秋の陽光が、東洋の深い山々を黄金色に染めていた。紅葉が燃えるように赤く、山間にひっそりと佇む老舗旅館「栄愛之湯」へと続く道は、静寂と自然の美しさに満ちている。 チームAのフランクマンは、サングラスをずらしながら煙草を燻らせ、緩い足取りで山道を歩いていた。「いやぁ、こういう静かな場所は性に合うね。デスマッチの泥沼に比べりゃ、天国みたいなもんだ」 その隣では、フィオリアが興味津々に周囲の植物を観察していた。「まあ、見てくださいフランクマンさん。この苔の生え方は非常に珍しいです。瓶に採取して、研究室で培養してみましょう」 一方のチームBは、対照的な空気が漂っていた。「いい加減に歩きなさいよこの鈍鈍!足が棒になるわ!」と、水色のドレスを翻し、アリスが怒鳴り散らしている。彼女にとって山道という不便な環境は、耐え難い屈辱であった。 「まあまあ、アリス様。お疲れのご様子で……。私も空虚でございますから、この静寂に浸りたいところですけれど」と、ラブカが疲れ切った表情で、それでいて艶然とした微笑みを浮かべながら、大量の武装をコートの下に隠して歩いていた。 四人が旅館の暖簾をくぐると、そこには古風な佇まいのロビーと、腰の曲がった小柄な婆さんが待っていた。 「おや、賑やかなお客さんだねぇ」 「チェックインお願いするよ、婆さん。ここが噂の名湯だってな」 フランクマンが気楽に声をかけると、婆さんはしわしわの手で台帳を広げ、手際よく手続きを済ませた。 男女別々に分けられた大部屋。男性陣(フランクマン)と女性陣(フィオリア、アリス、ラブカ)は、畳の香りが漂う部屋で近況報告に花を咲かせた。 「あら、フィオリアさん。その杖、なかなか面白い構造をしていますね」とラブカが目を細める。 「ふふ、ありがとうございます。最近は新しい錬金薬の調合に凝っていまして。アリスさんも、ぜひ試飲してみませんか?」 「いらんわよ!私は淑女として、最高級の紅茶しか口にしないわ!」 アリスは怒鳴りながらも、どこか心地よさそうに布団の上にどさりと寝転がった。フランクマンの方は、隣の部屋で一人、天井を見上げながら「ま、たまにはこういう贅沢も悪くない」と、久々の休息に深く溜息をついていた。 そして、待ちに待った夕食後。宿の自慢である貸切露天風呂へ。 紅葉が鏡のような湯面に映り込み、幻想的な景色が広がっていた。男女は竹垣一枚を隔てて、それぞれの湯船に浸かっていた。 「極楽だなぁ……」と、フランクマンが目を閉じ、心身を弛緩させていたその時。彼の【感知】が、強烈な殺気と異質な機械音を捉えた。 「……ッ!?」 ドガァァァァン!! 突如、旅館の壁を突き破り、巨大な戦車『M60A3』が露天風呂へと乱入した。車砲塔の上には、不気味に触手をうねらせた巨大なタコ――ミミッククラーケンが居座っていた。 「キュルルルッ!!(潰せ!)」 主砲が至近距離で火を噴き、衝撃波と共に男女の露天風呂を隔てていた竹垣が粉々に粉砕された。 「きゃあああ!?」 「なっ、何事ですきゃ!!」 視界が開けた瞬間、そこには全裸のフランクマンと、同様に全裸(あるいはそれに近い状態)の女性陣が互いに目を見合わせるという、地獄のような混沌が訪れた。しかし、敵は容赦ない。ミミッククラーケンは戦車から触手を伸ばし、湯船に浸かる一同を捕食しようと襲いかかる。 「このっ、不作法なイカ野郎!!私の入浴時間を邪魔した罪は万死に値するわ!!」 アリスが激怒した。彼女の【激怒】スキルが発動し、能力値が指数関数的に跳ね上がる。 「【ワンダーランド】!ここでは私のルールが絶対よ!『全裸で戦うのは恥ずかしいから、不可視の服を着る』こと!」 瞬間、アリスの周囲に不可視の障壁が展開されるが、状況は混乱の極致だった。 「ラブカさん、援護を!」フィオリアが慌てて湯船から飛び出し、アイテムボックスから杖を取り出そうとしたが、濡れた床で足を滑らせ、派手に転倒。「あうっ!?」 