秋の陽光が、東洋の深い山々を黄金色に染め上げていた。紅葉が燃えるように色づく中、人里離れた峻険な崖の上に、ひっそりと佇む老舗旅館がある。名は「栄愛之湯」。古き良き趣を残すその宿は、世俗を離れたい旅人や、心身を癒やしたい猛者たちが密かに訪れる隠れ家であった。 チームAのジットは、得意の跳躍と【風の魔眼】による滑空を駆使し、山々の絶景を堪能しながら空から舞い降りた。「うおー!見てくれよピッキー、この景色!最高じゃん!」 「はいはい、景色に酔いしれてる暇があるなら早くチェックインしろよ、このお調子者な猿!」 隣で毒づくのは、リスのピッキーだ。彼は木々の枝から枝へと軽快に飛び移り、時折道端の木の実を口に放り込みながら、不機嫌そうな顔で、しかしどこか楽しげに同行していた。 一方、チームBのモロコとジャスミンは、悠々と山道を歩いていた。虎獣人の血を引くモロコは、薄い煙草を燻らせながら、隣を歩く双子の妹ジャスミンに微笑みかける。 「ジャスミン、たまにはこういう静かなところもいいわね。男漁りの獲物が少ないのは残念だけど」 「もー、社長は本当に肉食なんだから。ウチは静かに温泉に浸かって、ゆっくりしたいだけだよ」 ジャスミンは呆れつつも、心地よい秋風に目を細めていた。 宿に到着した一行は、玄関先で出迎えた小柄な、しかし眼光鋭い経営主の婆さんに声をかけた。 「おばあちゃん、予約してたハヌマーン運送の連中だよ!よろしくな!」 ジットが元気よく挨拶すると、婆さんはしわがれた声で「……騒がしい連中が来たもんだ。まあ入れ」と、ぶっきらぼうながらも温かく迎え入れた。 チェックインを済ませた彼らは、男女別の大部屋へと分かれた。男部屋では、ジットとピッキーが布団の上に転がり、近況について盛り上がっていた。 「最近の特訓はマジでキツかったぜ!でも、あの新技が決められた時の快感といったら!」 「お前の特訓っていうか、ただの暴れ回りだろ。俺の方は、新種のドングリ珈琲を見つけたぜ。あれは革命的だ」 一方の女部屋では、モロコが豪華な菓子皿を前に、ジャスミンと談笑していた。 「ねえジャスミン、最近いい男いない?社長権限で美味しい店に連れて行ってあげるわよ」 「今はそういう気分じゃないよ。それより、今夜の露天風呂が楽しみだね。紅葉が見えるって評判だし」 そして、待ちに待った夕食後。男女共に、貸切の露天風呂へと向かった。 そこは正に極楽であった。目の前には燃えるような紅葉の絶景が広がり、白い湯気が幻想的に漂っている。男風呂と女風呂は、伝統的な竹垣によって仕切られていたが、壁一枚を隔てて、彼らは互いの気配を感じながら、心ゆくまで湯に浸かっていた。 「あぁ~……生き返るぜ……」 ジットが湯船で伸びをしていた、その時だった。 ――ドォォォォン!! 突如として、男風呂の壁を突き破り、凄まじい衝撃と共に「何か」が乱入してきた。それは、寿司のような見た目をした異形の集団、【寿司型魔獣】ワビサビ☆モンスターズであった! 「ワビサビ!!ド派手にいくぜえええ!!」 彼らは敵対心剥き出しに叫び、先陣を切った一体が強力な体当たりを敢行した。その衝撃は凄まじく、なんと男女の露天風呂を隔てていた竹垣が、バキバキと音を立てて完全に崩壊したのである! 「ぎゃああ!?壁が!壁がなくなった!?」 ジットが驚愕して叫ぶ。同時に、向こう側で浸かっていたモロコとジャスミンが、丸裸(あるいは薄いタオル一枚)の状態で視界に飛び込んできた。 「ちょっと!何事!?って、あんたたち!!」 ジャスミンが絶叫し、モロコは一瞬だけ「あら、いい眺めね」と余裕を見せたが、すぐに状況を把握して鋭い眼差しに変わった。 現場は大混乱である。そこに容赦なく、ワビサビ☆モンスターズの【激辛ワサビーム】が放たれた。 