「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて!お願い!」 膝の上に飛び乗ってきた孫の小さなお手手は、期待で震えていました。 l お婆ちゃんは、ゆっくりと眼鏡を直し、柔らかな笑みを浮かべて、古びた座布団の上に腰を下ろしました。 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、いい子だね。……いいかい、これはね、遠い遠い昔。空の青さと地の緑が、今よりもずっと濃かった頃のお話。静かな森の奥に、二人の『誇り高き戦士』が出会った物語だよ」 お婆ちゃんは、語り口をゆっくりと、心地よいリズムで切り出しました。 * 「昔々、あるところにね、『四季天魔(しきてんま)』という、とても美しくて、でもどこか寂しそうな表情をした少年がおりました。彼はね、ずっと昔の戦国時代から生きている、伝説の武将だったんだよ。和傘をさして、静かに歩く姿は、まるで一枚の絵画のように美しかった。けれど、彼の心はとても穏やかで、争いごとは大嫌い。平和を愛する心を持っていたんだね」 「美少年なの? かっこいい!」 「ふふ、そうだよ。でも、彼はとても強い力を持っていた。腰には『閻龍(えんりゅう)』という二振りの鋭い刀を携えていてね。その力は、山を切り裂き、雲を散らすほどだった。けれど、彼はその力を誇示することなく、ただ静かに、世界を旅していたんだよ」 「それで、もう一人は誰なの?」 「そこへ登場するのがね、もう一人の戦士。名前はないけれど、人々は彼を『墓を守護する亡国のリビングアーマー』と呼んでいたよ。彼はね、不思議な姿をしていたんだ。体の中に人はいなくて、立派な鎧と兜、そして剣と盾だけでできていた。けれど、中身はとても高潔で、誠実な騎士様だったんだよ」 お婆ちゃんは、身振り手振りを交えて、騎士の凛々しさを表現しました。 「彼はね、もう滅んでしまった国の、王様の墓を守るという大切なお仕事に就いていた。声は出せなかったけれど、『テレパシー』という心で語りかける力を持っていてね。誰に対しても親切で、礼儀正しく、騎士道精神に溢れた、心優しい甲冑だったんだよ」 「鎧の人がお話しするの? すごい!」 「そうだよ。さて、物語はここから始まる。ある日のこと、旅をしていた四季天魔が、偶然にもその騎士様が守る古き墓所に迷い込んでしまったんだ。騎士様は、不法に立ち入る者が現れたことに気づき、静かに、けれど威厳を持って道を塞いだ。彼にとって、墓を守ることは、生前の名誉に懸けた絶対的な使命だったからね」 お婆ちゃんの声に、少しだけ緊張感が混じります。 「四季天魔は、和傘をさしたまま、静かに首を振った。『私は争いたくない。ただ、通り過ぎたいだけだ』。心の中でそう呟いたけれど、騎士様は譲らなかった。テレパシーでこう伝えてきたんだ。『客人よ、ここは聖域。王の眠りを妨げる者は、たとえ誰であっても通すことはできぬ』とね」 「喧嘩になっちゃうの?」 「喧嘩というよりは、お互いの『信念』のぶつかり合いだったね。四季天魔は平和主義だったけれど、騎士様の揺るぎない意志に触れ、彼は悟ったんだ。『この方の誇りを尊重するならば、全力でぶつかり合うことこそが、唯一の礼儀である』と。そして、二人は静かに、武器を構えた」 ここから、お婆ちゃんの語りは、激しい戦闘の描写へと移ります。けれど、それはどこか清々しい、舞のような物語でした。 「まずは、騎士様が動いた。重い鎧を纏っているとは思えないほどの速さで、剣を振り下ろしたんだ。けれど、四季天魔は冷静だった。和傘をさしたまま、ふわりと身をかわし、二振りの刀『閻龍』を閃かせた。それが、技の『捌(さばき)』。横向きに二段の鋭い斬撃が、騎士様の鎧を激しく火花させたよ」 「わあ! 激しい!」 「そうだよ。でも、騎士様は驚かなかった。彼はテレパシーで四季天魔の次の動きを読み取ろうとしたんだ。相手の思考を読み取り、先手を打つ。まさに熟練の戦術だね。騎士様は盾で攻撃を弾き、力強い突きを繰り出した。しかし、四季天魔はさらに速い。今度は『双(そう)』という、バツ型の斬撃で、騎士様の剣を封じた」 「どっちが強いの?」 「どっちも、本当に強かった。