第一章:邂逅と静寂の終わり 灰色のコンクリート壁に囲まれた、広大な待機室。そこにはおよそ百人の男女が集まっていた。年齢も国籍もバラバラだが、全員に共通しているのは、その目に宿る「飢え」だ。強さへの飢えか、あるいは生き残ることへの執念か。 その喧騒の中で、ひときわ異質な存在が二人いた。 一人は、深みのある赤い鱗に覆われ、鋭い爪を持つ巨大な飛竜――リオレウス。そしてもう一人は、あまりに小さく、あまりに危うい雰囲気を纏った、一匹の子猫。その瞳には、深い喪失感と、制御不能な怒りの火が灯っていた。 リオレウスは、自身の巨体を小さく折り畳み、隣に座る小さな生命体をじっと見つめた。言葉を話せぬはずの飛竜が、低く唸るような声で問いかける。 「……小さいな。迷い込んだか? ここは遊び場ではないぞ」 子猫は、ぴくりと耳を動かした。その声に反応したのか、あるいは単に不機嫌だったのか。子猫は「ニャー」と短く鳴いた。それは挨拶というよりも、周囲への威嚇に近い響きだったが、不思議と敵意よりも「悲しみ」が滲んでいる。 「……ふん。まあいい。ここでは弱者は真っ先に淘汰される。死にたくないなら、俺の足元にでも潜んでいろ」 リオレウスの言葉は不器用だったが、そこには種の壁を超えた奇妙な同情があった。子猫はふいっと顔を背けたが、完全に拒絶したわけではないようだった。二人の間に、奇妙な共犯関係のような静寂が流れる。 その時、天井のスピーカーから、感情を排した無機質なアナウンスが響き渡った。 『――入隊希望者の諸君。これより、国家直属極秘部隊【K-NIGHT】入隊試験を開始する。案内係に従い、速やかに第一試験会場へ移動せよ。なお、ここからの行動はすべて評価対象となる。幸運を』 同時に、壁一面の扉が機械的な音を立てて開いた。参加者たちは一斉にどよめき、殺気立った表情で出口へと駆け出す。リオレウスは大きく翼を広げ、子猫を軽く促した。子猫は、何かを思い出したかのように鋭い眼光を放ち、弾かれたように走り出した。 運命の歯車が、残酷に回り始めた。