謎の洞窟、その最奥。そこは現世の理が通用せぬ地獄の底であった。視界を埋め尽くすのは煮えたぎる赤黒い溶岩の海であり、立ち昇る有毒な蒸気が空をどす黒く染めている。その溶岩の島、絶望の特等席に、それは鎮座していた。 橙色の剛躯に、天を突く巨大な二本の角。太古の昔、魔族の王として君臨し、自らに禁忌の進化を施した不老不死の最強生物――エスターク。 「グゴゴゴゴ…誰だ?我が眠りをさまたげる者は?」 地鳴りのような声が洞窟全体を震わせる。その眼光は虚無でありながら、絶対的な強者の威圧感を放っていた。記憶を失いながらも、その肉体に刻まれた「最強」という本能だけが、侵入者たちを拒絶する。 「我が名はエスターク…今はそれしか思い出せぬ…はたして自分が善なのか 悪なのか それすらも分からぬのだ…」 エスタークがゆっくりと身を起こすと、周囲の溶岩が激しく波打ち、猛烈な熱波が襲いかかる。対峙するのは、光と闇を纏いし勇者ニワトリ、時空を統べる黒騎士、不死身の生物兵器、影を操る暗殺者、舞い踊る格闘美少女、宇宙の深淵たるネクサス、そして天を埋め尽くす黄金の武具の群れ。 「私を滅ぼす為にやって来たのか?…私は滅ぼされるわけにはいかぬ。さあ、来るがよいっ!」 咆哮と共に、戦いの火蓋が切られた。エスタークの身体に黄金の輝きが走り、強烈な【マホカンタ】が展開される。魔法を拒絶する絶対の障壁である。 先陣を切ったのは勇者ニワトリだ。「コケコケーッ!」と快活に叫び、双剣を構える。光剣と闇剣が交差し、[輝くクラッシュ]がエスタークの巨躯を打った。同時に、時の破壊神騎士が【時空の針】を発動。一瞬、世界が静止する。黒黒剣がエスタークの胸元へ深く突き刺さった。しかし、エスタークは眉一つ動かさない。特性【自動回復】が即座に作動し、傷口が煙を上げて塞がっていく。 「ぬおぉぉぉ!!」 エスタークの猛攻が始まる。一度に三度の行動。まずは【いてつくはどう】が衝撃波となって広がり、勇者たちの強化状態を一瞬で消し飛ばした。次いで、巨大な剣を地面に激しく突き立てる【剣を突き立てる】! ズガガガガガッ!! 地割れと共に、地底から猛烈な爆炎が吹き上がった。爆風に煽られ、ハルカとホウジロウが空中に放り出される。そこへ容赦なく【地獄の業火】が放たれた。灼熱のブレスが溶岩地帯を焼き尽くし、広範囲を地獄の業火が飲み込む。生物兵器イルドがその火柱に正面から飲み込まれ、全身が炭化し、肉が溶け落ちる。しかし、彼は痛覚を持たない。溶けた肉の間から、凄まじい速度で新しい筋肉が盛り上がり、再生していく。 「アタシのターンだよ!」 ハルカがヘッドフォンを叩き、BPMを加速させる。ダンスステップと共に繰り出される衝撃波がエスタークの顔面を捉える。同時にホウジロウが【影の墓場】を展開し、戦場を濃密な闇で塗り潰した。影から影へ、ノコギリ状のナタがエスタークの足を切り裂く。さらにネクサスがダークマターのエネルギーを弾丸として撃ち込み、黄金の武具群が数百万本の剣となって雨のように降り注いだ。 しかし、エスタークは不敵に笑う。彼は深く息を吸い込んだ【息を吸い込む】。 (来る…!) 全戦士が直感した。エスタークが【ためる】ことでテンションを上げ、その力を凝縮させる。そして放たれたのは、【メラガイアー】。極大の火球が空を裂き、着弾した瞬間、核爆発にも匹敵する大爆発が洞窟を揺らした。黄金の武具が数万本単位で蒸発し、ニワトリ勇者が[極イオマータ]で対抗しようとするが、マホカンタに弾かれ、自らの爆風に巻き込まれる。 戦いは泥沼化した。エスタークの耐性は完璧に近く、雷系の攻撃は完全に無効化される。風系の攻撃も、その強靭な皮膚に弾き返される。一方、攻撃側は【冷たく輝く息】による絶対零度の凍結と、【地獄の竜巻】による切り刻み、そして【必殺の一撃】の即死威圧に晒され、絶望的な状況に追い込まれていた。 だが、唯一の好機が訪れる。勇者ニワトリが放った強力な眠り魔法が、奇跡的にエスタークの意識を刈り取った。最強の生物が、深い眠りに落ちる。 「今だぁぁ!!」 全員が全力を注ぎ込む。イルドが限界までパンプアップし、山のような拳でエスタークを殴りつけ、破壊神騎士が【時渡りにハカイする者】を唱え、時を止めた刹那に黒黒剣の最大出力を叩き込む。勇者ニワトリは双剣を交差させ、奥義〘極・切り裂く次元〙を放った。巨大なクロス型の斬撃がエスタークの身体を十字に切り裂く! しかし、その瞬間。眠っているはずのエスタークの身体が、どす黒い光を放った。 【怪しい光】! 眠り状態でのみ発動する耐性無視の無属性攻撃が、至近距離にいた全員を強襲した。凄まじい衝撃波が勇者たちを吹き飛ばし、絶叫が洞窟に響く。 そして、エスタークがゆっくりと目を開けた。その瞳には、もはや記憶の欠落による迷いはない。ただ、純粋な破壊への意志だけが宿っていた。 「……目覚めたぞ」 【目覚めの力】。エスタークが深く瞑想し、眠りし力を完全解放する。周囲の溶岩がすべて彼に吸い込まれ、両手の剣に濃密な獄炎が纏わりついた。彼はその二本の剣を、天高くへと投げ飛ばした。 ドォォォォォォン!!! 空中で交差した剣が、次元そのものを断ち切るX字の斬撃を地上に叩きつける。それはもはや技ではなく、天災であった。黄金の武具の群れが、その一撃で一斉に砕け散り、光の塵となって消えていく。ネクサスが本来の姿である宇宙的存在へと戻り、ダークマターの壁で防ごうとしたが、獄炎の斬撃はそれを紙のように切り裂いた。 爆煙が晴れたとき、そこにはX字の深い切り傷が刻まれた大地と、静かに佇むエスタークの姿だけがあった。 勇者ニワトリは剣を失い、破壊神騎士の鎧は砕け、イルドの再生速度を上回る焼灼傷が全身を覆っていた。ホウジロウは影に潜む間もなく正体を暴かれ、ハルカのヘッドフォンは砕け散っていた。 エスタークは、静かに剣を構え直す。 「我が名はエスターク。……強き者たちよ、我が眠りの礎となれ」 最後の一撃。地獄の底から突き上げる絶望の炎が、すべてを飲み込んだ。