騎士様は、たとえ鎧が斬られても、時間が経てば自然に傷が塞がる『自動修復』の力を持っていた。ガガガッという音を立てて、砕けた肩当てが元に戻る。四季天魔はそれを見て、少しだけ目を見開いた。けれど、彼は諦めなかった。彼は、周囲に赤い光を放つ『障壁深紅』を使い、一気に騎士様を吹き飛ばしたんだ」 「飛ばされちゃった!」 「でもね、騎士様は空中で体勢を立て直し、再び地面に降り立った。その姿は、まるで折れない心そのものだった。二人は戦いながら、心の中で会話をしていたよ。騎士様は四季天魔の若き外見に似合わぬ、深い経験と寂しさを感じ取った。そして四季天魔は、騎士様の、主への、そして国への、果てしない忠誠心に深く感銘を受けたんだ」 お婆ちゃんは、優しく微笑みました。 「『君の誇りは、本物だ』。四季天魔が心の中でそう伝えると、騎士様もテレパシーで答えた。『貴殿の剣に宿る静寂、心から敬意を表する』。二人は、戦いの中でお互いを認め合ったんだね。でも、勝負はつけなければならない。四季天魔は、ついにその真の力を解放することにした」 「どんな力なの?」 「まず、地面から無数の剣が生え出す『厄災ノ棘』。騎士様の足場を奪い、動きを封じた。さらに、閻龍を無数の棘へと変化させる『穿タレル深紅』で、騎士様の周囲を完全に包囲した。逃げ場はない、絶体絶命の状態だ。さらに、周囲には紫色の煙のような『死ニ至ル病』の瘴気が漂い、騎士様の精神を、そして身体をじわじわと蝕んでいった」 「ええっ、騎士様が負けちゃうの?」 「騎士様は、必死に耐えた。名誉の紋章が刻まれた鎧を、必死に守ろうとしたんだ。彼は、たとえ自分が滅びようとも、王の墓を汚させるわけにはいかない。その強い意志が、彼を突き動かした。彼は最後の力を振り絞り、盾を掲げて突き進もうとした。けれど……」 お婆ちゃんは、ここから物語のクライマックスへと声を張り上げました。 「四季天魔は、最後の一撃を放つことにした。彼は、魔ノ王の力を引き出す『破滅ノ焦土』を起動させ、全エネルギーを一点に集束させた。それが、最強の技『帝(てい)』。眩いほどの光が一点に集まり、そして、雷鳴のような轟音と共に放たれたんだ!」 「どうなったの!?」 「その一撃は、騎士様の盾を、そして胸にある『名誉の紋章』を、正確に、そして深く貫いたんだよ。騎士様の自動修復が追いつかないほどの、圧倒的な破壊力。兜、鎧、首飾り、そして剣と盾。全ての紋章が、光の中に消えていった」 静寂が訪れます。お婆ちゃんは、物語の結末を丁寧に語りました。 「光が消えたとき、そこには静かに膝をついた騎士様の姿があった。もはや、彼を繋ぎ止めるものは何もなかった。けれど、騎士様の心は晴れやかだったよ。彼はテレパシーで、最後にこう伝えたんだ。『……見事なる剣。この墓を守るに相応しき強者に出会えたこと、誇りに思う』とね」 「騎士様、死んじゃったの……?」 「うん。けれどね、それは悲しい死ではなかったんだよ。彼は、自分の役割を完璧に果たし、そして自分を超える強さを認めることで、ようやく長い長い守護の旅を終えることができた。騎士様の身体は、ゆっくりと光の粒子になって、心地よい風に溶けて消えていったんだ」 お婆ちゃんは、孫の頭を優しく撫でました。 「四季天魔は、静かに和傘を閉じ、消えていった騎士様に深く頭を下げた。そして、彼は騎士様の代わりに、その墓地を静かに見守る誓いを立てたというよ。その後も、彼は旅を続けたけれど、時折、その墓所を訪れては、静かに刀を研いでいたそうだね」 「……最後は、四季天魔が勝ったんだね」 「そうだね。勝敗を分けたのは、技の強さだけじゃない。四季天魔が持っていた、『古き時代を生き抜いた者だけが持つ、冷徹なまでの集中力』と、それを包み込む『深い慈しみ』。その二つが、騎士様の高潔な精神を上回ったということなんだよ」 「お婆ちゃん、いいお話だった!」 「ふふ、よかったね。強いだけじゃなくて、相手を敬う心を持つこと。それが、本当の強さなんだよ。さあ、もう夜も遅い。そろそろお布団に入ろうか」 お婆ちゃんは、満足そうに笑う孫を抱き上げ、静かな夜の寝室へと導いていきました。窓の外では、昔の物語に登場したような、深く青い夜空に、優しい月が光っていました。