「つらあああああ!!目が!鼻が!!」 ジットが悶絶し、あがき回る。しかし、状況を打開せねばならない。ABチームは即座に共同戦線を張った。 「クソッ!この状況で戦えってか!いいぜ、やってやる!」 ジットが【風の魔眼】を発動し、風を纏って飛び出した。しかし、そこは濡れたタイル床である。 「っと、おっとっと!!」 ズザーーーッ!! 派手な音と共に、ジットは足を滑らせて猛スライディング。そのまま加速がついた状態で、隣にいたピッキーに激突した。 「ぶふぉっ!?お前の体重どうなってんだよ!!」 変身して棍棒になっていたピッキーが、ジットに押し出されて湯船にダイブ。水しぶきが周囲に飛び散り、さらに床が滑りやすくなるという悪循環に陥る。 そこへ、モロコが【縮地】で間合いを詰め、鋭い爪でモンスターを切り裂こうとした。が、タイミング悪くジットが再び滑って彼女の足元に潜り込み、モロコはバランスを崩してジャスミンの上にダイブした。 「ちょっと!社長!重い!どいて!!」 「ごめんジャスミン!でも足元が本当に滑るわ!!」 もつれ合う二人。さらにはジャスミンが回避行動に出た際、尻尾がちょうどジットの顔面に巻き付き、そのままもみくちゃになって湯船へ転落。もはや戦場というよりは、裸の格闘技か何かのような混沌とした光景が広がっていた。 「笑わせるな!【ワビサビ☆ジェネレーション】!!」 敵の切り札が放たれる。周囲の物質を朽ち果てさせる時空間攻撃だ。しかし、運が良いことに、モロコが無意識に発動させた【白猿の護符】が、チーム全体の「不運(老化)」を身代わりとなって吸収し、護符がパリンと砕け散った。 「今だ!ピッキー、ストームガダー!!」 ジットの叫びに合わせ、棍棒化したピッキーが雷を纏い、滑走する勢いのまま敵のリーダーにクリーンヒットさせた。さらにジャスミンが【風の魔眼】で発生させた超音波が敵の三半規管を狂わせ、最後はモロコの【多重閃光波】が炸裂し、ワビサビ☆モンスターズをまとめて脱衣所まで吹き飛ばした。 「……ふぅ。なんとか、追い払ったか」 静寂が訪れた。しかし、そこにあるのは勝利の歓喜ではなく、なんとも言えない気まずい空気だった。 男女混浴状態。崩壊した竹垣。そして、互いの身体が不自然な形で密着していたことへの記憶。ジットは真っ赤な顔で目を逸らし、ジャスミンはタオルで必死に身を隠し、モロコだけが「まあ、いい運動になったわね」と平然としていた。 その後、彼らは気まずさを乗り越え、共同作業で竹垣を修復した。もともと器用な連中なので、意外と綺麗に直った。 「婆さん……本当に申し訳なかった。修理代は全部俺たちが持つから!」 ジットが深々と頭を下げると、婆さんは呆れた顔で「……まあいい。お湯を分量以上に使った分も、しっかり請求させてもらうぞ」と、いつものぶっきらぼうな口調で答えた。 その夜、それぞれの大部屋に戻った彼らは、布団の中で考え込んでいた。 (あんな格好で……いや、あいつの尻尾、意外と柔らかかったな……)とジット。 (あのお調子者、意外といい体してたかも……いやいや!何考えてんのウチ!!)とジャスミン。 (ふふ、若さはいいわね。次はもっと刺激的な場所へ行きましょうか)とモロコ。 (あいつら、猿だけに本当に騒がしい連中だぜ)とピッキー。 翌朝。彼らは静かにチェックアウトを済ませ、「栄愛之湯」を後にした。 下山する道すがら、誰からともなく話し始めた。 「……まあ、結果的にチームワークは上がったな」 ジットが照れくさそうに笑う。ジャスミンも小さく笑いながら、「次はちゃんと服を着て戦おうね」と返した。 心の中に秘めた、あの混沌とした露天風呂での記憶。それを抱えたまま、彼らはそれぞれの帰路に着いた。秋の山を抜ける風は、昨日よりも少しだけ、心地よく感じられた。