「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて! お願い、あのお話!」 縁側で日向ぼっこをしていたお婆ちゃんは、膝の上でぴょんぴょんと跳ねる孫の様子に、ふふっと小さく笑いました。秋の陽だまりが心地よく、庭の金木犀がふわりと甘い香りを漂わせています。 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、いいよ。……昔々、遠い遠い場所で、とても不思議な対戦が行われたお話だね。これは、正義を追い求めた一人の男と、世界で一番小さくて偉大な王様のお話だよ」 お婆ちゃんはゆっくりと語り始めました。孫は興味津々に、身を乗り出して耳を澄ませます。 「まずね、チームAには『衛宮切嗣』という名前の、黒いコートを着た男性がいたんだ。彼はとても悲しいけれど、とても強い決意を持った人だった。彼はね、『正義の味方になりたい』と願っていたんだよ。でも、そのための道はとても険しくて、彼は誰よりも冷徹に、誰よりも効率的に戦う方法を身につけていたんだ。 彼が持っていたのは、たくさんの弾丸が入ったサブマシンガンと、遠くから狙い定めるライフル。そして、彼には特別な魔法のような力があった。相手の魔力を壊してしまう『起源弾』という恐ろしい弾丸と、自分の時間を加速させて、普通の人の何倍もの速さで動く『タイムアルター』という術を持っていたんだよ。 さて、対するチームB。こちらはね……ふふふ、とっても可愛いお相手だった。名前は『ぴよッぴよぴよ』さん。真っ白に輝く、ふわふわの羽毛に包まれた、小さなお雛様なんだ。でもね、見た目に騙されちゃいけないよ。この子は鳥類界、そして雛界の頂点に立つ、神々しい王様だったんだから」 「ええっ! ひよこちゃんが王様なの?」 孫が目を丸くして聞き返します。お婆ちゃんは優しく微笑んで続けました。 「そうだよ。このぴよッぴよぴよさんはね、ただ可愛いだけじゃない。その真っ白な羽は、あらゆる攻撃を跳ね返す盾になり、その冠羽は周囲の士気を高める神々しい光を放っていた。そして何より、その声一つで無数の雛たちを呼び寄せることができる、真の指導者だったんだよ。 さて、物語はここから始まる。二人は、広い草原のような場所で向かい合った。切嗣さんは、相手が小さな鳥であることを見て、最初の一瞬だけ困惑したかもしれないね。けれど、彼はプロだ。すぐに冷徹な目に戻り、ライフルを構えた。 切嗣さんはまず、遠距離から様子を伺った。彼は『正義』のために、効率的に敵を無力化しようとした。まずはサブマシンガンの乱射。タタタタッ!と激しい音が響き、数えきれないほどの弾丸がぴよッぴよぴよさんのもとへ飛んでいったんだよ」 「ひよこちゃん、大丈夫かなあ!」 「大丈夫だよ。ここからがぴよッぴよぴよさんのすごいところなんだ。切嗣さんが撃った弾丸は、ぴよッぴよぴよさんの純白の羽毛に触れた瞬間、まるで水面に跳ね返る石のように、ぴょんぴょんと弾き飛ばされた。それだけじゃない。羽毛の力で、攻撃がそのまま反射されて、切嗣さんの足元に弾丸が降り注いだんだよ。 切嗣さんは驚いたけれど、すぐに冷静に判断した。『物理的な攻撃が効かないなら、魔術的なアプローチを』と考えたね。そこで彼は、切り札である『トンプソンコンテンダー』を取り出した。相手がどれほど神聖な存在であろうとも、その回路を破壊する『起源弾』なら、一撃で終わらせることができるはずだと考えたんだ。 けれど、ここでぴよッぴよぴよさんが、小さく口を開いた。 『ぴよーッ!』 その可愛らしい、けれど凛とした一声が響いた瞬間、空から、地面から、どこからともなく、数えきれないほどの白い雛たちが、ふわふわと舞い降りてきたんだ。まるで白い雲が草原を飲み込むように、ぴよッぴよぴよさんの周りを、優しく、そして隙なく包み込んだ。切嗣さんの視界からは、標的である王様が見えなくなってしまったんだよ」 「わあ、ひよこさんの仲間がいっぱいだ!」 「そう、とっても賑やかだね。でも切嗣さんも諦めない。彼は『タイムアルター』を使った。自分の時間を二倍、三倍、そして四倍へと加速させたんだ。周囲の景色が止まって見えるほどの超高速移動。