【ホノカの章:紅い夜の散歩】 夜は吸血鬼にとって活動の時間だ。ホノカはオレンジ色の髪を夜風になびかせながら静かに街を歩いていた。吸血鬼の少女とはいえ、彼女の見た目はまるで人間そのもの。しかし、その内には長い年月培われた経験と知恵が眠っている。 「全く、面倒だわ…あんな吸血鬼の女王なんていつかやってやるんだから!」 ホノカは独り言をつぶやくと、改造されたモシンナガンを肩に担ぎ、商店街の終わりを目指して歩みを続けた。人々の夜の喧騒が聞こえてくるこの場所。彼女は気分転換にここを訪れることが多かった。吸血馬鹿には分からないこの静かな夜の賑わいが、なんとも心地よかったからだ。 ぷらぷらと歩き回るうちに、小腹が空いてきたホノカは、いつもの小さなパン屋に立ち寄ることにした。その店の店主の顔を見れば、昔から知っている人間のように親しげに話しかけてくれる。 「夜も暮れたのに、まだ起きてるんだね、ホノカちゃん。」 「ええ、少し退屈だったの。あなたこそ、こんな時間まで働いていて大丈夫なの?」 「大丈夫さ。これが仕事だからね。」 人間の知らない優しさにふれ、少しだけ癒されるホノカ。彼女は店主にパンをいくつか買い、また夜の街へと歩き出した。頭の中には再び、吸血鬼の女王のことが浮かんでくる。 「ふん、あんな奴、どうせ大したことないわ。私の方がずっと強いし、賢いもの!」 自分の中でひそかにそんな思いを抱きながら、ホノカは夜の街を歩き続ける。やがて、彼女は自分の住む小さな隠れ家に戻り、そこで夜明けまでの時間を過ごす。眠ることなく、夜をただ過ごすこの時間こそ、ホノカにとって重要な休息のひとときだった。 やがて遠くの空が白み始める頃になり、ホノカは重苦しい一日が始まることを感じる。朝の光は吸血鬼にとっては何ともわずらわしいものだ。それでも、彼女は今日もまた、女王を討つという本来の目的を胸に秘め、新たな夜を迎えるのを心待ちにしていた。