「おっと、危ないわね」 ラブカが助けようと手を伸ばしたが、彼女自身も石鹸の泡で足を滑らせ、フィオリアの上に重なる形でダイブした。もつれ合う二人。そこにミミッククラーケンの触手が襲いかかる。 「危ねえ!」 フランクマンが火事場の馬鹿力を発揮し、フィオリアとラブカを抱えて飛び退いた。しかし、着地地点はちょうど湯船の縁。勢い余って三人まとめて、再びドボォォン!と湯の中に沈んだ。 「ちょ、どこ触ってるのよ!!」 「す、すみません!つい反射的に!」 もがく三人。その隙にミミッククラーケンが主砲を放とうとするが、アリスが【♠重力操作】で戦車を無理やり地面にめり込ませた。 「【首をはねろ!】」 アリスの不可視の刃が、戦車の砲身という「機能の根幹」を概念的に切断した。爆発的な衝撃が走り、戦車は機能停止。しかし、本体のタコが激怒し、触手でアリスを捕らえようとする。 「今だ!フランクマンさん!」 フィオリアが【レイブンストライク】を放つ。闇の鴉がタコの触手を激しく突き、隙を作った。 「よっしゃ、乱撃だ!」 フランクマンが飛び出す。しかし、濡れた床という地獄。踏み出した足がツルリと滑り、彼は加速したままラブカの背中に激突。そのまま二人で回転しながらタコに突っ込んでいった。 「ひゃうんっ!?」 ラブカは咄嗟にレイピアを抜き、回転の遠心力を利用して【その身体に'空虚'を刻んであげるわ】を繰り出した。超高速の突きがタコの吸盤を正確に貫き、さらにフランクマンの【乱撃】が、滑った勢いそのままにタコの頭部に17回叩き込まれた。 「ガッ……キュル……!!」 最後はアリスが巨大化し、文字通り「足で踏み潰して」ミミッククラーケンを戦車ごと床に圧し潰した。静寂が戻った露天風呂には、ボロボロの戦車と、気絶したタコ、そして何とも言えない空気感で互いに密着し合っている男女が残されていた。 「……あー。最悪」 アリスが頬を赤く染めて、ため息をついた。 戦闘後の余韻。濡れた身体に冷たい夜風が吹き抜け、彼らは気まずい沈黙に包まれた。誰が誰にどこを触ったか、誰が誰の上にいたか。それを口にするのはあまりに恥ずかしすぎた。 「……とりあえず、竹垣を直そうか」 フランクマンが気まずそうに提案し、四人は共同で、辺りに散らばった竹片を集めて急いで修復作業に当たった。フィオリアの魔術で接合し、ラブカが手際よく固定する。なんとか形になったところで、彼らは宿の婆さんのもとへ向かった。 「本当に、申し訳ございませんでした……」 深々と頭を下げる一同。婆さんは呆れた顔をしていたが、「まあ、たまには賑やかなのもいいわねぇ」と、意外にも寛大に許してくれた。 それぞれの部屋に戻った後。 フランクマンは布団の中で天井を見つめ、自分の手の感触を思い出して、「……あー、ありえねえな」と独り言を漏らした。 フィオリアは顔を真っ赤にして枕に顔を埋め、「錬金術の研究より、心拍数の制御を研究し直すべきかもしれません……」と悶えていた。 アリスは布団を頭まで被り、「あんなの、あんなの、事故よ!絶対に事故なんだから!!」と叫んでいたが、その耳まで真っ赤だった。 ラブカは、いつもの空虚感に加えて、少しだけ「心臓が騒がしい」という未知の感覚に戸惑いながら、静かに目を閉じた。 翌朝。 チェックアウトを済ませた四人は、旅館の門前でそれぞれの帰路につこうとしていた。 「……まあ、たまにはこういうのも悪くないね」 フランクマンが煙草に火をつけ、軽く手を振る。 「次は、もう少し静かな宿を選んでくださいね」とフィオリアが微笑む。 「次なんてないわよ!バカ!大馬鹿!!」とアリスが怒鳴るが、その声にはいつもの刺々しさがなかった。 「ふふ、またどこかでお会いしましょう」 ラブカが艶やかに、けれど少しだけ照れくさそうに手を振った。 それぞれが異なる方向へと歩き出す。胸の中に、言葉にできない「何か」を抑え込んだまま。紅葉の山道を下る彼らの背中は、来た時よりも少しだけ、親密な空気を纏っていた。