【試合前】 薄明剣史郎は、静まり返った広場の中央に立っていた。彼の青と水色の羽織は、微かな風に揺れ、白い襦袢に隠れた黒長髪が少し妖艶に見える。彼は生まれつき目が見えないが、その存在はどこか神秘的で、周囲の観衆の期待が彼を包み込んでいた。 対するは、剣聖大山弦三郎、剣の名を守丸とする男。この場での戦闘経験が豊富な猛者は、冷静な表情のまま剣に手を添え、勝利を確信するように見えた。観衆の中には、彼の神速切りを目の当たりにした者も多いだろう。 「さあ、始めよう。」薄明剣史郎の静かな声が響く。彼の目は見えないが、心の眼で相手を見据えている。そして、一度だけ、彼は口を開いた。「ご覧の通り目は不自由ですが、必ずご満足いただける勝負を…」 その瞬間、緊張感が広場を包む。観客の拍手と声援が止み、二人の剣士に全てが集中した。 【合図を待つ】 二人は向かい合ったまま、何も言わずじっと息を潜める。周囲の雑音が徐々に遠のいていく。心地よい風が流れ、薄明剣史郎はその風の感触を頼りに、相手の心情を読み取ろうとする。剣聖大山弦三郎は、直立したまま、まるで静止したかのように見える。 「今だ。」 審判の合図が響く。 この瞬間、二人の脳内で戦火が急に燃え上がった,時間が止まったかのように思える。 【刹那の見切り】 薄明剣史郎の心眼が研ぎ澄まされ、彼は今も耳を澄ませて剣聖の動きを感じようとしていた。だが、瞬時に訪れる自分の判断とともに動かなくてはならない。それが薄明心眼流の真髄だ。 一瞬の静寂を裂くように、剣聖が彼の正面に踏み込んできた。 「神速切り!」 その声が発せられた瞬間、光速を超える切っ先が向かう。薄明剣史郎は、この第一撃に対する反撃の機会を計算していた。何も見えないが、心の中で感じる風や音、剣の構えから相手の技が見えてくる。 彼は瞬時に雷神を抜き去り、あるポイントを狙って一閃── 【決着】 薄明剣史郎が放った斬撃は、まるで影のように素早く、まっすぐに剣聖の懐へ向かっていた。流れるような速さで、彼は両手で刀を重ね持つ。 「効かぬ!」 剣聖は無情にも薄明剣史郎の斬撃を受け流すが、そこに潜む二撃目を見抜く隙はなかった。彼の神速の切りが、果たして薄明剣史郎の防御を超えられるのか?思わず息を飲む観客たち。 「薄明心眼流奥義 千手!」 刹那の後、薄明剣史郎から放たれた50の神速の斬撃が、無音の空間を切り裂いて襲いかかる。 剣聖はこの一撃を逃れることが出来ず、最後はその奥義の前に微塵切りにされてしまった。 「勝者は薄明剣史郎。」 審判の声が響き、剣聖の刀の守丸が地面に落ちる。瞬きのように一瞬の出来事だった。合図から攻撃まで、かかった時間は、275ミリ秒。 薄明剣史郎は静かな微笑を浮かべ、目には見えないが、確かにその勝利を心に刻むのであった。