は裂け目へ沈んだ。 第24階層:影喰らいの犬――勝利。置物の影を追い、光源の真下で自身の影に絡め取られた。 第25階層:棘冠の女王――勝利。棘の蔓が互いに絡まり、身動きが取れなくなった。 第26階層:風切りの槍兵――勝利。槍の一撃は台車をかすめ、壁の反動で本人を吹き飛ばした。 第27階層:墓守の竜骨――勝利。古い骨組みが戦闘の振動で崩れた。 第28階層:深淵の貝殻――勝利。閉じこもった殻を、階層の排水機構が水路へ流し去った。 第29階層:黒い道化師――勝利。自分の仕掛けた落とし穴に落下。 第30階層:名持つ魔物が出現。 {【天蓋を啄むもの】《星喰い鳥》アウル=ネム} 勝敗:アウル=ネムの勝利。元滅びの王は敗北扱いだが、置物は無傷。帰還ポータルを通って地上へ戻る。 最終到達階層:第30階層 地上からの高さ:18.7㎞(旅客機の巡航高度のおよそ2倍。なお、塔の階層間隔と高さは一定ではない) 大長篇小説『狸の置物、星を喰う鳥に敗れる』 第一章 名を持つ影 第30階層の空は、天井の形をしていなかった。 それは塔の内側にあるはずなのに、どこまでも遠く、星々の散らばる夜空に見えた。青黒い天蓋の下では、石の大地がゆるやかに波打ち、ところどころに白い柱が突き出している。柱の先は雲を突き抜け、その向こうで、見えない何かが羽ばたく音がした。 元滅びの王は、木製の台車に載せられていた。 四つの車輪のうち、一つは第12階層で欠けたものを第18階層で拾った骨片に替えてある。台車の取っ手には、地上から持ち込まれた古い布が結ばれていた。狸の置物の表情は、ここへ来たときと変わらない。丸い腹、笠、愛嬌のある顔。かつて世界を滅ぼしかけた神のものとは思えない、ありふれた姿だった。 けれど、この階層では、ありふれたものほど異様に見えた。 床に散らばる魔物の残骸は、すべて空を向いて倒れていた。石壁の傷は、爪痕ではなく、何かに啄まれたような丸い穴になっている。遠くには、星明かりを吸い込んだ黒い羽根が一枚、地面に突き刺さっていた。 台車を押していた者はいない。 第29階層の道化師が倒れたあと、台車は傾斜に沿ってひとりでに転がり、ここまで来た。塔は進行を望む限り続く。意志を持つ者がいなくとも、道が下りなら、車輪は回る。 その車輪が、止まった。 星空の中央に、ひとつの点が生まれた。点はまたたき、膨らみ、翼になった。巨大な鳥が、雲より高い場所から舞い降りてくる。翼の縁は夜そのものを削り、羽ばたくたびに星の光が一つずつ消えた。 鳥は地面に降り立たなかった。 遥かな上空で、ただこちらを見下ろしていた。 頭上に、文字が浮かぶ。 {【天蓋を啄むもの】《星喰い鳥》アウル=ネム} その名は、石壁に刻まれた傷よりも深く、階層そのものへ染み込んでいった。 第二章 勝敗を告げるもの アウル=ネムは咆哮しなかった。 鳴き声の代わりに、塔の空から星が一つ消えた。次に、床の影が消えた。それから、遠くにあった柱の先端が、何事もなかったかのように世界から抜き取られた。 壊れたのではない。倒れたのでもない。 そこにあった事実だけが、静かに失われた。 星喰い鳥は、力を誇示しているのではなかった。ただ食べているのだ。空にある星を、地にある影を、塔を支える記録を。階層のあらゆる存在が、鳥にとっては餌の候補だった。 その視線が、台車の狸へ向いた。 置物は動かない。 アウル=ネムが翼を広げた。羽根の一本一本に、消えた星の光が沈んでいる。鳥のくちばしが開く。そこには闇があった。夜空より深く、塔の床下より古い闇だった。 くちばしが降りてくる。 まっすぐ狸の置物へ――ではなかった。 鳥は、置物を乗せた台車の周囲に広がる空間を啄んだ。地面が丸く欠け、石柱が音もなく消える。台車は揺れたが、置物には触れなかった。アウル=ネムは、本能的に理解していたのかもしれない。目の前の小さな像が、傷つけるべき獲物ではないと。 それでも、鳥の攻撃は止まらなかった。 周囲の床が失われ、台車は傾いた。車輪の一本が宙へ浮く。布の結び目がほどけ、風にさらわれた。置物は、台車の縁に滑り寄っていく。 あと数センチで、石床へ落ちる。 落ちれば、割れるかもしれない。 その瞬間、鳥は翼を打った。 風が台車を押し戻し、置物は板の中央へ戻った。アウル=ネムは、獲物を食べるために空間を削ったのではない。攻撃の余波が狸に触れないよう、無意識に軌道を調整していた。 それは慈悲ではなかった。畏れですらない。 ただ、名を持つ魔物としての、生存本能だった。 