現代の喧騒が渦巻く国際空港。そこには、およそ旅路とは無縁に見える異様な一行が、入国審査へと続く荷物検査の列に並んでいた。 「ふふっ、空港っていうのは不思議な場所ですね。みんな緊張した顔をしていて、まるで戦場のような緊張感があります」 空色のツインテールを揺らし、エニールちゃんが機械的ながらもどこか楽しげな声を出す。彼女の黄橙色のエプロンドレスの下には、プラズマライフルとシールドドローンという、空港のセキュリティを根底から破壊しかねない兵装が格納されていた。 その隣で、クリーム色の髪をなびかせた柳ユウが、興味津々に周囲を見渡していた。彼女の視線は、列の先にあるX線検査機に釘付けだ。 「ねえ、あの機械の構造、面白くない? 内部のセンサーの感度とか、どうなってるんだろう。分解してみたいなぁ……」 ユウの手には、何でも解体できる超高性能ドライバーが握られている。さらに彼女の背後には、変形機構を持つ1トンもの重量を誇る巨大ハンマーが、物理法則を無視した魔術的な隠蔽術(あるいは単なる強引な梱包)によって「大きな旅行カバン」として積まれていた。 そして、そのさらに後ろで、深い溜息をつく大柄な男がいた。黎天の竜人ルアである。彼は死に場所を求めて旅を続けているが、今回もまた、生への執着など微塵もないはずの彼を、強靭な生命力が現世に繋ぎ止めていた。 「……ここが俺の死に場所か。金属探知機に引っかかり、警備員に拘束され、暗い独房で静かに果てる……それもまた一つの終焉かもしれんな」 彼は自嘲気味に呟く。しかし、彼の身体能力と「見切り」の技術は、もはや無意識レベルで「どう動けば検知されないか」という最適解を導き出していた。 列の最後尾には、異様な威圧感を放つ球体が浮遊していた。王立魔法アカデミーの欠陥兵器、キリキザミである。感情はなく、ただ視認した者を斬るというプログラムのみに従うこの球体は、全身が文字通り「刃物の塊」であった。もはや隠すという概念すらなく、ただ物理的にそこに存在するだけで凶器である。 「あ、次の方どうぞー」 職員の気だるげな声が響く。 最初に向かったのはキリキザミだった。浮遊しながら金属探知機のゲートをくぐろうとした瞬間――。 『ピーーーーーーーー!!!』 空港中に鳴り響き渡る、最大音量の警告音。探知機は処理能力の限界を超えた金属量に悲鳴を上げ、赤色灯が激しく回転した。 「おい! 待て! 何だその球体は! 危険物だ! 連れて行け!」 警備員たちが怒涛の勢いで駆け寄り、キリキザミを特殊な拘束ネットで包囲する。キリキザミは無感情に回転して抵抗しようとしたが、あまりに真っ向から検知されたため、なすすべなく連行されていった。最初の一人が、あっけなく脱落した。 「あらら……。あの方は正直すぎましたね」 エニールちゃんがクスクスと笑う。彼女の番が来た。 エニールちゃんは、自身の内部回路を高速演算させ、プラズマライフルのエネルギー出力を一時的にゼロにし、金属アーマーの電磁波を外部に漏らさないようナノマシンでコーティングした。 (学習データより、この種のセンサーは特定の周波数を検知します。それを相殺すれば……) 彼女がゲートをくぐると、探知機は沈黙した。完璧な擬態。彼女はにこやかに手を振り、検査場を通過した。 続いて、柳ユウの番だ。 彼女は内心ドキドキしていた。だって、背中のカバンには1トンのハンマーが入っているのだから。 「(大丈夫、このカバンの遮蔽材は私が改造した特製だから!)」 ユウはわざとらしく、エニールちゃんに向かって「あの子、本当に可愛いわね!」とデレデレしながら意識を逸らし、軽やかな足取りでゲートを通過。探知機は反応せず、彼女は見事に突破した。 最後に残ったのはルアである。 彼はゆっくりとゲートに向かった。彼の身に纏う装備こそ少ないが、竜人としての強固な肉体と、潜在的な魔力がセンサーに反応する可能性がある。 (……来るか) ルアは「先読み」と「危険察知」をフル稼働させた。センサーの走査線が体を通り抜ける瞬間、彼は筋肉の収縮と呼吸法を極限まで制御し、身体的な「ノイズ」を完全に消し去った。静寂の中、彼は一歩を踏み出す。 ……静かだった。 「……チッ。またしても、死ねなかったか」 ルアは深く落胆しながらも、悠然とゲートを通り抜けた。 【結果】 キリキザミ:検知(敗北) エニールちゃん:通過(勝利) 柳ユウ:通過(勝利) ルア:通過(勝利) 勝敗の決め手は、「隠匿の意思」の有無であった。己が武器であることを隠そうともせず、ただそこに在ったキリキザミは、現代科学のセンサーという最も単純な敵に屈したのである。