【ロマ・フォウン討伐戦 ~富士山決戦~】 富士の裾野を覆う夜霧が、まるで息を潜めるように揺れていた。月は雲に隠れ、山頂から吹き下ろす風だけが、これから始まる戦いの気配を運んでくる。 「ふふ…こんな夜更けに、山登りとはご苦労なこと」 霧の向こうから、涼やかで妖艶な声が響いた。銀の髪が月明かりもないのに淡く光り、黄金の瞳が二人の参加者を値踏みするように細められる。緑の軍服に黒の軍帽、豊かな胸元を押し上げるように軍服を纏ったその女こそ、羽学連盟・浪漫部隊の隊長、ロマ・フォウンであった。 「あなたたちが、私を討つために雇われた子たちね? 可愛らしいこと。……でも、ここまで来たご褒美に、少しだけ遊んであげてもいいわ」 一人目の参加者、ナルコトダマが、緑の長髪をかき上げながら口笛を吹いた。レザーコートの裾が風に揺れ、その背後で百を超える改造銃たちが淡い光を放ちながら宙へと浮かび上がる。 「ヒュー! 来た来た来た! 僕ちゃん、ずっとこの瞬間を待ってたんだよ! ねぇ、お姉さん、いい声してるじゃん? 僕ちゃんのステージのコーラスにぴったりだよ!」 もう一人の参加者、『撃攘卿』は、黒いコートの襟を立て、冷めた瞳でロマを見据えていた。その身から立ち上る気配は、まだ全力の一割にも満たないというのに、周囲の空気がひずむほどの圧を放っている。 「……騒がしいな。だが、いい。考えてやってもいい…俺に勝てたらな」 撃攘卿の言葉と同時に、彼の掌から漆黒の龍砲『ミストルテイン』が現れ、狙撃銃の形へと変じた。 「ふふ、勇ましい子たち。では、始めましょうか」 ロマが静かに右手を掲げる。掌に大量の魔力が渦を巻き、空気が悲鳴を上げるように震えた。 「――『魔力砲』」 次の瞬間、白い閃光が夜を裂いた。音すら遅れて届くほどの超速の奔流が、富士の斜面を一直線に薙ぎ払う。木々も岩も、そこにあったもの全てが一瞬で消滅し、後に残るのは赤熱した大地だけだった。周囲の地形を気遣って手加減していると言うが、その威力はまさに山そのものを消し飛ばす規模であった。 「おっと! 危ないなぁ、もう! 僕ちゃんのヘアスタイル、ちょっと乱れちゃったじゃん!」 ナルコトダマは宙に浮く銃群を一斉に操り、音楽を奏でるように照準を切り替えた。銃声が重なり、弾丸の嵐がロマへ殺到する。しかしロマは軽く微笑み、魔力の障壁を展開する間もなく、掌を振るうだけで弾を消し去った。 「可愛らしい音楽ね。でも、少し騒がしすぎるわ」 「いやいや、お姉さんこそ自慢の魔法、見せてくれちゃって。僕ちゃん、ワクワクが止まらないよ!」 一方、撃攘卿は霧の中で微動だにしなかった。彼の視界には、無数の計算によって組み上げられた3Dホログラムが展開されている。ロマの動き、魔力の流れ、呼吸のリズムまでもが、彼の内で精密な軌道へと変換されていく。 「……ロック」 低く呟いた瞬間、ロマの身体に見えない枷が嵌められた。照準も遮蔽物も関係なく、どこへ逃げようとも弾丸が必ず当たる状態。ロマの黄金の瞳がわずかに見開かれる。 「へぇ……面白いことをするのね、坊や」 「坊やではない。撃攘卿だ」 撃攘卿の銃口が火を噴いた。放たれた弾丸は時空そのものを歪ませ、因果の糸を断ち切るような異質の衝撃を伴ってロマへと迫る。 ロマは魔力砲を今度は連続で放ち、弾丸を迎え撃つ。しかし、撃攘卿の弾は魔力砲の奔流を貫いて突き進み、ロマの肩を掠めた。軍服が裂け、白い肌に赤い線が走る。 「……ふふ、痛いわ。久しぶりね、こんなに胸が高鳴るのは」 「まだ一割だ。見せるのはその後だ」 戦場が激しく揺れ動く中、ナルコトダマの銃群が一斉に爆音のようなビートを刻み、撃攘卿が狙撃の位置を変える。二人の連携は奇妙なほど噛み合い、ロマを追い詰めていく。 「楽しいわ……本当に、楽しい。けれど、そろそろ終わりにしましょう」 ロマの掌に、先ほどとは比較にならない魔力が収束した。空間が軋み、富士の空が白く塗り潰されていく。 「――『超魔力砲』」 光が世界を満たした。山頂が消し飛び、雲が割れ、大地が鳴動する。その中心で、ナルコトダマは最後まで踊るように銃を掲げ、撃攘卿は冷たい瞳で光を睨みつけたまま、ついに意識の彼方へと消えていった。 光が収まった後、富士山の山頂は大きく抉られ、そこにはロマ・フォウンただ一人が佇んでいた。 「……あなたたちの健闘、確かに見届けたわ。おやすみなさい、小さな挑戦者たち」 夜風が吹き抜け、霧が晴れていく。銀の髪をなびかせて去っていくロマの背中を、月明かりだけが静かに照らしていた。 【登場人物の生死】 ナルコトダマ:死亡 撃攘卿:死亡 ロマ・フォウン:生存