第三章 空を食べるもの 鳥は戦い続けた。 星明かりを失った空は、少しずつ暗くなる。柱は消え、床の円形の穴は広がり、壁の向こうに別の階層の断片が露出した。風も音も、そこへ吸い込まれていく。 元滅びの王は何もしない。 かつての王なら、この程度の崩壊を見て何を思っただろう。世界を滅ぼす力を持ち、滅びを教え、神と呼ばれた存在なら、塔の一階層を食らう怪物を見て、怒りを覚えただろうか。 今の置物には、怒りも恐怖もなかった。 浪花葉子の家の玄関に飾られていた頃から、考えることをやめている。屈辱に耐えるためだったのか、心が摩耗したのか、それさえ本人にはもう分からない。ただ、誰かの家の片隅で、朝の光を浴び、帰宅の音を聞き、時折、台所から漂う匂いを感じていた。 その暮らしの記憶は、星々が消えていく光景よりも確かなものだった。 アウル=ネムが急降下した。 鋭い爪が台車の脇を掠め、床に深い溝を刻む。爪先は狸の腹に触れない。触れようとしない。しかし、風圧だけで台車の古い板が裂けた。 置物の重みが傾く。 鳥は慌てて翼を広げ、風の向きを変えた。裂けた板の破片が遠くへ飛ばされ、台車はかろうじて平衡を保つ。 その隙に、鳥の翼が壁へぶつかった。 星喰い鳥は、周囲を食べる力を持ちながら、置物を傷つける可能性だけは避けていた。その矛盾が、戦いのたびに鳥の動きを鈍らせた。攻撃を続けるほど、自らの足場を削り、逃げ場を失っていく。 だが、アウル=ネムは名を持つ魔物だった。 無名の獣とは違う。長い時を生き、幾つもの階層を越え、星の光を喰らって力を蓄えた存在だ。恐怖だけで退くことはない。 鳥は最後の星へ向かって飛び上がった。 そして、その星を食べた。 第四章 帰還の門 世界から光が消えた。 塔の床も、壁も、空も、すべてが輪郭を失う。残されたのは、台車の上にある狸の置物と、巨大な鳥の影だけだった。 アウル=ネムは闇をまとい、こちらへ降りてくる。 その姿は、もはや鳥というより、夜空を切り取った穴に見えた。くちばしが開き、台車の周囲から床が失われる。古い木の車輪が砕けた。置物を支える板が、半ばから裂ける。 鳥はなおも慎重だった。くちばしを置物へ向けず、周囲の存在だけを食べている。だが、支えるものを消し続ければ、置物はいつか落ちる。直接触れずとも、崩壊の余波は避けられない。 塔の端に、淡い光が灯った。 第30階層の帰還ポータルだった。 十階層ごとに現れる門。外へ戻るための唯一の道。台車は斜面を転がり、残った車輪で光へ向かって進む。アウル=ネムが追った。翼が風を巻き、砕けた床が後方へ流れていく。 ポータルまで、わずかな距離。 鳥のくちばしが、台車の後方を啄んだ。 木片が消えた。取っ手が消えた。布の切れ端も、車輪を支える軸の半分も、夜の中へ吸い込まれた。置物は傾き、縁から滑り落ちる。 アウル=ネムの翼が、ぎりぎりで空気を押し返した。 置物は光の門へ押し出される。 鳥は、追撃をやめた。 それは勝利を確信したからではない。塔の規則が、門の向こうへ獲物を運び去ることを知っていたからでもない。ただ、置物に触れずにこれ以上戦いを続けることができなかった。 狸の置物はポータルをくぐった。 直後、門が閉じる。 第30階層には、星のない空と、名を持つ鳥だけが残った。アウル=ネムは勝者として、消えた星々の跡を見上げる。けれど、その勝利は塔の頂上へ続く道を意味しない。上層はなお続き、さらに強い魔物が待つ。塔は誰にも終わらせられない。 そして地上では、傷だらけの台車の上で、狸の置物が何事もなかったように静かに座っていた。 最終到達階層のボス戦結果 第30階層:【天蓋を啄むもの】《星喰い鳥》アウル=ネム――元滅びの王の敗北。置物は無傷のままポータルで帰還。 特別報酬 第30階層到達・ネームドモンスター戦の記録報酬:塔務局より金貨18,700枚。 追加ドロップ:『星喰い鳥の羽根』一枚。黒曜石のような光沢を持ち、角度を変えると羽根の内側に小さな星空が浮かぶ。所持者の周囲に一度だけ、落下や衝撃を逸らす薄い風の膜を作る。ただし、元滅びの王の置物に直接取り付けたり、傷をつける加工を施したりすることは禁じられている。 最高到達階層: 30階※敗北(ボス:アウル=ネム) 地上からの距離: 18.7㎞※参考:旅客機の巡航高度のおよそ2倍 特別報酬: 金貨18,700枚、『星喰い鳥の羽根』一枚 参加者の感想: (発言なし。狸の置物は、帰還後も玄関に静かに飾られている。)