自由の海賊と幼き剣姫のドタバタ対決 広大なアリーナは、突然の海風が吹き抜ける不思議な空間だった。波の音が響き、遠くに船のシルエットが見えるような錯覚を起こさせる。そこに、二人の少女が立っていた。一方は青い海賊服を翻し、サーベルを腰に下げた美少女、ラメール・サフィール。もう一方は訓練用の軽い鎧を着け、小さな剣を握りしめた幼い姫、リアン・ヴァレンティナ。どういうわけか、この二人は「対戦」する羽目になっていた。でも、戦う気なんて、二人ともゼロに近かった。 ラメールはアリーナの中央で、大きく息を吐いた。「はあ、なんだこの場所。海の匂いがするけど、船はねえのかよ。オレのサファイア号はどこだ? 乗組員の奴ら、今頃酒場で大騒ぎしてんのかな。いや、待てよ、オレがいねえと寂しがってんじゃねえの? 面倒見てやらねえと、みんなバラバラになっちまうぜ。自由の海が待ってるのに、こんな変なリングで何すんだよ……」彼女の頭の中は、すでに戦闘のことなんか忘れて、船員たちの顔が浮かんでいた。次は誰に酒を振る舞おうか、なんて雑念がぐるぐる回る。青い髪を風に揺らし、サーベルの柄に手をかけつつも、目線はアリーナの端っこにある謎の貝殻に飛んでいた。「あれ、綺麗な貝だな。土産に持って帰ったら、子分どもが喜ぶか? いや、でも海賊のオレが貝殻集め? 笑われちまうぜ……はは、でも可愛いよなあ。」 対するリアンは、隅っこでぴょこんと座り込み、訓練用の剣を地面に突き立てて支えにしていた。彼女の小さな手は震え、大きな瞳には涙が溜まり始めている。「やだ……ここ、怖いよぉ……お父様、どこ? お母様の騎士団長のところに帰りたい……クリームシチューが食べたいな。温かくて、ふわふわのクッキーと一緒に……あ、でも今は戦うんですよね? 剣、振らなきゃいけないの? 嫌だよ、痛いことなんてしたくないよぉ……」リアンの心は、戦いの緊張なんかより、朝食べたクッキーの甘さが恋しくてたまらない。父親の国王アルフの優しい笑顔を思い浮かべ、ぬいぐるみを抱きしめたい衝動に駆られる。でも、ここにはぬいぐるみがない。代わりに、地面の小石を拾って、そっと撫でてみる。「この石、ぬいぐるみみたい……ふふ、名前つけてあげようかな。ミスター・ロックさん? あ、でも戦いの最中に名前つけるなんて、変だよね……お母様に怒られちゃうかな……」彼女の思考は、どんどん脱線。剣を握る手は緩み、ただぼんやりと空を見上げて、雲を羊に例え始める。「あの雲、ふわふわの羊さんだ……お父様と一緒に牧場に行きたいな……あれ? 私、王女なのに牧場? 変な夢見てんな、私……」 ラメールはそんなリアンの様子を見て、首をかしげた。戦う相手がこんなに小さくて弱々しいなんて、予想外だ。彼女は大雑把に肩をすくめ、荒い声で呼びかける。「おい、そこのチビ! お前、こんなところで何やってんだ? 泣きそうな顔してんじゃねえよ。オレはラメールだ、海賊の船長だぜ! 自由の海を駆け回ってるんだ。ほら、立って立って。戦うんだろ? でもよ、オレ、こんな小さい子に本気出す気ねえよ。なんか、お菓子でも食わせてやりてえな……あ、待てよ、オレの船にクッキーあったか? 乗組員の奴が焼いたやつ、甘くてうめえんだよな。いや、でも今は戦いか。面倒くせえ……」ラメールの頭の中は、クッキーの味でいっぱい。戦うより、相手を船に連れてって面倒見てやりたい気分が膨らむ。海賊らしからぬ善性が、彼女の心を優しく揺らす。「自由ってのはよ、泣き虫を放っとかねえって意味だぜ。よし、軽く剣振ってみっか。サーベル、久しぶりだな。お前も海の風感じてえだろ?」 リアンはラメールの声にびくっと反応し、慌てて立ち上がった。でも足がもつれて、すぐにコケそうになる。