第1章: 出会いの種 果樹永 平八郎は、広大な土地に広がる畑の真ん中にひざをつき、静かに土を耕していた。彼の頭には白いタオルが巻かれ、過酷な日差しから自身を守っている。 「やぁ全く、69にもなってやっと人生の華が来るなんて、きっとオラもこの種も遅咲きなんだろぅ?」彼は声を出して、自分を励ますように笑い、手に持つ小さな種を見つめた。果樹永にとって、その種は特別なものであった。かつてアイスクローバーと呼ばれるこの植物は、長い間忘れられていたが、平八郎だけがその存在を知っていた。 周囲には穏やかな風が流れ、ちらちらと緑の葉が揺れている。彼は再び、あの人—かつて友人だった光英のことを思い出していた。光英はWW2からタイムスリップしてきた男で、平八郎が人生の中で出会った中で最も特異な人物だった。彼の高いIQと冷静な性格は、平八郎にとって心強い存在であったが、何故あの時彼が去ってしまったのか、未だにその理由が分からなかった。 「でも、アイスクローバーなんてお前さんどういう訳なんだい、?」という声が、突然響いた。振り向くとそこには、光英が立っていた。彼の姿は、不思議と変わらなかった。無表情な彼が畑に近づいてくると、一瞬、果樹永の心のときめきが高まった。 「日本は…戦争で勝ったんだろうな?」光英が言った。まるで彼なりの確認をしているようだった。出会えたことの喜びを感じつつ、平八郎は少し戸惑った。 「光英…お前、どうしてここに?」思わず彼は声を上げた。だが、光英は何も言わず、静かに立っていた。やがて雲が流れ、日差しが一層強くなった瞬間、光英の目の奥に何かを見つけた。 「オラ、アイスクローバーの種を育てようと思っているんだ」言葉を続けた平八郎。 光英はきょとんとしたあと、少し首をかしげた。「それは特別なものか?」興味を持ったようだ。彼の目は冷静さを保ったまま、ただの疑問を残していた。平八郎は頷き、種を彼に見せた。「文献にも載っていない薬草なんだ。たった一つ、オラが育てられるかもしれん」 その時、光英の表情が突如変わった。「なら、その種、オレに渡してくれ」と言い放った。平八郎は驚いたが、すぐにその意味を理解した。彼はアイスクローバーを育てること、そしてそれを他者に渡すことができる唯一の人間だ。だが、心の中には過去の重圧と、新たな期待が交錯していた。果樹永は、光英が自分をどう扱うか心配となったのだ。 「お前にはこの種がふさわしい気がするんだ。ほら、受け取れ」彼はしばらく躊躇ったが、結局、彼は光英に種を渡した。 「オラはお前を信じるが、どうしてここまで来たのか教えてくれ」という問いかけに、光英はただ深い青の目を向けるだけで言葉を発しなかった。 突然、空気が変わった。周囲が震え、白い光が二人の間で弾けた。平八郎の畑は、光英の周囲に集まるように変形し、謎の力が彼らを引き寄せていた。二人の運命が今、交差してしまったのかもしれない。 そして、それを契機に彼らを待ち受ける試練が始まろうとしていた。