彼は雛たちの包囲網を潜り抜け、一瞬でぴよッぴよぴよさんの目の前まで肉薄した。そして、至近距離から起源弾を撃ち込もうとしたんだよ。 けれど、そこでぴよッぴよぴよさんは、さらに不思議な術を使った。それが『雛の大号令』だ。 『ぴッぴよぴッ!』 この号令とともに、今までふわふわしていた雛たちが、突然軍隊のように統率された動きを見せた。彼らはただの可愛い鳥ではなく、王の意志を完璧に共有する精鋭だったんだ。切嗣さんが加速して突っ込んできた瞬間、雛たちが完璧なタイミングで連携し、切嗣さんの足元にわざと転がったり、視界を遮るように羽ばたいたりした。超高速で動いているとき、小さな障害物は致命的なミスに繋がる。切嗣さんは、雛たちのあまりに統制された動きに、ほんの一瞬、バランスを崩してしまったんだ。 その隙を逃さなかった。ぴよッぴよぴよさんは、さらなる奥義を繰り出した。それが『王卵降臨』。なんと、その場で黄金に輝く卵を産んだんだよ。 切嗣さんは呆然としたね。『こんな状況で卵を……!?』と。でも、その卵は数秒後にはパカッと割れ、中から次世代の神雛が誕生した。その神雛は、親であるぴよッぴよぴよさんと共に、さらに強力な威圧感を放ち始めたんだ。二羽の神々しい輝きが合わさったとき、草原はまばゆい光に包まれたよ」 「光の中でどうなったの?」 「切嗣さんは、必死に戦おうとした。彼はアヴァロンの力で生命力を維持し、魔術の負荷を消し去って、最後の一撃を狙った。ライフルを構え、神雛と王を同時に貫こうとしたんだ。そして、ついに起源弾が放たれた。その弾丸は、空気を切り裂き、ぴよッぴよぴよさんの胸元を捉えた。完璧な射撃だった。普通なら、これで終わりだったはずだね。 けれど、ここからが『神の雛の血統』の本当の力だった。致命傷を受けたはずのぴよッぴよぴよさんは、一度だけ、完全に復活することができたんだ。光に包まれ、傷一つない姿で再び立ち上がった。切嗣さんは絶望したかもしれない。自分が出し切った最大の一撃を耐え、さらに復活してくる相手に、どう立ち向かえばいいのかとね。 そして、勝敗を決める最後のシーンがやってきた。 切嗣さんは、もう一度タイムアルターを使い、限界を超えた速度で肉薄した。しかし、そのとき、ぴよッぴよぴよさんは攻撃ではなく、『抱擁』を選んだんだ。無数の雛たちが、切嗣さんの体を、優しく、けれど逃げられないほどの強さで包み込んだ。『ぴよ〜ぴよぴよ……』という、世界で一番優しいさえずりが、切嗣さんの耳に届いた。 切嗣さんは、ずっと正義の味方になりたいと願い、そのために心を殺し、孤独に戦い続けてきた。けれど、この温かい雛たちの包囲に触れたとき、彼はふと、自分が本当に欲しかったのは、誰かを倒して得られる正義ではなく、こんな風に誰かに包まれる安らぎだったのかもしれない、と感じたんだよ。 彼は銃を落とした。戦う意志を失ったのではない。ただ、この圧倒的な『可愛さと慈愛』という暴力的なまでの優しさに、心が折れてしまったんだね。正義を追求して心を硬く閉ざしてきた彼にとって、無条件に自分を包み込む雛たちの温もりは、どんな起源弾よりも強力な一撃だったんだよ」 「切嗣さん、泣いちゃったのかな?」 「たぶんね。彼は静かに目を閉じ、雛たちに囲まれて、心地よい眠りに落ちていった。こうして、戦いは終わったんだ。物理的な破壊力では切嗣さんが勝っていたかもしれないけれど、心を動かし、相手の戦意を完全に消し去ったのは、ぴよッぴよぴよさんだったね。 というわけで、この対戦の勝利者は……チームBの『ぴよッぴよぴよ』さん。そして、彼に導かれた雛たちの軍団ということになったんだよ」 「すごーい! ひよこちゃんの勝ちだね!」 孫は大喜びして、自分の体を丸めて「ぴよーッ!」と叫んで見せました。お婆ちゃんは、その様子に目を細めて、孫の頭を優しく撫でます。 「ふふふ。強い力だけが勝ちじゃない、ということだね。優しさこそが、一番強い武器になることもある。……さあ、お話はおしまい。そろそろおやつの時間にしようか。今日は甘いお芋があるよ」 「わーい! お芋食べるー!」 秋の陽光が降り注ぐ縁側で、二人の笑い声がいつまでも響いていました。物語の中の切嗣さんも、きっと今はどこかで、たくさんの雛たちに囲まれて、穏やかな夢を見ているはずです。