「ひゃっ! ご、ごめんなさい……私、リアンです。王女なんですけど……戦うの、怖くて……お姉さん、海賊さんなんですか? かっこいい服ですね。青くて、キラキラしてる……私もそんな服着てみたいけど、お母様が訓練用の鎧しか許してくれないの。はあ、クリームシチュー食べながらお話したいな……あ、でも今はダメだよね。剣、振りますね……えいっ!」リアンは弱々しく剣を振り上げ、ラメールに向かって突進……しようとした。でも、途中で足を滑らせ、ただのつまずきで転がるだけ。心の中では、「お姉さんの服、自由そう……私も海に行ってみたいかも。でも波が怖いよぉ。船酔いしちゃうかな? あ、船酔いしたらお父様が背中さすってくれるかな……いや、集中、集中! でも集中できないよぉ……」と、戦闘とは無関係の妄想が渦巻く。 ラメールは笑いながら避けた。彼女の素早さは、こんな子供の動きなど軽くかわす。「ははは! おいおい、転がってんじゃねえよ! オレのワイヤードッジなんか使わなくても楽勝だぜ。ほら、立てよ。オレも何かやってみるか……リベリオンサーベル、行くぜェ!」ラメールはサーベルを抜き、豪快に一閃。でも、わざと空振り気味に、リアンの近くの地面を斬るだけ。土が舞い上がり、リアンは悲鳴を上げて後ずさる。「きゃあ! 怖いよぉ! お姉さん、強い……私、負けちゃう……でも、負けたらお菓子食べられるかな? クッキー、想像したらお腹すいちゃった……あ、戦いの最中に空腹? 私、バカだなぁ……」リアンの思考は食欲に脱線。涙目で剣を握り直すが、手が震えてまともに構えられない。 二人はそんな感じで、戦闘と呼べるかどうかも怪しいやり取りを続ける。ラメールは攻撃を仕掛けつつ、「おい、チビ! お前、剣姫だって? もっと気合い入れろよ! オレの船員みてえに、自由に生きてみろって! あ、でもオレの船員、みんな酒飲みすぎて寝ちまうんだよな。昨日も一晩中宴会でさ、朝起きたら甲板がビールまみれ……はは、懐かしいぜ。自由の海ってのは、そんなバカ騒ぎの連続だ。こいつと一緒に宴会したら、泣きながらクッキー食うのかな? 面白そ……」と、独り言が止まらない。リアンは逃げ回りながら、「お姉さん、優しい……本気で攻撃してこないの? 私、もっと訓練しなきゃ。お母様みたいに強くなりたいけど、怖いよぉ……お母様の鎧、ピカピカでかっこいいよね。私のもピカピカに磨こうかな。でも磨くの面倒くさい……あ、面倒くさいって思う私、騎士に向いてないかも……」と、心の中でぐるぐる。 しばらくして、リアンは疲れ果て、隅に座り込んでしまった。彼女の行動パターン通り、涙ぐみながら膝を抱え、精神安定化を始める。「うう……もう無理……お父様、助けて……」ラメールはそんなリアンを見て、サーベルを収めた。「おいおい、座り込んじゃうのかよ。オレも戦うの飽きてきたぜ。海賊のオレが、こんな泣き虫相手に本気出すなんて、自由じゃねえよな……よし、終わりだ。オレの勝ちでいいだろ?」でも、ラメールの頭はすでに次の冒険へ。「このチビ、船に乗せてえな。面倒見て、強くなるまでオレが守ってやるか。乗組員増えたら、宴会が賑やかになるぜ……あ、でも王女だから、国王に怒られるかな? 面倒くせえな、オレの善性め……」 勝敗の決め手となったシーンは、意外と単純だった。リアンが座り込んで動かなくなった瞬間、ラメールは軽くリーブルバレットを地面に向かって撃ち、土煙を上げてリアンを驚かせただけ。それでリアンは「ひゃあ! もうダメぇ!」と完全にギブアップ。ラメールは笑いながら手を差し伸べ、「ほら、立てよ。次はオレの船で遊ぼうぜ!」と声をかけた。二人は戦いそっちのけで、友情の芽生えを感じるような、ドタバタの交流を終えた。戦闘なんて、最初から本気じゃなかったんだ。